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新たな“二刀流”誕生か? ヤクルトの捕手・山川が二軍公式戦初登板

菊田康彦フリーランスライター
戸田球場のスコアボードには「P(投手)山川」の文字が(筆者撮影)

投手と捕手、両方に「山川」の名前

 9月11日、東京ヤクルトスワローズ対読売ジャイアンツのイースタン・リーグ公式戦を控えた戸田球場で、興味深いモノを目にした。一塁側のヤクルトベンチにあるホワイトボードに書かれたベンチ入り選手の一覧に、控え投手と控え捕手の両方に「山川」の名前があったのである。

 ヤクルトで「山川」といえば、高卒5年目の山川晃司(22歳)しかいない。福岡工大城東高からドラフト3位で2015年に入団したこの捕手は、いまだ一軍出場の経験なし。二軍ではプロ1年目の2015年こそ69試合(うち捕手で47試合)に出場したものの、その後は年々出場機会を減らしている。昨年はマスクをかぶったのは17試合で、その他のポジションでの出場のほうが多かった(外野20試合、一塁1試合)。

 その山川が、今年3月の大学チームとの試合で投手として登板したことは知っていたが、これは投手不足による苦肉の策だと思っていた。直後に山川はコンディション不良で戦列を離れ、8月の終わりに復帰したものの、復帰後の出場2試合はいずれも代打。本人の話を聞いてみると……。

「基本、キャッチャーで準備してますけど、3日に1回はブルペンにも入ってます。二刀流ですか? この前(9月4日)の独立リーグ(関西独立リーグ選抜)との試合でありました。(2番手)ピッチャーで投げて、1回ベンチに下がったんですけど、特別ルールなんで出ていいって言われて。それでもう1回(代打で)出て、キャッチャーもやりました」

 なんと公式戦ではないとはいえ、既に二刀流出場も経験しているという。この日の巨人戦はベンチスタートながら「(投手でも)ベンチに入ってるんで、1回(肩を)つくったら(ベンチに)帰ってきて、投げそうだってなったらもう1度準備すると思います。(二刀流で)やるしかないですから」という山川の出番を待った。

連続死四球でいきなりピンチを招くも……

 だが、初回から巨人の一方的な展開となった試合で、山川の名前はなかなかコールされない。9回表の巨人の攻撃を前にようやく「ピッチャー山川」のアナウンスが流れ、ついに公式戦では初めてのマウンドに上がった。

 最初のバッターは四番の北村拓己。初球ボールのあと、144キロのストレートをファウルしてカウント1-1となるが、続く3球目が右肩付近を直撃する死球に(代走に若林晃弘)。山川は途中出場の五番・湯浅大にも四球を与えて無死一、二塁のピンチを招くも、六番の山本泰寛をインコースのストレートでショートフライに抑え、まずワンアウトを取る。

 ここまでは全球ストレート。しかし、途中から七番に入っていた村上海斗の3球目に、この日初めての変化球となるスライダーを投じてファウルでカウント1-2と追い込むと、4球目を打たせてショートゴロ。最後はこれも途中出場の八番・高山竜太朗に対して0-2からフォークで空振り三振を奪い、なんとか無失点で切り抜けた。

 ヤクルトはその裏、3者凡退に終わって1対10の完敗。指名打者制とあって山川は打席に立つこともなく、守備に就くこともできず二刀流出場とはならなかったが、1回無失点で投手としての公式戦デビューを飾った。

小野寺コーチ「フォークは思ったより落ちてた」

 山川は試合後「全然ダメでした……。(デッドボールを)当ててビビっちゃいましたね」と苦笑いしたが、高津臣吾二軍監督は「二刀流? まあ、そうですね。何回か投げさせてみてですね」と、今後も野手でも投手でも起用していく考えを示唆。小野寺力二軍投手コーチは「キャッチャーが本職なんで、そっちも頑張ってもらわないと」といいながらも「スピードはありますからね。(今日は)フォークが良かったですね。(投げ方を)聞いてきたんで僕も教えましたけど、思ったより落ちてました」と、高山から三振を奪った決め球を評価した。

 メジャーリーグではロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平が投打の活躍で昨年のア・リーグ新人王に輝いたのをきっかけとして、二刀流が広まりつつある。大谷自身は昨年トミー・ジョン手術(靭帯再建手術)を受けた影響で今季は打者に専念しているものの、同僚のジャレッド・ウォルシュやブレンダン・マッケイ(レイズ)などが、新たに二刀流としてメジャーの舞台に上がっている。

 一方、NPBでは昨年まで育成の外野手だったオリックス・バファローズの張奕(ちょう・やく)が今年から投手として登録され、5月には支配下選手に。そして8月8日の北海道日本ハムファイターズ戦で初先発&初勝利を記録したが、彼の場合はあくまでも外野手から投手への転向である。メジャーに去った大谷の後に続く二刀流は、なかなか現れそうになかった。

 投手としてはまずまずの公式戦デビューを果たした山川だが、二刀流に挑戦する上での課題はバッティング。1年目は.209だった打率はその後は毎年1割台で、今年は野手として12試合に出場していながらヒットは出ていない。高卒とはいえ、もう5年目。打撃を磨いて二刀流の道を歩むのか、あるいは投手に転向するのか、その辺りの見極めも大事になってきそうだ。

フリーランスライター

静岡県出身。小学4年生の時にTVで観たヤクルト対巨人戦がきっかけで、ほとんど興味のなかった野球にハマり、翌年秋にワールドシリーズをTV観戦したのを機にメジャーリーグの虜に。大学卒業後、地方公務員、英会話講師などを経てフリーライターに転身した。07年からスポーツナビに不定期でMLBなどのコラムを寄稿。04~08年は『スカパーMLBライブ』、16~17年は『スポナビライブMLB』に出演した。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』(カンゼン)。編集協力に『石川雅規のピッチングバイブル』(ベースボール・マガジン社)、『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』(セブン&アイ出版)。

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