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田中圭、玉木宏、志尊淳… 4月〜6月ドラマ 攻めた俳優、守った俳優

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人
(写真:アフロ)

志尊淳、田中圭の活躍

先日、ORICON NEWSが〈2018上半期ブレイク俳優(男優)ランキング〉を発表し、志尊淳が1位と注目を浴びていた。

志尊淳は1月に放送されたNHK『女子的生活』でトランスジェンダーを演じたことで注目度がアップし、4月からはじまった“朝ドラ”こと連続テレビ小説『半分、青い。』にゲイの漫画家・ボクテ役で出演中。ややクセのある台詞を慎重に上品に演じながらチャーミングに見せている。ボクテの台詞に「脇を締める」というのがあったが、攻め過ぎず、しっかり守る堅実さを感じる。

男性3人のラブトライアングルを描いたコメディ『おっさんずラブ』(テレビ朝日)が大好評で、掲載誌や以前出版した写真集が重版される現象が起きている田中圭もブレイクしたという点では攻めたと見えるが、これまで徹底してやり続けてきた役の感情に嘘のない、あたかも今目の前で起きたことに新鮮に心を動かすような演技が積み重なってのブレイクは、守り続けた結果とも言える。

ただし、今ままではわりとナチュラルな芝居が多かった彼が、男たち(吉田鋼太郎、林遣都)に迫られて、え〜〜と大きなリアクションをするところは新鮮だった。攻守を使い分けたと言えるだろう。

玉木宏が公私共に新基軸を

攻めた、と思うのは『あなたには帰る家がある』(TBS)で、結婚13年めについ魔が差して浮気をしたことで家庭崩壊の危機となりあたふたする夫を演じた玉木宏。初期は『WATER BOYS』などで思い切りはじけた役もやっているが、一時期からスマートな二枚目役が多くなった玉木が、とことん無様な男を演じたのは新鮮に映った。最終回近くに、実生活では木南晴夏との結婚を発表したことも、公私共に新しいターンを見据えている印象をもたらした。

かつては、“人情”の渥美清や“不器用”な高倉健というような同じイメージを長らく保ち続けた俳優も少なくなかった。とりわけ人気俳優となるとそういう傾向が見られる。だが昨今は、ひとつのイメージを固めず、いろいろな役ができることにプライオリティが置かれていることが多い気がする。

『あなたには帰る家がある』で玉木の妻役だった中谷美紀は、舞台、三島由紀夫の『黒蜥蜴』などで妖艶な女盗賊を演じたかと思えば、このドラマでは体育会系のさばさばした専業主婦を演じてレンジの広さを見せた。

『シグナル 長期未解決事件捜査班』(カンテレ)で警視庁の刑事部長にして事件の黒幕を演じた渡部篤郎。彼も近年はコミカルな役もやっているが、『外事警察』や『ケイゾク』など、警察の闇を描いたドラマにハマる。彼が刑事ドラマにいるだけで、彼が正義側であろうが悪側であろうが常に深い闇が見える気がしてしまう。

俳優には「ニン」がある

中谷と渡部といえば、現在、動画配信サイトPraviで配信されている99年放送の刑事ドラマ『ケイゾク』は中谷美紀が主演で渡部篤郎が相手役で出ている。今期『シングル』や『未解決の女』(テレビ朝日)などが題材にしている“未解決事件”を描いた先駆けでもあり、真実や正義を信じる中谷演じる女刑事が、身内を殺された悲しみからダークサイドに落ちそうな男・(渡部)を救う愛の物語にもなっていた。

この作品のイメージから中谷はいまだいぶ離れているようにも思えるが、常に凛とした“光”に向かって生きている印象は『あなたには帰る〜』にもあるし、渡部の光と闇の間で揺らぐ印象も変わっていない。

歌舞伎のことばで「仁〈ニン〉」という、その俳優に合った役割というものがあって、色々な役をやりつつもその俳優らしい「ニン」がある。

中谷の光、渡部の光と闇を背負った役は「ニン」と言っていいだろう。

最終回の視聴率が18.6%まで上がった日曜劇場『ブラックペアン』(TBS)の二宮和也が演じたニヒルな医者・渡海は彼の「ニン」に合った役だったと思う。

それから、『モンテ・クリスト伯ー華麗なる復讐ー』(フジテレビ)の主演のディーン・フジオカが演じたモンテ・クリスト・真海(柴門暖)もニンに合った役だった。彼がブレイクした朝ドラ『あさが来た』(15年)の五代友厚以降の“エレガント”“知性”“ミステリアス”静かな情熱(野心)“というようなイメージがあるディーンにふさわしく、ドラマのロマンチシズムを盛り上げた。

注目バイプレイヤーも

主役クラス以外で注目したのは『ブラックペアン』の趣里と『コンフィデンスマンJP』(フジテレビ)の小手伸也。

趣里は、水谷豊と伊藤蘭の娘で舞台、映像ともに活躍中。『ブラックペアン』で演じた猫田は手術時の渡海のよきパートナー的存在だが渡海とのプライベートはどうなの? と謎をふりまく感じは名前のとおり猫ぽく、その余白を感じさせる芝居で存在感を残した。

古沢良太の脚本が鮮やかだったコンゲームを描いた月9『コンフィデンスマンJP』の小手は、長澤まさみ、小日向文世、東出昌大の詐欺チームの助っ人的存在で、神出鬼没の頼れる奴・五十嵐を演じ、予告の名調子や、オンエア中の副音声でも活躍し、一躍人気者に。

90年代、早稲田大学演劇サークルから小劇場で活躍し、飛び道具的というかラスボス的な役割で場をかっさらうトリッキーな俳優だったが、三谷幸喜の大河ドラマ『真田丸』で注目され、今回の月9大抜擢となった。

このふたりは今期、ぐいぐい攻めた俳優と言えるだろう。

『半分、青い。』助演陣の活躍

忘れてならないのは、朝ドラ『半分、青い。』の豊川悦司。主人公を導く・カリスマ漫画家・秋風羽織を演じて「漫画家編」を牽引した。本来、若者を見守る渋い大人として締めるポジションに収まらず、バブル期を舞台にしたストーリーだからか朝ドラにしてはやや軽佻浮薄にも感じられないこともない言動を率先して派手に演じることでまわりを巻き込みきちっと笑いに落とし込んでいく手腕には舌を巻くばかり。7月に入ると退場してしまうのが惜しまれる。同じく、主人公の一瞬の恋の相手・正人を演じた中村倫也も『崖っぷちホテル』(日本テレビ)とまったく違うキャラクターを演じて、達者さを知らしめた。

いい俳優がドラマを面白くしてくれる。7月期はどんなプレイヤーたちの活躍が見られるだろう。

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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