朝ドラ『半分、青い。』ネタバレとの闘い。SNS時代の広報戦略をプロデューサーに聞いた

『半分、青い。』ロケ使用時の岩村町本通り 撮影:筆者

9月29日(土)に最終回を迎える連続テレビ小説『半分、青い』。左耳を失聴というハンディキャップに負けずたくましく生き抜いていくヒロイン(永野芽郁)のバイタリティーはこれまでの朝ドラのイメージを大きく覆し、朝ドラに新たな視聴者を呼び込み、各回平均視聴率を21%台(ビデオリサーチ調べ 関東地区)に引き上げた(近作3作は20%台。高視聴率だったのは『とと姉ちゃん』22.8%、『あさが来た』23.5%など)

話題になった要因のひとつは、脚本家・北川悦吏子がTwitterで「神回」予告、ドラマに書ききれなかったことの補填などを行うなど型破りな独自の宣伝活動を行ったこと。ストーリーやキャストというドラマの中身とはまた別に広報、宣伝活動にも注目が集まった。

いったいどこまでが戦略だったのか。そもそも広報とは何なのか。『半分、青い。』の広報プロデューサーとして奮闘した川口俊介さんに聞いてみた。

過去、大河ドラマ『真田丸』でも独特な広報のスタイルを作り番組を盛り上げた川口さんが今回仕掛けたこととは……。

個人のTwitterと広報は別もの

ーー脚本家の北川悦吏子さんのTweetが盛り上がりましたが、広報戦略のひとつではないんですか?

川口「北川さんのTwitterは、ご自身の発信によるものです。元々フォロワーも多かったため注目されましたが、当事者が個人として語ることはこれまでもありました。例えば、私が広報担当だった大河ドラマ『真田丸』(16年)では、時代考証の丸島和洋先生が個人的にTwitter(期間限定で番組終了と共にアカウントは閉じられた)で視聴者とダイレクトにやりとりしていました」

ーーオンエア中に史実とドラマの脚本の書くうえでの違いみたいなものなどの情報が得られて面白く、番組の盛り上がりに寄与したと感じていました。

川口「来年の朝ドラ『なつぞら』の制作統括の磯智明も、大河ドラマ『平清盛』(12年)でTwitterで解説を行い話題になっていました。そうやって、プロデューサー個人はどう考えているのか、時代考証スタッフはどう考えているのか、脚本家は……という話から議論がはじまり、そこから新たな価値観が生まれてくることもあると思います。それは広報の仕事も同じで、とりわけ最近は、情報を出して終わりではなく、出したものがどういうふうに転がっていくか考えることが重要と私は思っています。例えば、地域で開催した関連イベントが満員御礼だったとしても、そこで満足しては意味がなくて、その内容をきちんと全国に届けて、会場に来たお客さんの何十、何百倍もの人に知ってもらい、その積み重ねでムーブメントを作るのが広報の仕事です。また、『真田丸』では提供する写真の点数を増やしました。そうすることで、ウェブの記事になったときに、各社が使う写真がそれぞれ違うものになりました。同じソースによる記事やインタビューでも写真が違うと見てもらえて、それで各記事のPVも上がり、番組の露出度が増えました」

そもそも広報って何をするの?

ーー『半分、青い。』で川口さんが広報プロデューサーとしてやったことを教えてください。

川口「まず、このドラマは、家族軸と恋愛軸が十字に交差しているという点がおもしろく、そこに80年代、90年代といった時代性、岐阜という地域性、魅力的なキャスト、星野源さんの主題歌なども加わって多様性の高いものと感じましたので、レスリー・キーさんのポスタービジュアルなど話題性に富んだ情報を加えることで、SNSで大いに語り合ってほしいと考えました。PVをとれるコンテンツにするというのは目標のひとつで、情報が多ければ多いほど、紹介してくれる各ウェブ媒体の内容も多様化し、それによってPVも増えるであろうと」

