NHKの新世代が動き出した 彼らのよるドラ「だから私は推しました」が熱い理由 最年少プロデューサー編

よるドラ「だから私は推しました」より 写真提供:NHK

よるドラ「だから私は推しました」(NHK総合 土よる11時30分~)はテレビ離れが進む若年層に向けた“よるドラ”第3弾。これまで、ゾンビもの「ゾンビが来たから人生見つめなおした件」、LGBTの恋愛を描いた「腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。」が放送され話題になった。

「だから私は推しました」は地下アイドルとそのファンの青春物語……と思ったら、それだけでなくサスペンスの要素も盛り込まれ、どこに向かうのかわからない不思議な刺激のあるストーリーだ。地下アイドルに夢中になるヒロイン愛(桜井ユキ)がどこに行き着くのか最後までわからない。

プロデュースを担当したのは、大阪拠点放送局(当時)の高橋優香子さん。ドラマがはじまったとき、NHK最年少プロデューサーと話題になった二十代だ。兵庫県生まれの東京育ち。大阪局で「朝ドラ」3本、「土曜ドラマスペシャル」1本に参加して、今回、初プロデュースとなる。理系女子で「情報処理力の桁が違う」と広報スタッフが証言する。

演出は三人で、チーフ演出は三十代の保坂慶太さん。今回初チーフ演出となる。若手中心でつくった“よるドラ”。高橋さんと保坂さんに最終回目前に聞いた、「だから私は推しました」に賭けた思いとNHKドラマへの思いをドラマ最終回直前にお届けします。

最年少プロデューサー高橋優香子が登板したわけ

Q:そもそもアイドルオタクのお話だとばかり思って試写に伺ったら、サスペンス色が濃くてびっくりしたんです。

高橋「私が企画を立てた段階では、アイドルとそれを支えるオタク側のお話を美しく描いていくことを主軸にしていましたが、チーフ演出の保坂慶太と話す中で、アイドルやオタクに興味がない方にも楽しんでもらえるものにしようと方向性の転換を図りました。結果的にアイドル要素を楽しんでくれる人も、サスペンス要素を楽しんでくれる人も、両方を楽しんでくれる人もさまざまで、うれしく感じています」

深夜帯ということ、同時間帯にドラマが三本並び、人気バラエティー番組などもあるなかで、“よるドラ”三作とも世帯視聴率は健闘しているようだ。第四作の放送も発表された。待機中の四作目も含め、「だから私は推しました」が唯一、大阪局の制作だ。

Q:そもそも東京でずっと制作されているものと思っていたら、大阪制作でした。どういう流れで大阪局でやることになったのでしょうか。

高橋「“よるドラ”最初の作品『ゾンビが来たから人生見つめ直した件』が放送になったのが2019年1月。その前年、18年の頭ぐらいから、新枠立ち上げの企画が動き出していて、東京や大阪、名古屋のドラマ班に在籍する有志による、 “よるドラ”企画ミーティングを電話会議のような形で定期的に行っていました。そこで私も企画をいくつか出させてもらって、その結果、今回の作品を大阪局で制作することになりました」

Q:若手のスタッフが集まって企画会議をすることがあるんですね。

高橋「よるドラを開発する上での、新しい試みだったみたいです。私は入局して5年目ですが、同年代や先輩たちの考えに触れることができて刺激になりました」

 

NHKでも、若手による若者が見る番組をという機運が高まっているようだ。“よるドラ”はまさにそのひとつだ。

Q:若者の立場としては NHKで従来放送されているドラマとは違うものが作りたいと感じているんでしょうか。

高橋「私の場合は、自分が20代だからこそ見つけられたトピックや、伝えたいと思ったメッセージを軸にドラマを作りたいと思いました。純粋に『自分だったらこういうドラマが見たい!』と思えるものにしたいなと。私はこれまで朝ドラ3作と土曜ドラマスペシャル1作に参加してきましたが、それらのドラマは国民的番組として、年代問わず幅広い層の視聴者に楽しんでもらうという意識が強いと思います。その点、“よるドラ”は深夜枠だからこそ、ターゲットを絞り、コアな題材を扱うチャレンジができる。今回のよるドラでは、チーム全員にそういった意気込みがありました」

若い世代に向けたさまざまな冒険

Q:前2作は若手の脚本家を起用していました。『だから私は推しました』はベテランの森下佳子さんです。なぜそこは冒険されなかったんでしょうか。

高橋「理由は大きく2つあって、私が森下さんのドラマがとても好きだったことがひとつ。もうひとつは、今回、女オタ、地下アイドルというディープな世界を描くに当たり、森下さんならこの独特な面白さを損なうことなく、それでいて見る人が共感できるようなストーリーをお届けできると感じたからです。そのうえで、攻めたエピソードや斬新な要素を取り入れたりという冒険をしてみました」

