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「半分、青い。』『おっさんずラブ』『コンフィデンスマンJP』…人気の秘密は脚本家のTweetにあり

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人
(写真:アフロ)

劇的なる北川悦吏子の予告神回

朝ドラこと連続テレビ小説『半分、青い。』(NHK 毎週月〜土 あさ8時〜)の脚本家・北川悦吏子のTwitterが面白い。

6月24日時点で13万強になるフォロワーに向けて、毎日毎日、その日に放送された話の裏話や、創作作業におけるいろいろな心情、過去作の思い出などなどいろいろつぶやいていて、最近では「予告ホームラン」ならぬ「予告神回」を発信し、フォロワー及び『半分、青い。』の視聴者をざわつかせている。

「神回」とは、圧倒的な感動を覚える回のこと、視聴者が見て、今日は「神回」だったとTweetすることが主だったが、北川悦吏子は自ら「神回」宣言をして、それがネットニュースにもなって拡散していく。

視聴率がここのところ上がり自己最高を更新していることに、この北川の宣伝Tweetも寄与しているといえそうだ。以前ネットニュースになった「もう数字(視聴率)はいいじゃないか」という発言も「(こういうつぶやきは)ヤフーニュースにならない」と北川がつぶやいていたらそれをネット記者が読んだのかしっかり取り上げられた。

ネットのつぶやきを即座にニュースにしていくネットジャーナリズムもどうかと思うがそれはそれ。6月23日(土)の72話から6月24日(月)の73話にかけても「神回」であると北川はつぶやいていて、スポニチアネックスが『「半分、青い。」北川悦吏子氏 2度目の「神回」予告!鈴愛と律は再会? 再び激動の週明けに」という記事を配信した。

実際神回なのか、唯一朝ドラのない日曜中も月曜を待ち遠しくさせる作り手のサービス精神を感じる。

『アンナチュラル』の野木亜紀子もつぶやいていた。

制作者がどこまで語るべきかは難しいところで、語り過ぎても鼻白むが、ある程度、種明かしをしてくれるとホッとしたり楽しめたりするのは事実。ドラマを見てわからなかったことを教えてもらえたらすっきりする。

「半分、青い。」では、例えば、主人公・鈴愛(永野芽郁)が地元の友人・菜生(奈緒)にもらったカエル柄のワンピースは、北川自身が永野芽郁にプレゼントしたものだと裏話をTweetしてドラマとはまた別の面白さを感じたものだ。

実は……と当事者から聞かされることは視聴者は大好物で、そのニーズをうまく使って盛り上げたドラマといえば、『アンナチュラル』(TBS)。脚本家の野木亜紀子は、今年1月から3月の放送中、制作裏話をTwitterでつぶやき好評を博していた。フォロワーは10万9千強。

興味深いことは、脚本家はあくまで制作スタッフのひとりであり脚本家が作品の頂点ではないというスタンスを感じるところだった。視聴者が見ることのできない制作現場の興味深いエピソードなどを明かしながら、制作スタッフを応援するような意識が心地よく、『アンナチュラル』の制作チームまるごと好きになる雰囲気づくりができていた。

続く、4月から6月期の月9『コンフィデンスマンJP』(フジテレビ)の脚本家・古沢良太(フォロワー2万8千強)もTwitterも使いつつ、自身のブログで各話放送のあとに裏話を長めに書いていた。Twitterはどちらかというとブログへの誘導に使用されている印象だ。彼もまた、自分の脚本を形にするスタッフへの感謝がこもった文章を書いていた。

また、同クール放送の『家政婦のミタゾノ』(テレビ朝日)の脚本家・八津弘幸が自身のドラマの最終回を宣伝Tweetしていたところ、古沢が“ミタゾノ最終回、冒頭でコンフィデンスマンのパロディやると谷津さんが連絡くれた。どんなんだろ。こっちもテレ朝ドラマの音楽まで使ったりしたので持ちつ持たれつ。“と援護射撃をしていたのも微笑ましく見た。

日曜劇場など高視聴率ドラマを手がける八津のアカウントはTweet数は未だ50だからフォロワー数も少ない。

本来、脚本家は、最終回ぎりぎりまで脚本と格闘していることが多いが、『アンナチュラル』と『コンフィデンスマン〜』は放送中、すでに脚本を書き終えていた(撮影時期が早かった)ため毎週丁寧にTweetする余裕もあったようだ。

つぶやく作家、つぶやかない作家

視聴率が低かったがSNSの反響が圧倒的だった『おっさんずラブ』(テレビ朝日)の脚本家・徳尾浩司(フォロワー2万8千強)もTwitterでも視聴者を楽しませている。最近は「質問箱」を使って脚本家の仕事のもろもろを発信している。

『勇者ヨシヒコ』シリーズや映画『銀魂』の福田雄一はいまや作家というより監督という印象が強い。彼の場合は、作風からいっても創作の裏話をひそかに明かすという感じではなく、福田ファミリー化している俳優たちとの交流をどんどん発信しているのが強みだろう。フォロワーは21万強とかなり多い。

ほかに、大御所・伴一彦や、4月〜6月『シグナル 長期未解決事件捜査班』(カンテレ)が面白かった尾崎将也、朝ドラ作家でもある今井雅子、『リバース』(TBS)の脚本を書いた清水友佳子、『東京タラレバ娘』(日本テレビ)の松田裕子らもマイペースで発信している。宮藤官九郎は『オールナイトニッポンゴールド』の番組アカウント。

