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なぜアーロン・ジャッジと大谷翔平にこれだけの大差が生じてしまったのか?その背景にあるものとは?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
30人中28人から1位票を獲得しMVPを受賞したアーロン・ジャッジ選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【ア・リーグMVPはジャッジ選手が大差で受賞】

 全米野球記者協会(BBWAA)は現地時間の11月17日、同協会の記者投票による個人タイトルの最後を飾る両リーグの MVPを発表し、ナ・リーグはカージナルスのポール・ゴールドシュミット選手、ア・リーグがヤンキースのアーロン・ジャッジ選手がそれぞれ受賞した。

 得票上位3人のファイナリストに入り、2年連続受賞が期待された大谷翔平選手は2位に入った。とはいえ投票者30人中28人がジャッジ選手に1位票を投じており、ジャッジ選手に130ポイント差つけられてしまった。

 ただ1位票、2位票はすべて大谷選手とジャッジ選手に集中しており、大方の予想通り、今年のMVPレースは2選手によるデッドヒートだったことが改めて浮き彫りになった。

【日本の報道では僅差予想が主流だったが…】

 ジャッジ選手、大谷選手によるデッドヒートだったとはいえ、今回の投票結果に驚かれた人も多いのではないだろうか。日本では投票もかなりの接戦になり、僅差を予想する報道が続いていたように感じるからだ。

 だが実際の投票結果を見ると、大谷選手に1位票を投じたのはLAを本拠地とするエンジェルス担当の記者2人だけで、残り28人の記者たちはすべてジャッジ選手を1位にしているのだ。

 実はこのような状況になることは、かなり早い時期に予想できていた。

 まだ日本では大谷選手の報道が最高潮だった9月上旬のことだが、あくまで個人的に有料記事を通じて購読者に向け、米国内(特に米メディアの間で)の空気が明らかにジャッジ選手に傾いており、予想以上に大差がつく可能性を指摘していた。

 その出来上がった空気は結局シーズン最後まで変わることはなく、そのまま今回の投票結果に表れてしまったというところだ。

 簡潔に説明するならば、野球はチームスポーツであり、個人成績で優劣がつけられないのなら、チーム成績を参考にすべきという空気だ。

【ジャッジ選手を推していた重鎮記者の私見】

 改めて経緯を説明しよう。

 9月9日に「殿堂入りベテラン記者が指摘するアーロン・ジャッジにできて大谷翔平にできないこと」という記事を公開させてもらった。その当時は米国でも大谷選手、ジャッジ選手を推す勢力はかなり拮抗していたように思う(それでもジャッジ選手がやや有利だった)。

 そこに球界では重鎮の1人であるESPNのティム・カークジャン記者が、以下のような私見を語ったのだ。

 「ジャッジは毎日出場し続ける主力選手としてキャリア最高のシーズンを過ごし、彼の存在なくしてチームはポストシーズンを争う現在の位置にいなかっただろう。

 自分は古いタイプの人間で、(MVPを獲得するような)偉大な選手はチームをプレーオフに導くものだと考えている。それも重要な評価ポイントになっている」

【シーズン終盤で確実にジャッジ選手に傾いていった米メディア】

 カークジャン記者が私見を明らかにした頃は、最大で15.5ゲーム差をつけてア・リーグ東地区を独走していたヤンキースがかなりの勢いで下降し始め、どんどんゲーム差を縮められる危機的状況にあった。

 その主たる原因が貧打戦による得点力不足で、その中で唯一獅子奮迅の打撃を披露し、チームを救い続けていたのがジャッジ選手だった。結局シーズン後半戦のジャッジ選手は、三冠王奪取こそ逃したものの、ア・リーグの年間最多本塁打記録を塗り替える活躍をみせ、見事ヤンキースを地区優勝に導いている。

 長いMLB取材経験の中でも、ここまで1人の選手の力がチームの勝利に影響を及ぼしたケースはなかなかなかったような気がする。

 その一方で、大谷選手もチーム内での影響力はジャッジ選手に勝るとも劣らないものだったが、エンジェルスはすでにポストシーズン争いから撤退している状況で、帰国後に本人が話しているように、「去年よりも特に8月、9月は長く感じた」というシーズン終盤を過ごしていた。

 そうした2選手の個人成績とは別に歴然とした両チームの差があったことで、米メディアの間でカークジャン記者と同様の考え方をする人たちが確実に増えていった。その中には、長年MLBのポストシーズンの実況中継を担当していたジョー・バック氏も含まれている。それを肌で感じとることができていたので、有料記事でジャッジ選手の圧勝を予想したわけだ。

 MVPの受賞資格についても様々な考え方があるし、むしろチーム成績を加味するのは適当ではないのかもしれない。だが裏を返せば、今回判断を下すには両選手の個人成績だけでは差をつけることができなかったからではないだろうか。

 むしろ今回の大差は、個人成績ではなくチームの差が反映されてしまったのかもしれない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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