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過去にない過密ペースで消化試合で大谷翔平を登板させているエンジェルスの起用法は是か?それとも非か?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
中5日ペースの登板にシフトしてから大谷選手の成績が下降している(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【8月は勝率5割をキープするエンジェルス】

 なかなか不振から抜け出せないエンジェルスが8月に入り、勝ち星が増え始めている。現地時間の8月19日のタイガース戦を戦い終えた時点で、8月のチーム成績は9勝8敗と勝ち越している状態だ。

 前述のタイガース戦から背中を痛めて戦線離脱していたマイク・トラウト選手が復帰し、明るい材料も出てきた。仮にこのまま勝率5割以上をキープできるようならば、4月以来の勝ち越し月間となる。

 ただ地区首位争いどころか、ワイルドカード争いでも出場圏内チームに11.5ゲーム差離され、トレード期限日までにノア・シンダーガード投手、ライセル・イグレシアス投手、ブランドン・マーシュ選手の主力3選手を放出している時点で、どう転んでも残りシーズンは消化試合であることに変わりはない。

【大谷選手のフル回転登板を明言するネビン監督代行】

 そんな状況下でありながら、フィル・ネビン監督代行は日本でも報じられているように、公式戦終了まで大谷翔平選手を基本的に中5日ペースで先発させることを明らかにしている。

 この監督代行の方針により大谷選手の登板機会が増えるため、日本では期待を込めて、投手として初めて規定投球回数に到達する可能性が出てきたと報じられている。

 現在もアーロン・ジャッジ選手と熾烈なMVP争いを演じている立場からすれば、二刀流として規定打席と規定投球回数に到達するようなことになれば、新たな歴史的金字塔として大きなアピールポイントになるのは間違いないだろう。

【本来なら主力選手をフル回転させる時期ではない】

 だがそんな短絡的な捉え方でいいのだろうか。

 昨シーズン終盤のことを思い出して欲しい。昨シーズンもかなり早い時期にポストシーズン争いから撤退しているチーム状況の中で、最後まで大谷選手を二刀流でフル回転させる起用法に、他チームのGMから「すでに消化試合に入っているのだから来シーズンを見据えて休養を与えるべきだ」との疑問の声が上がり話題になったのを記憶されている方も多いはずだ。

 その状況は今シーズンも変わりがなく、大谷選手のようにほとんど休みなくフル回転してきた主力選手ならば、大抵はシーズン終盤にかけて欠場するケースが増えてくるものだ。

 たとえMVP争いをしている状況でも、影響ができない程度に休養することは十分に可能なのに、さらに過去に例を見ないペースで最後まで登板させようとしているのだから、蓄積疲労を含めむしろ不安要素が増していないだろうか。

【あくまで打者中心の起用法だったマドン前監督】

 そもそも登板日前後に欠場するという日本ハム時代から踏襲されてきた二刀流の起用法を見直し、大谷選手本人と対話をしながらフル回転させるようになったのはジョー・マドン前監督だ。まさに彼によって、二刀流は新たな次元に足を踏み入れたと言っていい。

 ただマドン前監督の起用法は、まず指名打者として毎試合出場するのをベースにして、できる限り6人の先発ローテーション通りに先発させるというもので、体調や疲労を考慮しながら登板をずらして調整していくものだった。

 それを裏づけるように、昨シーズンの大谷選手は23試合に登板し、6人ローテーション通り中5試合で登板したのは12試合のみで、後は中6試合が3試合、中7試合が3試合、中8試合が1試合、中13試合が1試合と、かなり登板をずらしていた。

 特にシーズン終盤の8月以降に至っては、中5試合で登板したのは1試合しかなかったし、逆にシーズンを通して大谷選手の先発を優先させ、中4試合で登板させたのもわずか1試合のみだった。

【中5試合から中5日登板にシフトしたネビン監督代行】

 今シーズンも6月7日にマドン前監督が解任されるまでその起用法に変更はなく、基本的に中5試合ペースを続けながら、5月5日のレッドソックス戦では中7試合にずらし、6月9日のレッドソックス戦前でも中6試合の間隔を空けている。

 だがネビン監督代行が指揮するようになってからは、明らかに起用法が変化し、中5試合ペースから中5日ペースの起用にシフトしている。そして起用法変更に伴い、大谷選手の投球内容も下降気味になっているのだ。

【中5日ペースで大谷選手の投球内容に変化】

 すでにご承知のように、前述の6月9日のレッドソックス戦でチームの14連勝をストップする好投を演じてからというもの、シーズン前半戦最後の登板となったアストロズ戦の6試合まで、大谷選手の投球は無双状態だった。

 改めて説明しておくと、この6試合における投球成績は、6勝0敗、防御率0.45で、さらに58奪三振、被打率.144と、チーム広報などが発表しているように、6試合スパンでは過去のサイヤング賞投手たちに匹敵する内容だった。

 このスパンではネビン監督代行も中5試合ペースを守り、そこにオフ日が絡んだことで中6日登板(1度だけオフ日がなく中5日登板している)を続けることができていた(ただし7月6日のマーリンズ戦だけオフ日が2日あったので中6日ながら中4試合で登板している)。

 ところがシーズン後半戦に入ると、ネビン監督代行は中5日登板をメインに切り替え、すでに2回も中4試合で登板させている。ちなみに次回登板予定の8月21日のタイガース戦も中5日、中4試合登板だ。

 この中5日ペースで登板した5試合の投球成績を見ると、1勝3敗、防御率3.60に止まり、他も44奪三振、被打率.274と、どの数字も悪くなっている。

 果たしてこのままシーズン最後まで、大谷選手を中5日ペース中心で登板させて大丈夫なのだろうか。

【大谷選手を説得するのも首脳陣やGMの重要な役目】

 繰り返しになるが、同一シーズンでの規定打席と規定投球回数の到達は、二刀流選手として歴史的な金字塔だ。こんな機会はそう度々訪れるものではないのかもしれない。

 だが大谷選手は6人ローテーションを守り、中5試合ペースで登板していけば、素晴らしい投球を続けられることを証明してみせた。仮に来シーズンも開幕から中5試合ペースで質の高い投球を続けることができれば、計算上は平均6イニング以上を維持できれば規定投球回数に到達するのだ。

 現在の大谷選手なら夢物語だとは思わないし、だからこそ消化試合に入った今、無理をさせてまで大谷選手に投げさせることに大きな疑問を感じる。

 大谷選手が事あるごとに「身体が健康であるならば少しでも多くの試合に出たい」という言葉を繰り返しているのは理解している。だからと言って、この時期に選手の意思をすべて尊重するのはチームとして間違っていないだろうか。

 今後大谷選手と契約延長できるかどうか定かではない状況とは言え、ペリー・ミナシアンGMはトラウト選手と大谷選手中心のチームづくりをしたいと公言している以上、今こそ来シーズンを見据えるべき時だし、大谷選手のような主力選手たちを説得して来シーズンに備えさせるのも、彼らの重要な役目のはずだ。

 現在のエンジェルスは何を目指しているのだろうか…。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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