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「これで最後っていうくらいの気持ちで」今季初スタメンのヤクルト西浦、決勝打含む猛打賞でお立ち台に

菊田康彦フリーランスライター
ヤクルトの本拠地、神宮球場(筆者撮影)
ヤクルトの本拠地、神宮球場(筆者撮影)

 4月4日の広島東洋カープ戦に8対5で競り勝ち、本拠地の神宮球場では今季初の白星を挙げた東京ヤクルトスワローズ。決勝の適時打を含む3安打、2打点の活躍で、勝利の立役者となったのは、プロ5年目の西浦直亨(26歳)だった。

「チャンスは少ないだろうと思っていた」

 思いがけないチャンスだった。正三塁手の川端慎吾が前日の同カードで頭部に死球を受け、脳振とう特例措置による登録抹消で離脱。その代役として「二番・三塁」でスタメンに起用されたのだ。

 試合前、西浦はこの試合にかける思いを口にしていた。

「(今年は)チャンスは少ないだろうと思っていたんで…。今日、一発目(の機会)をもらったんで、これで最後っていうくらいの気持ちで、はい」

 プロ1年目の2014年には、プロ野球史上初の「開幕戦初打席初球本塁打」という華々しいデビューを飾りながら、なかなか一軍に定着できなかった。昨年はそのルーキーイヤー以来となる開幕戦先発出場も、シーズンでは72試合で打率.207、0本塁打と、与えられたチャンスをモノにすることはできなかった。

 今年も開幕一軍入りを果たしたものの、横浜DeNAベイスターズとの開幕3連戦(横浜)では、出番はまったくなし。それでも試合のなかった4月2日は休日返上で練習に汗を流し、「控え(の立場)で、どんな状況で出番が回ってくるかわからないので、とにかく準備だけはしておきたかった」と話していた。

6回には決勝の中前打

 この試合、いや今シーズンの初打席は、1回裏1死走者なしの場面。ここで初球にセーフティバントを試みると、コロコロとファウルライン沿いに転がった打球は切れることなく三塁ベースに達し、内野安打で出塁する。

 ここは得点にはつながらなかったが、4回裏にはヤクルトが1点を先制してなおも2死一、二塁で打席に入り、レフト前にタイムリーヒット。さらに5対5の同点で迎えた6回裏には、無死一、三塁の場面でカウント1-0からの2球目をセンター前に運び、三塁走者が勝ち越しの生還。これが決勝点となり、西浦は試合後のヒーローインタビューで、2安打、1打点の青木宣親とともにお立ち台に上がった。

お立ち台後も「日課」の素振り

「今日はホントにやってやろうっていう気持ちで。強い気持ちをもって、しっかりできました」

 ヒーローインタビューでそう話した西浦は、その後は球場に隣接するクラブハウスで取材に応じると、きびすを返して再び球場に向かった。昨年の途中から、先輩の大松尚逸にならって試合後は素振りを行うのが日課になっており、ヒーローになったからといってやめるわけにはいかなかったのだ。

 このオフ、バットを振った量は「今までで一番かもしれない」という西浦。努力は必ず報われるとは言い切れないのがプロ野球の世界だが、それでもひたむきに努力を続けることの大切さを、この日の活躍に教えられた気がする。

フリーランスライター

静岡県出身。小学4年生の時にTVで観たヤクルト対巨人戦がきっかけで、ほとんど興味のなかった野球にハマり、翌年秋にワールドシリーズをTV観戦したのを機にメジャーリーグの虜に。大学卒業後、地方公務員、英会話講師などを経てフリーライターに転身した。07年からスポーツナビに不定期でMLBなどのコラムを寄稿。04~08年は『スカパーMLBライブ』、16~17年は『スポナビライブMLB』に出演した。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』(カンゼン)。編集協力に『石川雅規のピッチングバイブル』(ベースボール・マガジン社)、『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』(セブン&アイ出版)。

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