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米倉涼子、篠原涼子、広末涼子、菅野美穂 2017ドラマで考える、おんなの進路 

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人
(写真:アフロ)

2017年暮れ、女優たちの主演ドラマには「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり、沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす」の歌を思い浮かべずにはいられなかった。

孤高の医師とママさん政治家の差

米倉涼子主演の木曜ドラマ『ドクターX〜外科医・大門未知子〜』(テレビ朝日)は、絶対失敗しない主人公・未知子が重病になってしまうという最大のピンチを描いた最終回の視聴率が25.3%(ビデオリサーチ調べ 関東地区)と圧倒的な人気を見せつけた一方で、同じ涼子でも、篠原涼子は、ママさん政治家となって奮闘する月9『民衆の敵〜世の中おかしくないですか!?』(フジテレビ)が、初回からずっと、視聴率が一桁で、内容も軸がはっきりしないまま、評判は芳しくなかった。12月25日(月)放送の最終回の視聴率は4.6%だった。

シリーズ5作めと、信用を積み重ねている『ドクターX』と、10月から3ヶ月間放送されただけの『民衆の敵』を比較するのは酷とはいえ、女性が活躍するドラマ同士で、こうも主人公の輝きが違うのはどうしたものか。

かつて篠原涼子は、大門未知子の前身のような役を演じていた

「盛者必衰」を感じざるをえないのは、篠原涼子が、10年前、『ドクターX』の脚本家・中園ミホが書いて、平均視聴率20.2%、最終回は26%という好成績を残したドラマ『ハケンの品格』(07年)で主人公を演じていたのだから、いまの状況はなんとも皮肉は話しである。

このドラマ、優秀なハケン社員が、仕事のルールに徹底的に則り、残業や休日出勤などしないで、そのスキル一本で社内の信用を獲得していく痛快なドラマだった。大門未知子は、このドラマの主人公がいてこそ誕生したといえるだろう。

10年前は、視聴者の味方だった篠原涼子。『ラストシンデレラ』(13年)では、働きすぎてヒゲが生えてきちゃうようなおじさん女子が、ふたりの男の間で揺れて女を取り戻すというドラマも共感を呼んだ。男勝りな女刑事を演じた『アンフェア』(06年)シリーズも。

なのに、なぜ、『民衆の敵』では、ちっとも共感できなくなってしまったのか。

とにかく第1話がよくなかった。貧しく、子供に卵を焼肉と言って食べさせるような生活から脱するために、年収900万を超える議員になる。なんの政策ももたず、お金のために議員になるところがまずありえない。母親にもかかわらず妙にぶりっ子しているのも反感ポイントだった。

以前だったら、彼女の肉感的なところが魅力に映ったはずなのに、スーツからこぼれる肉感が、政治ドラマには邪魔でしかない。本来の狙いはおそらく、そんな彼女が徐々に政治の世界を知り、巻き込まれていくなかで、自分こそが「民衆の敵」になってしまうというシニカルを超えて毒のあるものだったわけだが、じっくりドラマの流れを楽しむ視聴者が減り、すぐに結果を求める視聴者が増えている(それが良いわけではないが)流れで、こういう構成は高度過ぎたであろう。

職場復帰したいママのほうを演じたほうがよかったのでは

篠原涼子は何も悪くない。ドラマが求める主人公像をむしろみごとに演じきった。

それと、彼女のパブリック・イメージが掛け合わされたことが良くなかったように思う。

彼女のパブリック・イメージとは、某出版社の編集女史とおしゃべりのなかで出てきたことだが、父親ほどの年齢差があり、かつ、俳優として圧倒的な実力をもった市村正親と結婚し、子供を産み育て、落ち着いちゃった感だ。

年齢的にも実力的にも格段に上な市村正親の存在によって、篠原涼子に、旧来、女性が求められていた、三歩下がって夫に付き従うイメージがなんだかあって、彼女の人生に、仕事…それも、ドラマの主役として引っ張っていく重責に対する必然性をあまり感じられない。

これはあくまで、女子トークのうえでの勝手なイメージではある。

むろん、妻になろうが母になろうが、主役を張っていく人がいていい。

むしろ、本来なら、篠原涼子には、育児終わっても華々しく職場復帰できるのだという希望を託したかったくらいだ。

ところが、彼女が演じた役は、知識も、仕事に対する純粋な意欲もなかった。

世の中の職場復帰したいお母さんには、石田ゆり子が演じている新聞記者のように、やりたい仕事があってもできずに苦しんで戦っているひとも多い。

篠原涼子にはそっちを演じさせたほうがよかったのではないか。

その点、米倉涼子は、離婚を経て、ブロードウェイの舞台を踏んだり、ドラマの主役を張ったり、仕事による自己実現に向かって猛進していて、そんな彼女が颯爽と世の中の制約を跳ね除けて生きる大門未知子を演じているのは痛快だ。

お金のためだけに復職したい母親も多いだろうけれど、そんな共感よりも、ひとまわり大きな夢をドラマでは見たい。

だから、『民衆の敵』で、前田敦子が演じるさとった感じの新人議員の言動のほうが面白く見えてしまった。

育児からの仕事復帰の成功例 菅野美穂、広末涼子

結婚したり、育児したりして、しばらく第一戦から外れていた女優が職場復帰するとき多いのが、母親役へのシフトだ。

原田美枝子は一時期、映画でもドラマでもお母さんといえば原田美枝子という感じだった。

最近だと、斉藤由貴や鈴木保奈美。斉藤由貴は、現役感残しつつ、母親のみならず、おばあちゃん役もやって、目を引いた。

結婚しても子供を産まないことを選んだ山口智子は、女優業をあまりガツガツやってないが、『ハロー張りネズミ』(TBS)でバブルが弾けなかった女という、浮世離れした役がチャーミングだった。

かつて主役を張っていた女優は、脇に回ると、ドラマが華やぐ。要するに、花を添える、という役どころ。そこでいいと思うか、まだまだやるとなるかはその女優の意識次第であろう。大竹しのぶは、ドラマにも出つつ、舞台で主役を張り続け(『にんじん』では少年役までやっている)て、芝居ファーストな感じがひしひし伝わってくる。

菅野美穂(堺雅人と結婚、出産もした)は、朝ドラ『ひよっこ』(NHK)で和久井映見とプロレスごっこをやり、『監獄のお姫さま』(TBS)ではにゃんこスターを踊るなど、笑いもやれますよーという器用さを見せ、もうひとりの涼子・広末涼子は、『奥様は、取り扱い注意』(日本テレビ)や映画『ミックス。』で主役の綾瀬はるかや新垣結衣をサポートしながら、結婚によって抑圧されてしまった妻の開放されたい気持ちを切実に演じていた。あたし、主婦だけで収まっていられないの感が全身から漂っていた。

見ていて腑に落ちるのは、女優の欲望のありか(真実ではなくイメージでも)と役が合致したときだ。

その点、篠原涼子は、欲望のありかがぼやけて見える。

2018年は、映画『サニー 強い気持ち・強い愛』(大根仁監督)、『人魚の眠る家』(堤幸彦監督)と主演映画公開が控えている。脇に回らないという姿勢はかっこいいので、ここは女性の憧れのポジションを取り戻していただきたい。

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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