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北米プロスポーツ史上最悪の「20年連続負け越し」にピリオド

菊田康彦フリーランスライター

9月3日(現地時間)、メジャーリーグ(MLB)ナショナル・リーグ中部地区のピッツバーグ・パイレーツが、青木宣親を擁する同地区のミルウォーキー・ブルワーズに4対3で勝ち、今シーズンの81勝目を挙げました。これは実に大きな意味のある勝利でした。これでパイレーツは今季の残り24試合に全敗しても勝率5割を確保することになり、昨年まで続いていた北米プロスポーツ史上ワーストの「20年連続負け越し」にピリオドが打たれたからです。

1970年代後半にMLBに興味を持つようになった筆者にとって、パイレーツというチームには特別な想いがあります。なにしろ70年代だけで地区優勝6回、うちワールド・シリーズ優勝2回。選手も「POP(パパの意)」と呼ばれたまとめ役のベテラン、ウィリー・スタージェル一塁手に、首位打者2回の打撃に加えて無類の強肩を誇ったデーブ・パーカー外野手、口ヒゲが特徴的な左腕エースのジョン・キャンデラリアに、サングラスがトレードマークの抑えのサイドスロー、ケント・テカルビーなどなど、個性的かつ魅力的な選手が揃っていました。てっぺんが平らで横にラインが3本入った「ピル・ボックス(薬箱)」型のキャップも、子供心にメチャメチャ格好良く見えました。

94年から続いた暗黒時代

ところがそのパイレーツも、のちにMLBの通算本塁打記録を塗り替えるバリー・ボンズ外野手らの活躍で1990~92年まで地区3連覇を成し遂げたのを最後に、暗黒時代に突入します。それも半端な長さではありませんでした。連覇が途切れた94年から、勝率5割を切るシーズンが延々と続いたのです。この間、2007年には桑田真澄投手、10年には岩村明憲内野手(現東京ヤクルト)、12年途中からは高橋尚成投手(現ロッキーズ傘下)が在籍して日本のファンに注目されたこともありましたが、借金シーズンがストップすることはありませんでした。

それでも2011年は前半戦を1992年以来の勝率5割超えで折り返すと、7月18日には単独首位に浮上。暗黒時代の続いていたパイレーツにとって、シーズン後半に一時的とはいえ首位に立つのは実に14年ぶりのことでした。この単独首位は「2日天下」に終わりますが、7月も5割で乗り切ってなんとか貯金をキープします。しかし、8月に8勝22敗とまさかの大失速…。結局、この年も勝率5割には届きませんでした。

昨年も6月から貯金生活に入ると、独立記念日の7月4日には単独首位に躍り出るも、またしても8月に入って11勝17敗と負け越し。9月18日からの5連敗で貯金もすべて吐き出して借金生活に逆戻りし、そのままシーズン終了となりました。これで20年連続負け越し。今年も勝率5割を切れば、21年連続になるところでした。

汚してはならない「21」

実は「21」というのはパイレーツにとっては大切な数字です。1955年からパイレーツ一筋に18年プレーし、72年には通算3000安打を達成した「ピッツバーグの至宝」こと、プエルトリコ出身のロベルト・クレメンテ外野手が背負っていたのが21番だったからです。クレメンテはその72年の大晦日に、ニカラグア地震救済活動のために乗り込んだチャーター機で事故に遭い、まだ38歳の若さで非業の死を遂げます。通常、野球殿堂入りには引退後5年の空白期間が必要ですが、特例として彼は翌73年に殿堂入りを果たしました。そんなクレメンテはピッツバーグの人々にとって今も英雄なのです。永久欠番にもなっているその背番号「21」は、不名誉な記録などに載せてはならない数字なのです。

そして迎えた今年、2013年。4月を15勝12敗と4年ぶりに勝ち越したパイレーツは、5月、6月に大きく勝ち越してオールスターまでに19もの貯金を作ることに成功します。今シーズンはパイレーツで2試合に登板し、5月に東京ヤクルトに入団したクリス・ラルー投手と「去年もおととしも8月に失速しているから、今年も8月をどう乗り切るかだね」などと話したことがありますが、今年はその8月を14勝14敗の五分でしのぎ、月末の時点で79勝56敗。9月2日のブルワーズ戦に勝って王手をかけると、翌日の同カードで一気に21年ぶりの勝ち越しを決めました。

不名誉な記録を止めても、パイレーツのシーズンが終わったわけではありません。3日現在81勝57敗、勝率・587で、2位のセントルイス・カージナルスに2ゲーム差の首位。このまま21年ぶりの地区優勝まで突っ走ることができるかどうか、その戦いからは最後まで目が離せません。

フリーランスライター

静岡県出身。小学4年生の時にTVで観たヤクルト対巨人戦がきっかけで、ほとんど興味のなかった野球にハマり、翌年秋にワールドシリーズをTV観戦したのを機にメジャーリーグの虜に。大学卒業後、地方公務員、英会話講師などを経てフリーライターに転身した。07年からスポーツナビに不定期でMLBなどのコラムを寄稿。04~08年は『スカパーMLBライブ』、16~17年は『スポナビライブMLB』に出演した。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』(カンゼン)。編集協力に『石川雅規のピッチングバイブル』(ベースボール・マガジン社)、『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』(セブン&アイ出版)。

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