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「やすらぎの郷」 高齢化社会、第二の人生を生きるか、姥捨てされるか、それが問題だ

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

48話のあらすじ

アーサー・ミラーの『セールスマンの死』に魅せられ70歳過ぎてから第二の人生をはじめた男の話を、犬山小春(冨士眞奈美)がして、みんなを感動させた頃、事件が起きていた。

東京のBテレに、伝説のバラエティー番組『しのぶの庭』の復活に関する話をしに出かけた貝田(藤木孝)が、どうやら詐欺に合ったらしい。企画をもってきた石上五郎(津川雅彦)は、Bテレとコンサルタント契約など結んでいなかったことが判明する。

小春の熱弁に感動する菊村(石坂浩二)たちを描いた47話のあらすじの後、中島みゆきの主題歌『慕情』の、これまで出てこなかった部分(Cメロ)が登場。ドラマの感動をいっそう盛り上げた。あまりの盛り上がりに、あれ、放送終わったのかな、観る時間間違ったのかな、と一瞬思ってしまったほどだった。

小春は詐欺の片棒を担いでいるのか

石上と一緒にアメリカから日本に戻って来た小春は、この事件に関与しているのか? 話はミステリー調を帯びてくる。

これまでさんざん、過去の小春が問題ばかり起こした嫌われ者であったことが描かれ、さらには、演技が群を抜いて巧かったと菊村が言っていることもあって、小春のやすらぎの郷での言動はまさか……という疑いがもたげてくる。でも、ニューヨークで苦労して、刻んだシワを、秀さん(藤竜也)に評価されたうえ、すばらしくいい話も披露したばかりなので、石上とグルとは思いたくない。

姥捨て、楢山節考

46話の「姥捨された」という台詞が再び登場。小春は、秀さんのヴィラを訊ね、絵を見ながら、かつて、秀さんが息子で自分が捨てられる老母役で出たドラマ『楢山節考』の話をする。これはおそらく、カンヌ国際映画祭パルム・ドール賞(最高賞)を受賞した今村昌平監督の『楢山節考』(83年)で、40代だった坂本スミ子が70歳の老母を演じたことをモチーフにしているのだろう。

あの頃、このシワが刻まれた自分を想像して演じたら良かったと笑う小春。演技とは何かと考えさせられる話である。

少々話は逸れるが、現在、映画『海辺のリア』で自身の年齢そのまま80代の老人役を演じている仲代達矢が、50代のとき、『乱』で70歳の老人をやっていて、そのときは黒澤明監督によりメーキャップによって狂った老人らしさが完成されていったそうだ(ちなみに、29歳のとき既に『切腹』(62年 小林正樹監督)で老人役をやっている)。『海辺のリア』と『乱』を見比べると、俳優・仲代達矢が、老いた人間をどう演じてきたか、その歴史を感じてとても興味深い。

八千草薫はやっぱりかわいいしすごい

その仲代達矢と、倉本聰脚本のドラマ『學』(12年)にて、夫婦役で共演していたのが、姫こと九条摂子役の八千草薫だ。

小春の歓迎会に来なかった、お嬢(浅丘ルリ子)とマヤ(加賀まりこ)とマロ(ミッキー・カーチス)を姫が叱りに来る場面で、八千草薫は、後ろ姿からも怒りを明確に伝えていた。何かすることに無欲のように見えて、じつはしっかり演技しているところがすごい。

また、どれだけ人を罵っても、口調が柔らかいので、観ていていやな気持にならない。ほんとうに稀有な存在だ。

そして、名台詞、連発。

「下手な国会答弁みたいのよしてくださる」

「ひとを罵る言葉、持ち合わせがあんまりいっぱいないのね」

「言い訳聞く耳、私もってないの。私には いいお話だけが聞こえてくるの」(それが小春の話と言う)

「優しい人には神宿るってね」(そういうことわざはないらしい)

この連続レビューでは八千草薫のことばかり書いているが、ほかの俳優も、登場人物がたくさんいるにもかかわらず、皆、キャラが濃く、しっかり主張して、ぼんやりした印象の人がひとりもいない。それだけでもこのドラマの強度を痛感する。

帯ドラマ劇場「やすらぎの郷」(テレビ朝日 月〜金 ひる12時30分  再放送 BS朝日 朝7時40分〜)

第10週 48回 6月7日(水)放送より。 

脚本:倉本聰 演出:池添博

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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