高橋さんもアイドル好きなうえ、脚本をつくるにあたり地下アイドルにまつわる状況を取材した。劇中アイドルグループのミュージックビデオをつくって配信したり、ライブも行ったり、ドラマの放送を越えた企画も行った。

Q:いまの若い世代の人たちに向けて、様々な仕掛けも合わせてやることは必須なんですか。

高橋「やるからには本編の放送だけでなくPR展開でも楽しんでもらいたいという意識はチーム全体が持っていたと思います。なので大阪局の〈BK夏祭り〉内でのイベントを企画したり、ミュージックビデオを作ったり、サニーサイドアップのTwitterアカウントを9月下旬までの期間限定で開いたりしています。ドラマではオタクのほうが主役なので、アイドルサイドのこと描ききれないんですよね。その分Twitterのほうで、彼女たちのオフショットなどを楽しんでもらえたらと思って。また、投稿自体をドラマ本編と絡めているため、これが何かの伏線なんじゃないかとか、あのイベントの後日談ってこれなんだ、などと楽しんでいただけているようで嬉しいです」

Q:ツイッターの内容を考えているのはどなたですか。

高橋「ウェブやデジタルのプロモーションを担当している部署と相談しながら、ブレーンとなってくれる人を引き入れて取り組んでいます。いざやってみると、ネタバレになり過ぎず、でもドラマで描かれてないことをお知らせするときの塩梅がすごく難しくて。勉強になることばかりです」

なぜ、アイドルものにサスペンス要素を加えたか

Q:さて、主人公・愛(桜井ユキ)の物語が最終的にはどんなふうに収束していくのでしょうか。

高橋「最終的には、企画の当初から目指していた、“推し”を見つけたことによりヒロインの人生がどう変わったのか、また、推すものがあるとやっぱり人生って楽しくなるよねという、清々しい抜け感をお届けできたらと思っています。第7回が終了した時点だとここから一体どう清々しく転ぶんだ? と思われそうですが(笑)。事件軸の描写がかなり濃くはあるにしても、最後まで見ていただければ、必ず清々しさがあります。ぜひ最終回を見て、1話第1回のときのヒロインの在り方と、終わったときのヒロインの在り方を比べて、彼女の成長を感じてほしいです」

Q:ヒロインの堕ち方がディープですよね。

高橋「そうなんですよ。副業とかも始めちゃって……。“推し”のために周囲からは『絶対やめなよ』と言われるようなことをしてしまう。ただ、転落したりお金や時間を犠牲にしたりしていくことで、その前の生活では気付けなかった、ある一つの大事なものに気付けたんだというところは確実にあるんです。その一つのものとは、例えば青春みたいなものだったり、マウンティングとか背伸びしなくても付き合えるオタク仲間という友達だったり、他者からの『いいね』に依存せずに自立できる精神状態だったり……見る人によって感じ方はいろいろあると思いますが、転落はしたものの得たものがあるというなかなか難しいバランス感を、8話見て楽しんでもらえたら嬉しいです」

Q:そこがやっぱり「よるドラ」という枠だからできることのように感じます。たくさんの人に見てもらおうと思うと、人間の転落に踏み込む描写や、転落のなかで発見する別の喜びというような矛盾したものが描けなくなりますよね。

高橋「そうですね。ただただ、オタクっていいよね、アイドルって楽しいねっていう作品ではなく、そこに潜む危うい部分というか、一歩間違えると危ないものが横たわっていることも受け入れつつ、でもその世界を楽しんでいる人がいて、その世界観にはまったからこそ見えた景色を提示していけるといいなと思います。」

大河ドラマが好きだった

Q:そもそも、高橋さんはなぜNHKに入られたのですか。

高橋「私は、大河ドラマがすごく好きだったんです。小学生のときに『利家とまつ』にハマりまして、以降大河ドラマを結構見るようになりました。とはいえ、そこから大河ドラマを作る人になりたいとずっと思い続けていたわけではなく、大学に入って就職活動をする中で自分がどういう職業に就きたいか考えたときに、ドラマを作る人になりたいとNHKを受けました」

Q:朝ドラではなく、大河ドラマが好きだったのですか。

高橋「たまたま『利家とまつ』を見ていたとき、それほどシリアスな問題ではないですが、学校が好きじゃない時期があって。ちゃんと通ってはいたのですが、学校があまり楽しくないなと思っている生徒にとって、日曜の夜って一番嫌な時間なんですよ。そういうときに大河ドラマがすごく面白くて、毎週日曜が来るのが楽しみになったんです。歴史上の人物のダイナミックな生き方が励みになったんですね。ドラマの放送を生きがいにするというと大げさですけれど、毎日の気持ちの有り様にドラマは関わってくることもある。それってすごいことだなと思います」

