「なつぞら」の人気者・天陽くんのアトリエほか続々公開開始 朝ドラの舞台を残したいロケ地の取り組み

復元された山田家 写真提供:帯広観光コンベンション協会

全国的に夏休みに突入した7月20日(土)、北海道十勝で朝ドラ「なつぞら」のロケセット(山田天陽のアトリエと家)が帯広の真鍋庭園で公開された(12月1日までの公開)。じつはこの企画の実現には地元の大変な苦労があった。ここでは、その苦労と、朝ドラと地方の関係性についてご紹介したい。

朝ドラの楽しみ・ロケ地めぐり

朝ドラの楽しみのひとつは、日本の各地がドラマの舞台になっていること。自分とゆかりのある土地が舞台だったら応援したくなり、ドラマ愛が高まるといつしか自分に関連のなかった土地にも興味をもつようになる。熱が募ってロケ地やゆかりの地を見に行き、ドラマを越えて土地への愛が生まれることすらある。「あまちゃん」(13年)はその好例で、私も、舞台となった久慈に興味をもってでかけて、列車や海や食の数々、そこに実際に生活している人たちに親しみを感じ、さらにドラマ愛を深めたものだ。6年経過しても、まめに通っているファンたちもいる。

ロケ地の魅力がドラマの魅力にもなる。

現在、放送中の「なつぞら」では、主人公なつ(広瀬すず)を育んだ土地は北海道の十勝。ドラマ前半は、なつとその家族や友人たちの生活が広大な空と大地のなかで生き生きと描かれた。なかには、なつが東京に出てこないで、ずっと北海道編をやってほしいという声もあるくらいで、実際、北海道の風景はとても和む。前半の視聴率が高かったのも北海道の風景の魅力も手伝っていたようにも思う。

一面緑の草木の中に赤い屋根のサイロ、青空に白い雲、たくさんの牛、そんな風景を見たいと思う人も多いだろうし、インスタ映えもするだろう。ところが、牧場や畑は衛生面の問題で気軽に一般人が立ち入ることはできず、なつの暮らす柴田家と牧場は、ロケとセットを組み合わせているため、ドラマで見たままの牧場は残念ながらない。「なつぞら」ファンが北海道に来てくれたとき、楽しめるスポットがほしい。帯広観光協会のスタッフたちは熟考した末、ロケセットをNHKから譲り受け、建込むことを思いついた。

昨年、取材に行ったときの十勝の牧場風景 撮影:筆者
昨年、取材に行ったときの十勝の牧場風景 撮影:筆者

山田天陽のアトリエをNHKから譲渡

そしてついに、7月20日から、なつのソウルメイト的存在・山田天陽(吉沢亮)のアトリエ(厩舎を改造したもの)と住居の公開がはじまった。これは帯広観光コンベンション協会がNHKからセットの譲渡許可を得て行っている。NHKに譲渡契約を持ちかけたが、撮影が終わってからでないと契約を結ぶことはできないため、契約が締結したのは7月10日だった(あくまでアトリエと馬小屋のセット撮影の終了。ドラマの撮影自体はまだ続行中)。そこから、解体、運搬、建設、小道具設置を含め20日のオープンに間に合わせた。建込みにかかわったスタッフは述べ60名。毎日6名ぐらいが交代で10日間作業した。

「撮影が全て終わり次第の譲渡契約の為、いつ契約が成立するのか分からなかったのですが、夏休み前に公開出来て良かったです」と帯広観光コンベンション協会の松田里奈さんは安堵の様子。天陽の家の茅葺が手に入らず、建設屋が北津軽から急遽、取り寄せることになったという苦労談ほか、建て込む場所にも制限があった。

「真鍋庭園内に撮影場所の雰囲気に似ている場所があり、そちらに置く予定でしたが、そこは有料スペースで、無料スペースに展示しなくてはならないルールがあり、急遽変更しました」

帯広観光コンベンション協会の松田さん 牧場に入る前には靴の消毒が必要 撮影:筆者
帯広観光コンベンション協会の松田さん 牧場に入る前には靴の消毒が必要 撮影:筆者

天陽のモデル神田日勝の絵も展示

天陽のアトリエは中には入れず、外からのぞくことになるが、中にはドラマで使用された小道具ほか、天陽のモデルとされる北海道で農業をやるながら絵を描き続けた画家で、鹿追町には美術館もある神田日勝の絵をガラス越しから見えるようにした。ただし、絵の設置はオープンには間に合わず、準備ができ次第展示することになっている。

展示される神田日勝の絵は「馬(絶筆・未完)」。死ぬ間際まで描いていた日勝の代表作。ほかに、ドラマで天陽の描いていた絵(神田日勝とは別の画家が描いているもの)も譲渡契約次第、展示される予定だ。

