「引っ越し大名!」(8月30日公開)の撮影現場で実感した星野源、高橋一生がいま、求められる理由

「引っ越し大名!」より (c)2019「引っ越し大名!」製作委員会

「引っ越し大名!」に豪華俳優が集結

8月30日から公開される「引っ越し大名!」(犬童一心監督)は、江戸幕府のお達しによって日本各地を引っ越しせざるを得ない者たちの悲哀をコミカルに描く。

姫路から大分へ、藩全体の大掛かりな引っ越しにあたり“引っ越し奉行”に抜擢された片桐春之介に星野源、春之介の幼馴染で腕っぷしの強い侍・鷹村源右衛門に高橋一生、春之介が密かに思いを寄せる前引っ越し奉行だった人物の娘で未亡人・於蘭を高畑充希が演じる。星野、高橋、高畑の3人が主要登場人物で、ほかに、藩主・松平直矩役に及川光博、家老役に松重豊西村まさ彦、勘定奉行役に正名僕蔵、勘定頭に濱田岳、藩士に小澤征悦飯尾和樹、江戸幕府小納戸役・柳沢吉保に向井理など豪華だ。

高橋一生が豪快な武士を演じる

「引っ越し大名!」の撮影が行われた時期は、2018年の5月から6月にかけて。京都の撮影所を中心に兵庫県・姫路や淡路などにも赴いた。

松竹京都撮影所のオープンセットで行われた撮影現場を見学する機会に恵まれた私は、そこで星野源と高橋一生がなぜ、いま、たくさんの人の心をつかむのかその理由がすこしわかった気がしたので、こちらに記そうと思う。

見学したのは、5月下旬で、2シーン分。まず、引っ越しに当たって予算が少ないため、持っていくものを減らす、仕分けを藩の者たちに行わせなくてはいけなくなった春之介(星野)が「ほんとにやるんですか」と渋りながら藩の者の家に入っていく場面。オープンセットの奥の端のほうの、大きく茂った木のそばに一軒家のロケセットがあり、その戸口前で行われた。

引っ越し奉行の娘・於蘭(高畑)は「整理とは捨てることです」と引っ越しの達人である亡父の残した書を力づよく見せつける。気乗りしない春之介の背中を押すように、源右衛門(高橋)が「よし入るぞ、ごめん」と強く出る。全体のなかではごく短い場面でありながら、本番の前に3回もテストが重ねられた。台本には「よし入るぞ」だけだったが「ごめん」が足され、その「ごめん」の加減を図っているようだ。

何度もテストを重ねて

テストを重ねるたびに、高橋の勢いは上がっていく。このごめんの口調や身体の動きの豪快さは、高橋のこれまでのイメージとは違う新たな面が見えた。犬童監督から「鷹村は三船敏郎ファンの武士」と言われ、カラダを鍛えていたそうだ。彼の醸す豪放磊落さがときに笑いにもなりときに頼りがいにもなっていた。三船敏郎ファンの武士というのは映画の時代感、どうなってるんだろう。監督のユーモアだと思うが。

犬童監督は「やろうとして何度もダメになっている」という状況を説明、本番が行われた。カットがかかると、高橋は独自の解釈を監督に相談して、もう一度テストをして、再び本番となった。台本ではわずか十行ほどの部分でもずいぶん細やかに作られている。映画をこれから見る方は、この場面で高橋一生がどういうふうになったかぜひ注意して見てほしい。

(c)2019「引っ越し大名!」製作委員会
(c)2019「引っ越し大名!」製作委員会

星野源のクレバーさ

次に見たのは、廻船問屋にお金を借りに行く場面。引っ越し資金を廻船問屋の若旦那(岡山天音)に春之介と勘定頭の中西(濱田)が無心しているところに酔った源右衛門が「助太刀するぞ」と邪魔しにやってきて、慌てた春之介はある方法で対処する場面。