ーーそのためには台本を読み込んで、要素をたくさん取り出さないといけないですね。

川口「スタッフと共に徹底して読み込み、ホームページも作り込みました。事前に情報を出すよりも、オンエアを見て興味をもってくれたものを、後から丁寧に紹介して、より楽しんでもらうことを重要視したくて。その最たるものは、鈴愛の漫画です。一瞬しか出てこない漫画原稿を、「1.5チャンネル」という動画サイトで読みやすくしたうえで出しました」

ーー番組開始直後、そういうサービスがほのぼのして楽しめました。『マグマ大使』論争(流行った時代が古いのではないかという疑問がSNSで出たが、ヒロインの父の好きな漫画の影響だったことがあとで明かされた)もそれなりに楽しかったです。事前に極力情報を出さないと言えば、クランクアップ会見もなかったですね。

川口「クランクアップの日の撮影はたいてい最終回に近い場面なので、そこの写真を公開すると、皆さん、大体こういうふうに終わるのかなとあらかじめ感じてしまう。それをなるべく防ぎたいと思いました。視聴者の皆さんにドラマの世界を楽しんでいただけることを第一に考えてのことです。実は、SNS の広がりによって、以前より視聴者がネタバレに敏感になっていることは感じます。あらすじの出し方は今後の課題かもしれません」

あらすじの出し方とは

ーー以前は、雑誌や新聞など紙媒体に出たものが拡散することはそれほどなかったですよね。

川口「媒体の発売日のタイミングに合わせて、情報出しの規制はこれまでもありました。紙媒体の場合、月刊誌と週刊誌と日刊紙とではあらすじの出し方が違っていて。月刊誌だと4週、5週先までのあらすじをふんわりした内容で出します。ただそれを週刊誌に出てしまったらネタバレになる。さらに、週刊誌に出す来週、再来週ぐらいのあらすじを日刊紙で書いたらこれまたネタバレになります。そうやって気を使ってきたところ、ウェブでの情報が活性化した結果、放送当日の朝、本日のあらすじとして出ていたものが、前日の放送終了後に出るようになって、これがネタバレだと言われるようになりました。ノベライズは、読めば内容はほぼわかってしまうもので、それを昔は読みたい人が読んでいただけでしたが、今は、手に入れた人がウェブに書き写すこともあって……。ウェブの速報性がネタバレという意識に拍車をかけていると感じることがありました」

こんなに変えた 会見の形式、関連本、他番組との連携

その他、川口さんが『半分、青い。』で行ったこれまでにない広報活動にはこのようなものがある。

◯記者会見を変えた。

川口「最初にやったのは、ヒロインの記者会見を登壇形式にするのではなくて、階段部屋でやったことです。今まで記者会見はわりと広いところにステージを作って、次のヒロインはこの人ですと派手にお披露目しましたが、それをあえて狭い部屋を使い、階段状になった席に記者が座って上からヒロインを見るようにしたんです。距離も近いので、永野芽郁さんの息遣いを感じることができる。近いと彼女と目が合ったようにも見えるんですよ。記者と役者が交わる数少ない機会なので、この子を応援してあげたいなっていう空気になって帰ってもらいたいと考えました」

◯関連本をたくさん出した。

川口「オンエア前にいくつかの出版社からガイド本が出る大河ドラマに倣い、朝ドラもいつもの媒体だけでなく新規の媒体からも出版してもらいました。そうすることで書店の展開も広がり、それが番組広報にもなる。内容も競合すると互いに切磋琢磨しますしね。後半は、ドラマの人気も伴って、まとめのムック本のみならず、秋風羽織の本や、スピンオフ漫画の本、佐藤健さん演じる律に特化した写真集なども発売されて、書店でも『半分、青い。』コーナーとして扱っていただいて盛り上がりました」

