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ムロツヨシ、長谷川博己、高橋一生、相葉雅紀、松田龍平 秋ドラマ、彼らが演じる気になる役柄

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人
イラスト:筆者

感情の起伏が激しい発明家

10月からはじまったドラマの男性の登場人物が気になる。

ちょっと変わり者が多い気がするのだ。

筆頭格は、朝ドラこと連続テレビ小説『まんぷく』(NHK 月〜土曜 あさ8時〜)の立花萬平(長谷川博己)だろう。

主人公の福子(安藤サクラ)の夫で、高度成長期、インスタントラーメンを発明した日本の食卓の救世主・安藤百福をモデルにしている。いろいろなものを発明して人類を幸せにしようとする才人ながら、いささか変わり者だ。

こうと決めたらてこでも動かないところがあって、疎開先で家に電気を勝手に引いたことを役場の人に咎められても謝らず開き直っている。

なんといっても、突然、戦争に行けない己の健康状態を嘆いて、人前(子どもたちもいる)でものすごい絶叫をする。「畜生畜生畜生クソクソクソ」とそれはそれは尋常じゃない絶叫で、土曜の朝(24話)から視聴者を仰天させたが、その次の回(25話)の視聴率は23%と高く、萬平さんの壮絶な嘆きは受け入れられたようだ。

それくらいのまっすぐ熱いところがないと世紀の大発明はできないのかもしれない。彼が愛妻・福子に支えられながら晴れてインスタントラーメンを発明する日が楽しみである。

マイペースな大学講師

次なる変わり者は、『僕らは奇跡でできている』(フジテレビ系 火曜よる9時〜)の相河一輝(高橋一生)。

大学で動物行動学の講師をしている知性派だが萬平さんに負けず劣らずマイペース。萬平さんみたいに感情表現は激しくなく、ウサギとカメの競争を描いた「イソップ童話」のカメのことを、「カメは、全然がんばっていません。競争にも勝ち負けにも興味がないんです。カメは道を前に進むこと自体が楽しいんです」と解釈し、とにかく自分の好きなものにすべてを注ぎ込み、授業終了のチャイムが鳴っても、話したいことは最後まで話し、ピリ辛キュウリが気に入ったら毎日毎日食べ続ける。強い興味をもったら、他のことを忘れてそれに夢中になってしまう一輝に周囲は呆気に取られるばかりだったが、じょじょに一輝のように、他人と比べず、あくせくせず、自分だけの価値感を大事にする生き方に感化されていく。

見ているほうも同じく、いつの間にか深い呼吸になって、肩の力も抜けて、ホッとなっている。

いじられキャラだが仕事はできる

一輝の存在のようにホッとする人物はまだいる。『僕とシッポと神楽坂』(テレビ朝日系 金曜11時15分〜)の獣医・高円寺達也(相葉雅紀)。神楽坂の獣医として、たくさんの動物を診察していく実力派ではあるが、獣医一筋でほかのことは構わず、母(かとうかずこ)と彼女に三味線を習っている芸者・まめ福(尼神インター)とすず芽(趣里)に世話をやかれ、からかわれたり、幼馴染の名倉(大倉孝二)の彼女の話に動揺するような恋愛とは縁遠いところをみせたりしている。

一緒に働くことになった動物看護師・加瀬(広末涼子)にもかまわれ、いまいちな料理を食べさせられるが、それにもそんなに頓着していない。いじりがいのあるタイプなのに、いざ獣医の仕事をすると、思いやりと技術を発揮するところが魅力だ。

屈折、ミステリアス

以上、『まんぷく』の萬平、『僕らは奇跡でできている』の一輝、『僕とシッポと神楽坂』の達也の共通点は、女性に甲斐甲斐しく世話されているところ。萬平は、妻と、あと、口うるさい義母(松坂慶子)、一輝は子どもの頃から住み込みで働いている家政婦・山田(戸田恵子)、達也は前述した母、芸者、看護師たち。

女性視聴者の世話焼き願望をくすぐるキャラなのである。

この3人が10月期ドラマにおける3大変わり者キャラだが、まだいる。

『大恋愛〜僕を忘れる君と』(TBS系 金曜10時〜)で、今、大ブレイク中のムロツヨシが演じる間宮真司は元ベストセラー作家で、デビュー作がもてはやされたものの、その後ヒットに恵まれず、引っ越し屋のアルバイトで食いつないでいる。

偶然、彼の小説のファンだった北澤尚(戸田恵梨香)と出会い、彼女にぐいぐい迫られてつきあうことに。若年性アルツハイマーを患っている尚を支えていく決意をする。

尚は貯金が5000万円もあるセレブ女医で、格差恋愛。様々なシチュエーションが彼を屈折せざるを得なくしていて、その屈折ぶりが心をくすぐるうえ、喜劇役者と名乗り、コミカルなバイプレイヤーとして活躍してきたムロツヨシが、恋愛ドラマで戸田恵梨香の相手役という意外性がドラマの強烈な求心力にもなっている。

『獣になれない私たち』(日本テレビ系 水曜10時〜 野木亜紀子脚本)では、新垣結衣とダブル主演の松田龍平が演じる根元恒星。彼は個人事務所の会計士・税理士。

女性関係が、軽いかと思えば真面目なところもあり、いまいちつかみどころがない。新垣演じる深海晶と今後どういう関係になるか3話が終わった時点でまだよくわからない。

松田龍平は『あまちゃん』(13年 宮藤官九郎脚本)の芸能事務所のマネージャー・ミズタクで一風変わったキャラ旋風を巻き起こし、『カルテット』(17年 坂元裕二脚本)でその印象をさらにアップデートすることに成功した。『けもなれ』で第三形態に突入するか楽しみなところだ。

ムロ演じる間宮真司はすばしっこい野生の小動物感があるのだが、あとの4人は、草原でのんびり草を食んでいるきりんとか鹿とかそういう系に見える。刑事や医者など絶対的で間違えない登場人物がドラマのメインであることが多いが、ちょっとエリートコースからはみ出した人物にも心惹かれる。秋のドラマは、そういうキャラの意外な言動を楽しみたい。

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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