Q:朝ドラ『わろてんか』で演出をされていますが、演出志望ではないんですか。

高橋「『わろてんか』は2話分だけ演出をやらせていただきました。実は9月から東京に異動になりまして、これからもいろいろなことを貪欲にやっていきたいなと思います。でも今回、プロデューサーとして企画を立て、それを最後まで育てていく経験をしたことで、そちらの方向で成長していきたいという気持ちが更に強くなりました」

これからのテレビはどうなるか

Q:NHKのドラマでは制作統括とプロデューサーがクレジットされています。制作統括がチーフプロデューサーで、企画の大元で、インタビューを受けるのもたいてい制作統括。プロデューサーは何を担当していますか。

高橋「NHKの中でも作品によって違いますが、今回の場合で言うと、 “よるドラ”という若者のクリエーターによる若者向けの枠という趣旨の番組でもあったため、広報の取材対応など、いろんなことに対して表立って出ていく役目を私が担うことになりました。それ以外に、脚本作り、キャスティング、あとポスプロという映像や音の加工作業のライン管理(フロー管理)も主にプロデューサーが担当しています」

Q:ふだんよりプロデューサーの仕事量が多かったんじゃないですか。

高橋「どうなんでしょう(笑)。でもこのチームは、演出部、美術部、技術部などすべてのスタッフに恵まれていたんです。全員が『もっと面白くするにはどうすればいいか』『こういう小ネタを仕込んでみよう』というように、すごく色々なチャレンジをしてくれて、取材、準備、現場での労を惜しまずに作品と向き合ってくれました。そういったスタッフの姿勢や熱意に励まされましたし、放送開始後は、視聴者さんからの反響がすごくありがたかったです。だから、最終回を前に、安心感もあるとともに、ああ、終わっていくんだというさみしい気持ちも少しずつ湧いてきています」

Q:でも、今回の試みで、若手の企画がNHKでいろいろ出てくるといいですよね。

高橋「そう思います。20代だからこそ思い付く企画とか、30代だからこそ思い付く企画が絶対あると思っていて。もちろん年齢が若いから良いということではなくて、その年齢だから思い付く題材はきっとあると思うので、今後生まれてくる“よるドラ”にも期待してほしいです」

Q:最後に、これからテレビはどうなりますか、というかどうしたいですか。

高橋「私は、映画もネットコンテンツもよく見ますし、それぞれに面白いと思うのですが、テレビドラマの良さは、毎回、決まった時間に放送されることだと思っています。録画やオンデマンドもあるとはいえ放送を一番新しいタイミングで見る楽しみが味わえて、友達と「昨日のアレ見た?」と話したり、「来週が待ちきれない!」とワクワクできるのはテレビの強み。次の展開を見るためには1週間待たなければいけなくて、1週間、次の話を楽しみに仕事や勉強を頑張ろうというような毎日の活力を、私自身が連続ドラマからもらったので、そういうものに携わっていけたらと思っています」

Q:今後、ますますコアな層に向けたものが増えていきそうですか。

高橋「枠が与えられた使命っていうとちょっと大げさですが、コアな層に届けという意識で作る枠がもっと増えると面白いだろうなとも思う反面、朝ドラだったりドラマ10だったり、多くの人が見て一緒に感動できる、いい意味で幅広い層向けのドラマも充実できると、より多様なニーズに応えられるのではないかと思います」

「だから私は推しました」プロデューサー高橋優香子さんは理系女子 撮影:筆者
「だから私は推しました」プロデューサー高橋優香子さんは理系女子 撮影:筆者

よるドラ「だから私は推しました」

第7回 再放送 9月14日(土)午前0時40分から1時9分

最終回 9月14日(土) 総合 よる11時30分から11時59分

作:森下佳子

音楽:蔡忠浩(bonobos)

劇中歌「おちゃのこサニサイ」「サイリウム・プラネット」「ただいまミライ」(作詞・作曲DogP)

出演:桜井ユキ 白石聖 細田善彦 松田るか 笠原秀幸 田中珠里 松川星 天木じゅん 川並淳一 榎田貴斗 小原滉平 篠原真衣 土井玲奈 / 澤部佑 村杉蝉之介 ほか

制作統括:三鬼一希 出水有三  

プロデューサー:高橋優香子

演出:保坂慶太(1,2,4,7,8話)・姜暎樹(3,5話)・渡邊良雄 (6話)

画像

チーフ演出家編はコチラ