◯放送前後の番組と連携した。

川口「昼の再放送後の『ごごナマ』も朝ドラ受けをしてくれましたし、朝のニュース『おはよう日本』も“朝ドラ渡し”をしてくれました。中でも『あさイチ』は大きかったです。リニューアルした『あさイチ』と同じ時にはじまった『半分、青い。』はどこか同期のように感じていて、いい関係を築けました。華丸さんと北川悦吏子さんの対談も、『あさイチ』とうちと、どちらともなく一回対談したら面白そうだということで実現しました(ことの発端は、朝ドラ受けをしている華丸と話したいと北川がTweetしたこと)」

◯ご当地を盛り上げた。

川口「朝ドラをきっかけに町おこしというか、地元の方にはその土地のいいところを再発見してもらい、外の人にもそこに行ってその良さを感じてもらいたい。今は、大きなイベントに予算を使うよりも、来た人たちが個々に興味をもったもの満足したものをTwitterやインスタで上げてくれることで広げてもらうことを提案しています。そのため、『半分、青い。』の方言指導の尾関伸次さんにも大いに活躍していただきました。オンエア中だけでなくドラマが終わっても、地元出身の彼をドラマの象徴としていてほしいと思ったからです。彼を見たらドラマを思い出すみたいになればいいなと。ドラマをきっかけに地域の皆さんが自発的に動いてもらえるような空気感や体制を作ってもらえるように促すことも広報の仕事と思っています」

半分、青い。が始まる前は「女城主の里」(大河とはまた違う女城主のこと)を売りにしていた岩村町。撮影:筆者
半分、青い。が始まる前は「女城主の里」(大河とはまた違う女城主のこと)を売りにしていた岩村町。撮影:筆者

朝ドラ100作目に向かって

ーーそんな川口さんがつぎに関わる作品はなんですか。

川口「朝ドラ100作目の『なつぞら』(2019年4月放送)です。おそらく北海道はこれから今回の震災の影響でこれからまだまだ大変だと思うので、ドラマを通して地域活性の後押しができればと思っています。とりわけ若い人たちが地元に誇りを持てるようなドラマにしたいという思いがあります」

ーードラマを越えて地域の広報みたいになっていて面白いです。

川口「私たちはずっと定点的にいろんなドラマを見て、その舞台となった地域を見ているので、そういうアドバンテージはあると思っています。今回、岐阜が舞台だったということで知ったのですが、『さくら』(02年)の舞台になった飛騨市は15、6年経ったいまだに『さくら』を大事にしてくれているように、ドラマを通して地域と関わったからには、10年後、20年後までを一緒に考えたい。ドラマの放送があった去年、おととしは人が多かったけれど今は少ないね……とならないように、終わってからも地元を舞台にした朝ドラは良かったよねと何度でも思い出してもらいたくて、『なつぞら』では朝ドラ100作を意識した、過去の作品を改めて紹介するようなプロジェクトもやりたいと考えています」

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川口俊介 Shunsuke Kawaguchi

NHK広報プロデューサー。NHKサービスセンター発行のテレビ情報誌『NHKウイークリーステラ』でカメラマンをやった後、NHK の番組広報スタッフとなる。カメラマンとしてはじめて関わった朝ドラは『天うらら』(98年)、大河ドラマ『徳川慶喜』(98年)。広報では『まれ』(15年)、『真田丸』(16年)の他、『ドキュメント72時間』『プロフェッショナル・仕事の流儀』など。『半分、青い。』で広報プロデューサーになる。次回作は『なつぞら』。

いつでも空は半分青い 撮影:筆者
いつでも空は半分青い 撮影:筆者

連続テレビ小説「半分、青い。」

NHK 総合 月~土 朝8時~、再放送午後0時45分~/BSプレミアム 月~土 あさ7時30分~  再放送午後11時30分~/一週間まとめ放送 土曜9時30分~

第26週「幸せになりたい!」最終回は9月29日(土)

脚本:北川悦吏子 

演出:田中健二

キャスト:永野芽郁、松雪泰子、滝藤賢一、佐藤健ほか