撮影用の畑も作っていた。

オープンセレモニーでは、山田家の畑で収穫したじゃがいもが配布された。山田家の畑は、前述のように実際の農家での撮影は病気の心配等があり、関係者以外畑に入ることが出来ないため、撮影用として、天陽の畑を真鍋庭園(天陽のアトリエを置く場所とはまた違う、真鍋庭園が所有する民有地)に作って行われた。そこで実際にじゃがいもを栽培していたそうだ。なかなか撮影も大変である。

オープニングセレモニーの様子 写真提供:帯広観光コンベンション協会
オープニングセレモニーの様子 写真提供:帯広観光コンベンション協会

真鍋公園からのコメント

「2年前、とかちフィルムコミッション連絡協議会の事務局長様から「昭和20年代の開拓シーンを撮れる場所が帯広にあるか?」という相談がことのはじまりでした。

私自身が植木農家と林業をしているので、周囲への配慮やひと目を気にせず撮影できる山林を所有していたことから「チョットだけなら……」と場所を無償提供させていただきました。

一ヶ月の撮影のつもりが、結果的に開拓、スキー、じゃがいも畑と計3回の模様替えとロケセットの設置という一年以上の期間になりましたが、100作めの朝ドラの舞台の一助になれたことに、少しは地元に恩返しができたかもしれない?と感じているところです。

ご縁があっての場所提供から、今度は大切な地域観光資源の一部を管理委託を受ける立場となりましたので、責任をもって広く皆様に公開してゆく所存です」

残っている朝ドラや大河ドラマのセット

「なつぞら」十勝ロケは、陸別町、新得町、清水町で行われた。新得町観光協会では、しばた牧場への道「オダッシュ橋」を7月下旬一般公開、しばた牧場玄関前と新牛舎「HOKKO FARM」を8月上旬、予約制で公開予定。陸別町観光協会では、道の駅前広場にサイロを移設予定。9月28日にはふるさと銀河線なつぞらラッピング列車とサイロを利用したイベントを開催予定と、ドラマが終盤に向かうにつれ、続々と「なつぞら」の世界を噛みしめる企画が用意されている。

ロケセットが撮影後に残される例はこれまでもあり、同じ北海道を舞台にした「すずらん」(99年)では駅のオープンセットを残している。「てるてる家族」(03年)では商店街を放送後、復元公開、「あまちゃん」では撮影に使用された看板や道路に立てた塔などが残された。

「なつぞら」の川口俊介・広報プロデューサーは以前、インタビューした際、このように語っていた。

朝ドラをきっかけに町おこしというか、地元の方にはその土地のいいところを再発見してもらい、外の人にもそこに行ってその良さを感じてもらいたい。

出典:朝ドラ『半分、青い。』ネタバレとの闘い。SNS時代の広報戦略をプロデューサーに聞いた

また、大河ドラマ「真田丸」の吉川邦夫チーフプロデューサーは

“地域活性化に貢献するためにも、その地域に長いこと人が訪れるような種を、毎年の大河や朝ドラが蒔いていけたらと思います“

出典:ダメ田十勇士、佐久間象山……最終回も遊び心の連続だった『真田丸』を経て、大河ドラマの今後の課題 吉川邦夫インタビュー

と言い、『炎立つ』(94年)で江刺(現・奥州市)に作ったオープンセット(平安鎌倉室町期の建物を本建築で建てたもの)はいまだに残っていて『真田丸』や『おんな城主直虎』でも使っていると教えてくれた。経年した今のほうが味わいがあっていいのだとか。

ご当地ドラマは最終回が終わりではない。

“「大河ドラマにしても朝ドラにしても、例年、舞台になる地域には、史跡を訪ねたり、イベントが行なわれて、凄まじい数の人が来るんです。ただ、放送が終わったあとの落差が激しいので、終わったあとも人が呼べる方法論を考える必要があると感じています」と吉川Pが語ったように、朝ドラも大河ドラマも国民的番組だからこそ、放送期間が終わったら潔くなくなってしまうのはなく、時間が経っても舞台となった地域と共に生き続けることで、その土地の活性化にひと役かい続けることも番組の役割であり、ひいてはドラマを永遠に人々の心に生き続けさせることになるのではないだろうか。そういう意味では、「なつぞら」の山田天陽は、なつが東京に行くなかで、地元に残って、その土地とともに生きることと絵を描くことを同じに考えるという人生観の持ち主。彼の家とアトリエは、ドラマと地元の理想の関係の象徴にふさわしい。ドラマと地域の真の一体化に期待したい。