オープンセットの中心部にある江戸の町並みの一角で行われた。これぞ京都撮影所という感じの場所で、つねに江戸の町並みが再現されている。その町並みのなかの一軒のなかでの撮影。シンプルなセットが美術の飾り込みや照明、カメラ、俳優の存在によってガラリと変わり、生きたものになる(撮影:江原祥二、照明:杉本崇、美術:原田哲男、倉田智子)。

ちょうど18年の3月まで朝ドラこと連続テレビ小説「わろてんか」(NHK総合)で共演していた濱田と高橋は撮影前、仲良さそうに語り合っていた。朝ドラといえば、余談も余談ではあるが、撮影現場取材は朝8時30分くらいからで、その前に本館のロビーで待機していたとき、テレビで「半分、青い。」の星野源の主題歌が流れていてちょっと不思議な気分だった。また、この日は、岡山天音がクランクイン。これまた余談ながら、彼は、5月に撮影されたNHK の京都発地域ドラマ「ワンダーウォール」(渡辺あや脚本)に引き続いての京都撮影であった。

さて、資金の無心のシーン。源右衛門の乱入に慌てる春之介の場面もとてもテンポよく楽しいものになった。まず、エキストラの人たちに、事前に得意なアクションを聞き、各々の個性が生きるように配置。揉め事に注目する庶民たちで店の外まで熱気に満ちる。

監督は、ただのすったもんだのドタバタにしないで、春之介が若旦那に土下座するまでの感情の流れに理屈のつくものにしようとして、それに俳優たちが応えていた。

犬童監督は星野のことを「事前に芝居のトーンや、セリフのニュアンスまでしっかり考えて現場に入るタイプの方だと思うんです。でも彼のクレバーなところは、僕が現場で“それはちょっと違うかな”と言うと、平気でがらっと視点を変えられる」と語っている。

星野源と高橋一生の任せて安心感

星野は大人計画に所属していることもあり、多くの舞台に出演している。高橋も扉座に所属していたこともあり、鴻上尚史の第三舞台や故・蜷川幸雄の作品など、舞台経験が多い(来年は日生劇場で主演する)。舞台は一ヶ月近く稽古を重ね、芝居の密度を高めていくもので、そういうことに慣れている星野や高橋が映画やテレビドラマで役をより深めるからこそ作品が面白くなっているのだろう。

(c)2019「引っ越し大名!」製作委員会
(c)2019「引っ越し大名!」製作委員会

チームワークが生きる

監督と俳優たちが意見を交わしながら試行錯誤して撮影が進んだ「引っ越し大名!」は出来上がりを見ても、チームワークが生きたものになっているように感じた。時代劇とはいえ、「引っ越し」「仕分け」「上司からのパワハラ」というような現代的なテーマを描くことで親近感がわく作品で、楽しく見ることができるうえ、時代劇好きにはたまらない高橋一生の豪快な殺陣もある。高畑充希から立ち上る未亡人の色気や、馬を駆るたくましさなどもみどころだ。

犬童監督のもと、星野、高橋、高畑たちの丁寧な人間描写の積み重ねによって、主要人物の三人の個人の物語のみならず、彼らの向こうにいるたくさんの人たちの人生が感じられる、「引っ越しあるある」がとても大きな深い物語になっていく。

(c)2019「引っ越し大名!」製作委員会
(c)2019「引っ越し大名!」製作委員会

引っ越し大名!

監督:犬童一心 

原作・脚本:土橋章宏「引っ越し大名三千里」(ハルキ文庫刊)

出演:星野源 高橋一生 高畑充希 小澤征悦、濱田岳、西村まさ彦、松重豊、及川光博 ほか

主題歌:ユニコーン「でんでん」作詞:川西幸一/奥田民生 作曲:奥田民生(Ki/oon Music)

配給:松竹 

公式サイト:http://hikkoshi-movie.jp

公式Twitter:@hikkoshi_movie

8月30日(金)全国公開

(c)2019「引っ越し大名!」製作委員会