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トレード不可避になったフアン・ソトと去就が注目されている大谷翔平の大きく異なる周辺事情

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
まだチームから正式オファーすら受けていない大谷翔平選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【トレード放出が不可避になったソト選手】

 米国現地時間の7月16日、今シーズンのトレード市場を揺るがすようなニュースがもたらされた。

 球界屈指の敏腕記者として知られる「The Athletic」のケン・ローゼンタール記者が報じたところによれば、ナショナルズのフアン・ソト選手が、チームから提示された15年間総額4億4000万ドルに上る契約延長オファーを拒否したようだ。

 ナショナルズが提示したオファーは、2019年にエンジェルスがマイク・トラウト選手と合意したMLB史上最高額(12年間総額4億2650万ドル)を超えるものだった。

 そのためナショナルズは、ソト選手のチーム残留が困難だと判断し、トレード市場で他チームからのオファーを受け入れる方針に切り替えたという。

 今後はソト選手を巡り、壮絶な獲得合戦が繰り広げられそうだ。

【ソト選手と大谷選手とで大きく異なる事情】

 ローゼンタール記者といえば、6月15日にエンジェルスがシーズン開幕前に大谷翔平選手のエージェントを務めるネズ・バレロ氏と、非公式ながら契約延長に関する話し合いを行っていたこと、そしてエンジェルスが大谷選手との契約延長について、平均年俸額で今シーズンMLB最高年俸を得ているマックス・シャーザー投手(4330万ドル)を超える額になると想定していると最初に報じた人物だ。

 この報道を契機に、米メディアの間で大谷選手の去就を巡り様々な報道がなされ、日本でも大きな関心事になっている。中にはソト選手のように、今シーズンのトレード市場で放出される可能性すらも報じられている。

 だが現状を考慮すれば、ソト選手と大谷選手を取り巻く事情はまったく異なっており、むしろ大谷選手のシーズン中のトレードは考えにくいというのが冷静な見方ではないだろうか。

【まだ正式オファーすら出していないエンジェルス】

 まず根本的な部分として、ソト選手、大谷選手ともにチームの将来を左右するようなフランチャイズ・プレイヤーだということを頭に入れておかねばならない。

 特に大谷選手の場合、ジョー・マドン監督が解任されて以降も不振が続くチームの中にあって、投打ともにさらにその存在感を増している。選手の活躍度を示す「WAR(Win Above Replacement)」を見ても、開幕からしばらくはトラウト選手、テイラー・ワード選手が大谷選手を上回っていたが、現在は2人を圧倒するだけでなく、MLBトップに立っている(本欄の別記事を確認して欲しい)。

 契約問題を含めこうした選手たちを遇する際は、チームは最大限の敬意を持って対応するものだ。

 それを裏づけるように、今回ナショナルズがソト選手に提示したオファーは3度目であり、契約交渉を重ねながらソト選手の希望に合うような内容を示してきた。その上で最終的にMLB史上最高額のオファーを提示したわけだ。

 一方大谷選手の場合、エンジェルスは開幕前に非公式の話し合いを行っただけで、大谷選手の意向もありシーズン中は契約交渉を行っておらず、これまでの報道を見る限り、エンジェルスはまだ一度たりとも正式オファーを提示していないのだ。

 交渉の叩き台となる契約オファーがなければ、大谷選手の希望や意思を確認することすらできない。それを無視してトレードで放出するようなことになれば、フランチャイズ・プレイヤーに対し義理を欠く行為だと判断され、メディアやファンから糾弾されることになりかねない。

 ちなみに今シーズン終了後にFAを取得するアーロン・ジャッジ選手にしても、開幕直前にヤンキースから7年間総額2億1350万ドルの契約オファーを提示された上で、それを拒否してシーズンに臨んでいる。

 そうしたソト選手やジャッジ選手のような手順を、大谷選手はまだ踏んでいないのだ。

【トレード放出はチームの大幅な収入減の可能性も】

 大谷選手の去就についてはあくまで編成部門で判断されるものだが、ビジネス部門への影響が計り知れない。

 エンジェルスのホーム試合をTV観戦した経験がある方なら、バックネット下にある広告ビジョンに、次々に日本企業の名前が登場することを理解されているはずだ。

 もちろんそれらの企業は大谷選手がもたらしたものだ。もし大谷選手がチームを去るようなことになれば、それらの企業の多くが撤退することになるだろう。

 それだけではない。フランチャイズ・プレイヤーとしての大谷選手は、チーム内でも抜群の集客効果のある1人だ。そのため今シーズンも5回にわたり、大谷選手を使ったグッズを無料配布するプロモーションが組まれている。

 しかも最後のプロモーションはトレード期限(8月2日)後の8月13日に予定されており、もし大谷選手がトレードで放出されるようなことになれば、そのプロモーションが台無しになってしまう。

【レンドン選手をトレードに出す離れ業がある?】

 ただ米メディアで指摘されているように、現時点で今シーズン年俸額2位のトラウト選手と3位のアンソニー・レンドン選手を抱える状態で、平均年俸額で2人を上回る可能性が高い大谷選手と契約延長するようなことになれば、これまでぜいたく税の限度額を1度しか突破したとがないエンジェルスの懐事情を考えれば、3人の契約が年俸総額を圧迫し、ポストシーズンを狙えるようなチーム編成が今まで以上に困難になるのは確実だ。

 だが見方を変えれば、何とかレンドン選手をトレードに出す離れ業が実現できれば、ペリー・ミナシアンGMが希望するように、トラウト選手と大谷選手を中心とするチーム編成も可能になってくるというわけだ。

 例えばソト選手とのトレードを成立させた上で、その交換要員としてレンドン選手を古巣のナショナルズに戻した後(もちろん1対1のトレードは不可能なので複数人によるトレードとして、しかもレンドン選手の残り契約のある程度をエンジェルスが負担するなどの妥協策も必要となってくるだろう)、今度はソト選手をトレードに出し、他チームから有望若手選手を獲得するというかたちにすれば、大谷選手との契約延長用の予算を確保できるとともに、若手有望選手の補充もできるというわけだ。

 いずれにせよ、大谷選手とエンジェルスはまだ正式な交渉テーブルの席にもついていない中で、トレード期限内に放出されることは現実味を欠いている。むしろフランチャイズ・プレイヤーとしてギリギリまで交渉が続くことになるだろう。

 エンジェルスとしても、まずは大谷選手の意思を確認するのが最優先事項になってくる。その上で大谷選手の残留が難しいと判断すれば、放出する可能性もあると思うが、それは早くても今オフではないだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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