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『やすらぎの郷』 高齢者の資産を狙った詐欺への警鐘

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

帯ドラマ劇場「やすらぎの郷」(テレビ朝日 月〜金 ひる12時30分  再放送 BS朝日 朝7時40分〜)

第11週 51回 6月12日(月)放送より。 

脚本:倉本聰 演出:唐木希浩

人気の昼の帯ドラマ『やすらぎの郷』。

かつてテレビ業界に多大な貢献をしてきた人たちだけが入居できる老人介護施設〈やすらぎの郷 La Strada〉での日々を描く。

第10週までは、なんだかんだで快適な老後を過ごしているかのような主人公たちだったが、かつての仕事仲間がハワイからやって来たことで、不穏な空気がたちこめはじめた。

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詐欺に逆上

現実世界では、資産のある高齢者が、オレオレ詐欺にかかる事件があとを絶たない。

〈やすらぎの郷 La Strada〉でも、資産を狙った詐欺事件が起こった。

及川しのぶ(有馬稲子)がホストをつとめた伝説のバラエティー番組『しのぶの庭』を復活させると、元テレビプロデューサーの石上(津川雅彦)

が持ちかけて、お金を持ち逃げしたらしい。住人の過去の栄光の思い出を巧みに利用した悪質な手口だ。

石上と一緒にやってきた小春(冨士眞奈美)はグルではないかと疑われ、警察で事情聴取されたのち、しのぶに謝罪する。

だが、しのぶはショックで錯乱状態に陥っており、小春に酒を2回も浴びせかける。

最後に浴びせたのは、「あんたはみんなを傷つけたのよ」という厳しい言葉だった。

石上と小春という闖入者によって、表面的に桃源郷のようだった〈やすらぎの郷 La Strada〉は、やすらげない郷になってしまった。

人生リタイアしたようなことを言いながらも、じつは過去の栄光にまだすがっていること。

老いていくことに対するおそれやあきらめ。でもこれでいいのかといい自問。

財産問題。

住人たちの蓋をしていた気持ちを、石上や小春が開けてしまったのだ。

とぼとぼ去っていく冨士眞奈美に対して、やりきれない顔する有馬稲子。顔演技は、テレビドラマでは珍しくないし、有効ではあるが、『やすらぎの郷』の俳優陣の表情の陰影はことのほか深い。

朝の土下座からの……

翌朝、みんなが食堂で朝ごはんを食べていると、小春がやってきて土下座して謝る。

そのときの冨士眞奈美の衣裳は、ダメージ加工のデニムのジャケット。このダメージ加工が、彼女の心情を表すように見える。ただ、それだけではなく、華やかなスカーフを巻いているところに、女優としての美意識も感じる。

土下座はするが、完全に自分を捨ててはいない小春の元に、王子様ならぬ、秀さん(藤竜也)が手をさしのべる。

サングラス、帽子、コート……を着こなした姿は、ギックリ腰で、トイレ問題で他人に迷惑をかけ、白髪も必死に染めている裏の顔を感じさせないダンディさ。杖すらダンディだ。さすが俳優。

「行きましょう もう十分でしょう」

「入江のほうに行きませんか 朝の海はいいです」

そう言って、秀さんと小春は、キラキラとした朝の入江へ向かう。

ふたりのあとについていく菊村栄(石坂浩二)。

何か完全に邪魔者感を漂わせたまま、第51話は終了した。

主役とはいえ、傍観者的立場(石坂浩二の当たり役・金田一耕助のように事件を客観的に見つめる役割)なので、仕方ないとはいえ、ここのところ、「そんなことがあったとは全然知らなかった」というようなナレーションが何度も出てきて、菊村は完全に蚊帳の外状態だ。

「知らなかった」「あとでわかったことだが」と言うのは、主人公が立ち会っていない出来事まで、主人公に語らせないといけないためだろう。それによって、ナレーションが現在進行系でなく、回想形式になるので、いったいいつの時点で菊村は回想しているのか気になってきた。

金田一といえば

菊村栄の役割は金田一耕助のような事件を客観的に見つめる役割だと、以前から筆者は書いているが「やすらぎの郷」石坂浩二はコロス、八千草薫はデウス・エクス・マキ、今回また金田一を例にあげてみて、ふと気づいたのは、朝ドラ『ひよっこ』には、もうひとりの金田一耕助・古谷一行がセミレギュラーで出演している(主人公のおじいちゃん役)。このキャスティングは偶然なのだろうか。そんなふうに考えてしまうのは、『やすらぎの郷』の枠の次回作、黒柳徹子の半生を描く『トットちゃん!』には、黒柳徹子の母の半生を描いた朝ドラ『チョッちゃん』(87年)のヒロインをつとめた古村比呂も出るとアナウンスされているからだ。いろいろ意識しているのだろうかとつい考えてしまう。まったく視聴者を煽るのがうまい。

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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