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元打撃投手の「二刀流」ヤクルト阿部、“デビュー戦”で巨人・内海から初安打&初打点!

菊田康彦フリーランスライター

今月8日に育成選手として契約し、打撃投手から現役に復帰した東京ヤクルトスワローズの阿部健太投手(30歳)が、14日に戸田球場で行われたイースタン・リーグ、読売ジャイアンツ戦に八番・左翼で先発出場。5回裏に巨人の先発・内海哲也投手から左中間に同点適時打を放ち、育成契約後“初安打&初打点”を記録しました。

イースタン、巨人戦で初めて野手として出場し、内海と対戦したヤクルト阿部
イースタン、巨人戦で初めて野手として出場し、内海と対戦したヤクルト阿部

戦力外→打撃投手→育成契約→レフトでスタメン

投手なのに「八番・左翼」? そう思っても無理はありません。阿部投手はドラフト4巡目で2003年に近鉄バファローズに入団し、その後は球団合併に伴ってオリックス・バファローズ、阪神タイガース、ヤクルトと渡り歩いて、昨年までの12年間で通算110試合に登板したれっきとしたピッチャーです。昨年限りでヤクルトを戦力外となり、今シーズンからは打撃投手に転身していましたが、「チーム事情」により急きょ育成選手として現役に復帰することになりました。

そう、阿部投手が現役に復帰したのも、イースタン・リーグの試合にレフトで先発出場したのも、すべてはその「チーム事情」にあります。それはズバリ、故障者の続出による選手不足──とりわけ野手の人員不足です。今シーズンのヤクルトの野手(捕手、内野手、外野手)は、5月に獲得したミッチ・デニング選手を含め総勢32名。現在一軍にいる16名を除いても、まだ16人の野手がいるはずですが、そのうちウラディミール・バレンティン、ラスティングス・ミレッジの両外国人を筆頭に、8人が故障やケガで試合に出ることができない状態にあります。

つまり、試合に出場できる状態にあるのは捕手4人、内野手2人、外野手2人の計8名のみ。この日のイースタン、巨人戦では本来は捕手の山川晃司選手を一塁、星野雄大選手を二塁で使うなど、そのうち7人をスタメン起用し、もう1人の捕手である井野卓選手だけは緊急時に備えてベンチで待機。足りない1枠を阿部投手が埋める形となりました。

(ほかに投手2人が「内野手」としてベンチに待機)

二軍の試合では指名打者制が採用されていますが、そんな余裕はないので先発の古野正人投手も九番に入りました。相手の巨人は当然のように指名打者も含め、10人が先発メンバーに並んでいます。ところが野球というのはわからないものです。0対1と1点ビハインドで迎えた5回裏のヤクルトの攻撃。1死一、二塁の場面で左打席に入った阿部選手が、カウント0-1から内海投手のストレートを左中間に運ぶと、二塁走者がかえって同点。阿部選手はさらに足でも魅せます。

1死一、三塁となって、続く九番・古野投手がカウント1-0からバントを空振りすると、三塁走者が三本間で挟まれタッチアウト。しかし、この間に一塁走者の阿部選手が好走塁で一気に三塁を陥れます。この後、古野投手にも中前適時打が飛び出し、ヤクルトが勝ち越し。そのまま2対1で勝利を収めました。

「ピッチャーはないと思います」

打って走って、さらに守りでも7回2死一、三塁のピンチに、左前に飛んだライナー性の打球を好捕するなど、三拍子揃った活躍でみごとに勝利の立役者となった阿部選手。試合後、数少ない(?)取材陣で囲み、“ヒーローインタビュー”を行いました。その一部をここに再現します。

──ナイスバッティング!

いやあ、素人なんで。

──とてもピッチャーが本職とは思えない。

実は過去に2度、野手転向を断ってるんです。オリックスと阪神の時に、言われたことがあったんですよ。ピッチャーにこだわりたかったから、断ったんですけど。

──阪神時代の2009年にヒット2本を記録。

そうなんですよ。(通算)打率5割(4打数2安打)なんです(笑)。

──打撃にはもともと自信あり?

いやあ、自信はないです。やっぱりいいところに投げられたら、そんなに打てるもんじゃないですから。

──タイムリーは左中間。逆方向を意識?

まあ、そうですね。外の球を無理に引っ張る必要はないし。真ん中からインサイドぐらいは引っ張ろうかなとは思いますけど、(コースに)逆らわずにですね。

──支配下登録へ向けアピール。

いやいや、それは全然ないです。僕の場合は超異例中の異例ですから。ずっとピッチャーをやってたわけですし、ピッチャーとして(現役に)戻るのとはわけが違うんで。でも、やるからには迷惑をかけないように、フライも捕れるものは捕ってっていう考えです。とにかく僕はケガをしたら一番ダメだと思うので、そこは自分で立場をわきまえてます。

──今後も野手としての出場が中心?

ピッチャーはないと思います。投手登録になってるんでちょっとややこしい部分があるんですけど、野手が足りないのでそっちを手伝えということなんで、ピッチャーをやることはないです。ピッチャーの練習もしてないですし。

──楽天の横山徹也選手(今年6月にブルペン捕手から育成選手契約)と同じようなケース。

アイツはもともと近鉄の同期で、同級生です。(育成契約が決まって)「お前、おもろいなぁ」って言ってたら、今度は僕がなってたっていう(笑)。

なお、ヤクルトの伊東昭光二軍監督も、今後もあくまでも野手として起用すると明言しており、残念ながら阿部選手の“二刀流”を見るのは難しそうです。ともにケガで離脱中の畠山和洋、上田剛史両選手がこの日の試合前練習に参加し、球宴明けにも復帰との見通しを語っていたこともあり、そうなるとところてん式に阿部選手の出番がなくなることも予想されます。それでも、もうちょっとそのプレーが見たい!と思わずにはいられない、この日の阿部選手の活躍でした。

フリーランスライター

静岡県出身。小学4年生の時にTVで観たヤクルト対巨人戦がきっかけで、ほとんど興味のなかった野球にハマり、翌年秋にワールドシリーズをTV観戦したのを機にメジャーリーグの虜に。大学卒業後、地方公務員、英会話講師などを経てフリーライターに転身した。07年からスポーツナビに不定期でMLBなどのコラムを寄稿。04~08年は『スカパーMLBライブ』、16~17年は『スポナビライブMLB』に出演した。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』(カンゼン)。編集協力に『石川雅規のピッチングバイブル』(ベースボール・マガジン社)、『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』(セブン&アイ出版)。

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