『昼顔〜平日午後三時の恋人たち』(フジテレビ)や『BG〜身辺警護人〜』(テレビ朝日)などの井上由美子は、シナリオ講座のゲスト講師を務めた際、授業内で取り上げられなかった質問に答えるアカウントを作っていた(現在も閲覧可能)。

『カルテット』(TBS)などの坂元裕二は以前はTwitterもやっていたようだが現在はインスタに移行している。

漫画家や作家などよりも脚本家アカウントが目立たないのは、ドラマや映画がチームプレーで監督やプロデューサーの意向、さらに宣伝部の意向も働く作品への距離のとり方が難しいからではないだろうか。

『半分、青い。』の前に放送していた朝ドラ『わろてんか』(17年)の吉田智子はオンエア中ほとんど作品に関してつぶやいていなかった。

そういう意味で北川悦吏子のかなり自由に見える発言の数々は新鮮に映り、それも最近の盛り上がりの要因のひとつになっているように感じる。

だって作品を護るのはプロデューサーとして当然だから

SNS のない時代は、視聴者と作り手の間には歴然と壁があり、裏話は一部のマニアがDVDや書籍などを買わないと知ることができなかったが、いまや、作り手が自由に発信して、伝えたいことを伝えられる時代。DVD や書籍を買わずとも知りたいことを知って、よりドラマを楽しめるようになった。

2015年6月に私がこの枠でインタビューしたTBS の植田博樹プロデューサー(現在、Psaraviで『SICK’S』配信中)は、SNSを活用して濃い顧客を獲得する反面、Twitter炎上事件も起こすなど激しい活動をしていた。

このときは視聴率が悪い要因を俳優に求めがちな世論に対して真っ向ぶつかっていきヤフーニュースになっていて、当時のインタビューをすこし引用してみる。作り手がどういう気持でSNS のユーザーと切り結ぼうとしているかその一例がわかるはずだ。

植田「皮膚感覚として、若い人がテレビに積極的にリーチしてくれていないよなって気がすごく、しているんですよ。うちの子供も、テレビはTwitterやLINEしながら見るものになっています。だから、少しでも若い世代にリーチしていきたくて、SNSを活用しています。以前は、番組の公式ホームページに『プロデューサー日記』というコーナーがあったんです。あそこだと文章もけっこう長めに書けたし、そこでは別途、視聴者の声を書き込むBBSがあって、TBS の場合、賛成反対とりまぜた意見をあげてはいるけれど、炎上目的の書き込みははじくこともできた。でも、いまは、予算の関係で公式サイトは必要最低限の情報を載せるにとどめて、それ以外の情報はTwitterやFB にしてということになったんです。幸い、ぼくは、ながら見しながらでも、あらゆる情報を一気に処理したり補完したりする感覚に親近感があるし、優秀な動体視力が必要になる画面づくりや、込み入ったストーリーを作るほうが好きなんです。そういうことに共感してくれるひととSNSで文字どおり、感覚をシェアしていったら、ユーザーとの間に仲間感みたいなものが芽生え、彼らに、今回のお話の出来はどうかしら? と聞いてみたりもします。だからネットを利用したというよりも、ある密度や濃度の情報を求めている人たちと接触しやすい場所がネットなりSNSであったというだけなんですよ」

ー毒舌を吐いたり、絡んできたユーザーと喧嘩したりすることは意識的なプロレスではない?

植田「いえ、本当に真面目に喧嘩しています。ひとが一生懸命つくっているのに茶化しやがってと思って」

ーそこにさらに噛み付いてこられたときどう思うんですか。

植田「噛み付かれたら噛み付き返します」

ーしまった、と思わない?

植田「思わない(笑)。こっちは悪くないんだから。ネットの世界では、基本、一対一でしょ。組織も法律も何も守ってくれない。作品を護るためならこっちは必死ですよ。炎上っていっても、おれだけじゃなく向こうも火だるまにしてやるって思ってますから」

ーまたそんなことを。

植田「だって作品を護るのはプロデューサーとして当然だから」

ーわかりました。本当に素直に「視聴率が悪いのはぼくのせい」と思って書いているのですね。

植田「そうです。ただそれが効果的かどうかは確かに議論の分かれるところでもあるのもわかっています。ドラマの視聴率が低いのは俳優が悪いわけでなくぼくの責任だということはどうしても言及しておきたくて。でもそうやって発信すると、ひとことで『番組のプロデューサー謝罪』とまとめられてひとり歩きしてしまうから、ほかにもっといい方法があるのではないかとも思います」

出典:「「ドラマ最前線 制作者インタビュー 1 TBS 植田博樹  視聴率が低くても、謝罪しません。」

Twitterの広い海にはたくさんの作り手のアカウントがあり、みなそれぞれのスタンスでつぶやいている。

プロデューサーは作品全体を把握したつぶやきが面白いし、脚本家のつぶやきはより物語や登場人物に関して密度の濃い話が出てきて面白い。

作家のスター性が作品の宣伝に強い力を発揮するなら、宣伝スタッフもこれほど楽なことはないだろう。でも作家ばかりを前線に立たせるのも酷じゃないかと余計なお世話だが思うこともある。なにせ作品を書いている最中であるわけだから。

つぶやくもつぶやかないも、いずれにしても植田プロデューサーの発言のように”作品を護る”ために何が大事か最適かそれがすべてであろう。

視聴者の心が最も動くのは、その気持に強く反応したときなのだ。

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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