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「77勝」でV逸の阪神に、まだ優勝の可能性が!? 今年のセに過去の“ルール”を当てはめると… …

菊田康彦フリーランスライター
今シーズンのセ・リーグはヤクルトが6年ぶりに制した(筆者撮影)

 プロ野球のセ・リーグは、東京ヤクルトスワローズと阪神タイガースの熾烈な優勝争いの末、ヤクルトが6年ぶりの王者に輝いた。今年は東京五輪開催のため、7月半ばから1カ月近くペナントレースが中断されるという変則日程だったこともあり、優勝決定はリーグ史上でも3番目に遅い10月26日であった。

「引き分け0.5勝、0.5敗」制なら同率首位の可能性も

 セ、パともにいえることだが、今年のペナントレースの特徴は引き分けの多さにある。これは新型コロナウイルス感染拡大を受けた営業時間短縮要請に対応するため、両リーグともに延長戦なし、同点の場合は9回打ち切りの特別ルールで行われていることによるものだ。

 今年と同じシーズン143試合制ながら、最長で12回まで延長戦が行われた2019年は、セ・リーグで引き分けが最も多かったのが阪神の「6」で、最も少なかったのはヤクルトなど3球団の「2」。ところが今年はリーグ最多の読売ジャイアンツは引き分けが「20」もあり、これに次ぐヤクルトは「18」。最少の阪神でも「10」の引き分けがある(パ・リーグの最多は福岡ソフトバンクホークスの21、最少は東北楽天ゴールデンイーグルスの15)。

 過去の記事(引き分け激増のプロ野球。古の「引き分け0.5勝、0.5敗」ルールなら、現在の順位は?)でも紹介したとおり、プロ野球にはかつて引き分けを「0.5勝、0.5敗」で計算して、勝率を算出していたシーズンがあった。セ・リーグは1956年から61年、パ・リーグでは1956年から58年、および61年がこれに当たる。

 この規定を今年のペナントレースに当てはめると、あと1試合を残して73勝51敗18分、勝率.589のヤクルトは「82勝60敗、勝率.577」。一方、77勝56敗10分、勝率.579で全日程を終えた阪神は「82勝61敗、勝率.573」。つまり「引き分け0.5勝、0.5敗」の時代なら、最終戦の結果次第ではヤクルトと阪神が同率で並ぶ可能性が残っていたということになる。

20年前のセは「勝利数1位が優勝」

 ちなみに、現在のセ・リーグの「年度優勝球団」に関する協定(アグリーメント)は、以下のとおり。

(1)レギュラーシーズン勝率第1位の球団を年度優勝球団とする。

(2)勝率第1位の球団が2球団以上となった場合は、そのなかで最も勝利数の多い球団を年度優勝球団とする。

(3)勝率第1位でかつ勝利数も同じ球団が2球団となった場合は、①シーズン中の当該球団間の勝率が高い球団を年度優勝球団とする②当該球団間の勝率が同じ場合は、前年度順位が上位の球団を年度優勝球団とする。

 引き分けを0.5勝、0.5敗で計算して、最終的にヤクルトと阪神が82勝61敗、勝率.573で「勝率1位でかつ勝利数も同じ」となった場合、この協定に則れば、ヤクルトとの直接対決で13勝8敗4分と勝ち越していた阪神が優勝することになる。

 プロ野球の歴史では、この「引き分け0.5勝、0.5敗」に代表されるように、何度か順位規定が見直されている。比較的、近いところでいえば2001年。前年までの「延長15回、引き分け再試合」を廃止したセ・リーグは、新たに「勝利数第1位の球団が優勝。勝利数第1位と勝率第1位の球団が異なる場合、3試合制のプレーオフを行う」という新方式を導入した。

広島は“ルール”のあおりでBクラスに

 実際にはこの年、リーグ最多の76勝を挙げたヤクルトが勝率もリーグトップの.567、これに続く巨人は75勝、勝率.543で、プレーオフを行うことなくヤクルトの優勝が決まっている。ただし、勝率は優勝チームの決定以外には考慮されず、69勝67敗4分、勝率.507の横浜(現横浜DeNA)ベイスターズが3位で、68勝65敗7分、勝率.511の広島東洋カープは4位。広島は1998年から2012年にかけて15年連続でBクラスに沈んでいるのだが、2001年のセ・リーグのみで導入されたこのルールがなければ、そこまで長くは続いていなかったことになる。

 勝利数が上なのに順位が下というのはモヤモヤするだろうし、かといって2001年の広島のように、勝率が上なのに順位が下というのも納得がいかない。1990年から2000年にかけてセ・リーグが行っていた「引き分け再試合」ならば勝利数1位と勝率1位は一致する。だが、そうなると引き分け数の違いによってチーム間で試合数の多寡が生じ、個人タイトルに関してはフェアとはいえなくなる。また、引き分けの数だけ試合数が増えるというのも、選手の疲労やスケジュールのやりくりを考えると、現在のプロ野球では現実的ではないだろう。

 個人的には、メジャーリーグのように延長戦におけるタイブレークの採用を検討してはどうかと思う。原則として引き分けのない、つまり延長戦におけるイニング無制限のメジャーでは、昨年から新型コロナウイルス感染拡大防止対策の一環として、このタイブレークが導入されている。延長戦に入った場合、すべてのイニングで無死二塁から攻撃を始めるため、以前のような長丁場は減った。

 それでも今年8月25日(現地時間)のサンディエゴ・パドレス対ロサンゼルス・ドジャース戦では、タイブレークでもなかなか決着がつかず延長16回、5時間49分におよぶロングランとなっている。ならば日本では無死二塁ではなく、たとえば無死二、三塁から攻撃を始める。あるいはタイブレークを導入した上で、イニング制限も設けるなど、独自のアレンジを施すこともできるはずだ。

「延長戦なし」が今年限りで、来年以降は元の形に戻るようなら、そこまで気にする必要はないのかもしれない。それでも「勝利数が上なのに順位が下なのはモヤモヤする」という声が多いようなら、今後に向けて議論の余地もあるのではないか。

フリーランスライター

静岡県出身。小学4年生の時にTVで観たヤクルト対巨人戦がきっかけで、ほとんど興味のなかった野球にハマり、翌年秋にワールドシリーズをTV観戦したのを機にメジャーリーグの虜に。大学卒業後、地方公務員、英会話講師などを経てフリーライターに転身した。07年からスポーツナビに不定期でMLBなどのコラムを寄稿。04~08年は『スカパーMLBライブ』、16~17年は『スポナビライブMLB』に出演した。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』(カンゼン)。編集協力に『石川雅規のピッチングバイブル』(ベースボール・マガジン社)、『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』(セブン&アイ出版)。

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