「野球をやっててよかった」ヤクルト三輪が“2度目”の引退セレモニーで現役生活に幕

“2度目”の引退セレモニーは二軍の本拠地・戸田球場で行われた(筆者撮影)

 東京ヤクルトスワローズのファームにとって、今シーズン最後の公式戦となる9月26日のイースタン・リーグ、千葉ロッテマリーンズ戦。平日のデーゲームながら、用意されていたチケットは早々に完売となった。

 この日、ヤクルト二軍の本拠地・戸田球場を訪れたファンのお目当ては、なんといっても今シーズン限りで現役を引退する三輪正義(35歳)。9月22日に一軍の本拠地・神宮球場で引退セレモニーを行った後も二軍で出場を続けていたが、いよいよこの日が最後の試合となる。

試合後は30分かけてすべてのファンに対応

 引退セレモニー後の3試合はいずれもベンチスタートだったが、この日は自ら希望したというセカンドのポジションで、1番打者としてスタメン出場。筆者が個人的に期待していた全ポジションでの出場はなかったものの、「(最終戦は)フル出場ですから」との予告どおり、最後まで試合に出続けた。

 打っては1、2打席ともセカンドゴロで、無死一塁で打席に入った6回もセカンドゴロの併殺打。そして1対1の同点で迎えた9回裏のヤクルトの攻撃。先頭打者として4度目の打席に入ると、0-1からの2球目を弾き返すもセンターフライに倒れる。

 そのまま延長戦に入れば、もう1打席回ってくるかもしれない……そんな期待も芽生えた矢先、ヤクルトは2死から安打で出塁した3番・上田剛史が盗塁に成功。ここで、先日の引退セレモニーでは三輪に「ナメた後輩」とイジられていた4番・川端慎吾が左前にサヨナラ安打。この瞬間、12年間におよんだ三輪のプロ野球人生は終わりを告げた。

 試合後は恒例の最終戦セレモニーに続いて、三輪にとって“2度目”の引退セレモニーが行われ、まずはサヨナラのホームを踏んだ上田が花束を贈呈。最後はナインによる胴上げで、三輪の体が6回宙に舞った。

 ところが“イベント”はまだ終わらない。ベンチ前でのミーティングが終わって三輪が球場の外に出ると、待ち構えていたファンが長蛇の列をつくったのだ。サイン、握手、写真撮影……1人1人に丁寧に応じて、30分ほどかけて並んでいたすべてのファンに対応し終えると、大きな拍手が湧き起こった。

「寂しい思いはありますけど、涙は出なかったです(笑)」

 ヤクルトの二軍は今後2試合の練習試合を予定しているが、三輪が出場することはもうない。最後の舞台を後にして、家族とともに土手を歩いて引き揚げる彼に話を聞いた。

「終わったなっていう感じですね。最後は川端がよく打ちましたよね。(9回は)僕もなんか最終打席っぽい雰囲気になって、あれで(延長戦になって)また守備に就くってなったらサブいじゃないッスか? だから後輩(川端)がよくやってくれました」

 4度の打席でヒットは出なかったものの、結果に関しては悔いはまったくないという。それよりも最後に思う存分、野球ができたことがうれしかった。

「高津さん(高津臣吾二軍監督)が(6回の第3打席は)ホントなら(送り)バントっていうところで打たせてくれて。(サインを)見たら『打て』だったんで『あ、いいんスか? すいません』みたいな感じで……ゲッツーでしたけど(笑)。ヒットが出る出ないはあんまり気にしてなかったんですけど、最後までやらせてもらってありがたいですね。引退セレモニーをやって(その後も試合に)出る奴もなかなかいないから、幸せだなって思います」

 守っては軽快な動きで、計7本のゴロを処理。8回のロッテの攻撃は、3つのアウトがすべてセカンドゴロだった。

「ねっ、8回は全部飛んできましたね。あんなに真剣に打球を捕ることはもうないでしょうね。あんなに真剣にやることはないと思うと、寂しい思いはあるけど……ちょっと涙出るのかなと思ったけど、出なかったです(笑)」

指導者目指すも「ちょっとゆっくりしてから考えようかな」

 22日の引退セレモニーは降雨コールドゲームで試合が終了した後で、トレードマークの「雨中のヘッドスライディング」を行うにはおあつらえ向きだったが、この日は打って変わって好天に恵まれた。

「晴れてよかった? ホントにそう。僕は(ヘッドスライディングは)あえてやったことは一度もないです。雨が降ったらやるだけであって、無理やりホースで水を撒いてもおもんないですから。雨が降るから面白いわけですから。でも、向こう50年はないでしょうね……引退セレモニーであんなことが起こる(計算したように雨が降る)なんていうのは」

 球場に詰めかけた多くのファンに対しては「うれしい話ですよね。野球をやっててよかったなって思う瞬間ではありますよね」と、あらためて感謝の言葉も口にした三輪。今後に関してはまだ何も決まっていないが「僕は指導者をやりたいので、指導者ができる道を探しながら動こうかと思ってます」という。ただし──。

「ちょっとゆっくりして、それから考えようかなと思ってます」。ファンにこよなく愛された名バイプレーヤーはそう言うと、愛する家族のほうを向いて柔らかな笑みを浮かべた。

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