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2022年、ヤクルトの背番号「22」高津臣吾監督が挑む球団史上初の偉業

菊田康彦フリーランスライター
昨年の日本シリーズで流された高津監督の紹介映像(筆者撮影)

巨人以外のセ・リーグ連覇は、過去に4回だけ

「来年、なかなか厳しいですが、連覇を目指してチームとして頑張っていきたいと思います」

 2021年、東京ヤクルトスワローズを6年ぶりのリーグ優勝、そして20年ぶりの日本一に導いた高津臣吾監督(53歳)は、年末のセ・リーグ最優秀監督賞表彰に際して、そう話した。

「なかなか厳しい」との言葉どおり“連覇”は簡単なことではない。2リーグ分立後のセ・リーグでいえば、1965年から73年にかけての9連覇を含め、2連覇以上を8回記録している読売ジャイアンツを除き、広島東洋カープが2回(1979~80年、2016~18年=3連覇)、ヤクルト(1992~93年)と中日ドラゴンズ(2010~11年)が各1回記録しているのみである。

「やっぱり久しぶりに勝つ(優勝する)チームって、そこで少し満足してしまう部分があるんですよね。6月、7月ぐらいでトップを走っていればいいですけど、下のほう(の順位)にいるとあきらめが早くなってしまうって僕は思うんですよね。『去年勝ったんで、今年はいいかな』とか、なんとなくそういう空気になった時点で、そのシーズンは終わってしまうんです」

 2015年にヤクルトが14年ぶりのリーグ制覇を成し遂げた当時の真中満監督は、翌2016年シーズンを前にそのように話していた。1993年に外野手としてヤクルトに入団した真中監督は、現役時代に野村克也監督の下で3回、若松勉監督の下で1回の優勝&日本一を経験したが、その間に連覇はなかった。

球団史上2度目の連覇を目指した2016年は……

「そこは僕らが借金4個、5個になっても、そこでなんとか耐えると。そこで(勝率)5割ぐらいに持っていけば、8月、9月で勝負になるんで、そのスイッチを切らさないってことですよね」

 だが、そう言って臨んだ2016年シーズン、ヤクルトは序盤からBクラスに低迷し、前半戦を借金11の最下位で折り返すこととなった。前年の打点王である四番・畠山和洋(現ヤクルト二軍コーチ)をはじめ、前年首位打者の二番・川端慎吾、五番・雄平(現楽天二軍コーチ)と、主力のバッターが相次いで離脱。後半戦に入って全くベストメンバーを組めなくなった打線に追い打ちをかけるように、8月初旬には前年のMVPである三番の山田哲人までもが、プロ6年目にして初めて故障を理由に登録を抹消されてしまう。

 こうなるとあきらめムードが出てきてもおかしくはなかった。そこに歯止めをかけたのが、ミーティングで「『山田がいないと勝てない』って言われたら、みんなどう思う? オレはメチャクチャ嫌や」と選手たちに呼びかけた三木肇ヘッド兼内野守備走塁コーチ(現楽天二軍監督)や、「(主力の離脱で)『東京』って名乗れるほどの花形はいない。オレらは『下町スワローズ』だ。下町スワローズの力、見せたろかい!」と、若手らを鼓舞した坂口智隆だった。

 実際、残されたメンバーはこうした言葉に奮起。この月は15勝9敗と健闘して、一時はクライマックスシリーズ(CS)進出も視野に入るところまで盛り返した。それでも最終的には5位。あらためて連覇の難しさを痛感させる結果となった。

連覇を逃した6年前とは異なる今のヤクルト

 ただし、当時と今ではかなり状況が異なる。昨年のヤクルトは、高津監督が春季キャンプから選手のコンディションに細心の注意を払い、シーズンを通して主力が離脱することはほとんどなかった。その“高津流”を今年も貫くのであれば、2016年のようなチームの“ヤ戦病院”化はなさそうだ。

 また、SNSで「監督」と呼ばれるほどの存在感でナインを鼓舞する四番の村上宗隆や、昨年のキャプテン就任以来、それまでになく周囲にも気を配るようになった山田。あるいはベテランの青木宣親、嶋基宏といった優れたモチベーターが存在することを考えれば、2016年当時の真中監督が話していたような「下のほうの順位にいるとあきらめが早くなってしまう」という心配も、今のヤクルトには当てはまらないように思える。

 2016年の場合、低迷の大きな要因は、絶対的な守護神としてリーグ優勝の投の立役者となった抑えのトニー・バーネットの退団にあった。これが響いて、チーム防御率は前年の3.31から4.73と大幅に悪化した。翻って今年の場合、昨年はリーグ3位のチーム防御率3.48をマークした投手陣から戦力の流出はなく、むしろチーム最多タイの9勝を挙げた奥川恭伸(20歳)、シーズンで4勝、ポストシーズンでも2勝の左腕・高橋奎二(24歳)、プロ初勝利を含む4勝をマークした金久保優斗(22歳)といった若き先発陣は、まだまだ伸びる余地がある。

 過去2年で計124試合に投げたセットアッパーの清水昇(2年連続最優秀中継ぎ)、来日以来3年間で181試合登板のクローザー、スコット・マクガフにその反動が出なければ、投手陣が大崩れするとは考えにくい。そうなれば球団史上2度目のリーグ連覇は、大いに可能性があると言えそうだ。

2年連続日本一なら球団史上初

 チームを率いる高津監督は、投手コーチ、二軍監督時代に背負った「99」から、一軍監督就任と同時に現役時代のトレードマークでもあった「22」に背番号を変更。その背番号と重なる今年、2022年はさらなる偉業に期待がかかる。

 前述のとおりヤクルトは1992~93年に球団史上でも唯一のリーグ連覇を果たしているが、1992年の日本シリーズは3勝4敗で西武(現埼玉西武)ライオンズに敗退。(1993年は同カードに4勝3敗で勝って日本一)。つまり今年もリーグ優勝からCSを勝ち上がり、日本シリーズに勝って2年連続日本一となれば、球団史上初ということになる。さらに言えば、これはセ・リーグでは巨人と広島しか成し得ていない偉業である。

 もっとも昨年も含め、ヤクルトがこれまで優勝したシーズンは、開幕前の下馬評が低いことが多かった。今年は今のところ大きなマイナスは見当たらず、野手を含めてもプラスの要素の方が大きいように思えるが、まだキャンプ前。シーズンが始まるまではなるべく騒がず、心静かに3月25日の開幕戦(対阪神タイガース、京セラドーム大阪)を待ちたいと思っている。

フリーランスライター

静岡県出身。小学4年生の時にTVで観たヤクルト対巨人戦がきっかけで、ほとんど興味のなかった野球にハマり、翌年秋にワールドシリーズをTV観戦したのを機にメジャーリーグの虜に。大学卒業後、地方公務員、英会話講師などを経てフリーライターに転身した。07年からスポーツナビに不定期でMLBなどのコラムを寄稿。04~08年は『スカパーMLBライブ』、16~17年は『スポナビライブMLB』に出演した。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』(カンゼン)。編集協力に『石川雅規のピッチングバイブル』(ベースボール・マガジン社)、『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』(セブン&アイ出版)。

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