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飛ばない?滑る?今季も選手たちから不満噴出のMLB公式球の不安定さ

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
退場処分を受け怒りを爆発させるイーミー・ガルシア投手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【故意死球ではなかったと釈明するガルシア投手】

AP通信が現地時間の5月11日に報じたところでは、前日のヤンキース戦でジョシュ・ドナルドソン選手に死球を与え退場処分を受けていたブルージェイズのイーミー・ガルシア投手が、今シーズンの公式球に不満を漏らしたようだ。

 「ボールに関していえば、昨晩は自分の選手生活の中でも最悪の日だった。本当に扱いにくかった。自分からいわせてもらえば、現在使用されているボールは本当に酷い。めちゃくちゃ滑りやすい。信じられない。

 縫い目がかなり低いと思う。その低さが滑りやすさに繋がっている。自分はとにかく内角にいいボールを投げようとしていただけだ」

 当日の審判は、ドナルドソン選手の死球を故意と判断して退場処分にしたわけだが、ガルシア投手はあくまで故意ではなくボールが扱い切れなかったための不可抗力だと釈明している。

 確かに映像をチェックしても、死球を与えた瞬間タイラー・ハイネマン捕手がガルシア投手に対し両手を挙げて「どうしたんだ?」というジェスチャーを見せており、故意に死球を狙いにいったとは考えにくい場面ではある。

【他投手も不満を漏らす今シーズンの公式球】

 さらにAP通信によれば、ガルシア投手以外にもメッツのクリス・バシット投手が、同じく今シーズンの公式球について不満を口にしているという。

 「MLBは明らかにボールについて大きな問題を抱えている。本当に酷い。皆がそれを理解しているし、投手のすべてがそれを認識している。でもMLBはまったく気にすることもなく、何もしようとしない。我々はずっと訴え続けているのに、気にも留めてくれない」

 メッツも先月25~27日のカージナルス3連戦で、両チームともに死球を量産した末、3試合目にはノーラン・アレナド選手の死球を巡り乱闘騒ぎに発展しているのをご存知の方も多いだろう。

【データ上は四球率&死球率ともに減少傾向に】

 確かにバシット投手が話すように、ここ数年投手たちの間で公式球に対する不満が爆発している。中でもボールが滑るというのは、長年指摘され続けている一方で、昨シーズンからMLBは投手の違法な滑り止め剤の使用を厳格に取り締まるようになったため、さらに投手を苦しめる結果になっているようだ。

 だが投手たちの不満を他所に、データ上はここ数年と比較しても、飛び抜けて四死球が増えているわけではなく、むしろ減少傾向にあるのだ(データはすべて「BaseballReference.com」ら引用)。

 まず死球に関してだが、むしろ今シーズンは過去2年より減少傾向にある。5月10日終了時点でリーグ全体の1試合当たりの死球率は0.41で、昨シーズン(0.43)や2020年シーズン(0.46)を下回っている。

 ただ投手たちが度々不満を漏らすようになった、2018年シーズンで初めて0.40の大台に乗ってからというもの、ずっと高止まりが続いている。

 また四球に関しても減少傾向にあり、リーグ全体の1試合当たりの四球率は3.22となっており、2016年シーズン(3.11)以来の低い数値で推移している。

 これらのデータを見る限り、今シーズンの公式球が特に扱いにくくなっているとは確認できない。

【公式球に振り回される選手たち】

 さらにデータを深掘りすると、ここまで間違いなく投高打低で推移しているのが理解できる。

 リーグ全体の打率は.233に止まり、2割3分台は1968年シーズン(.237)以来の低調ぶりだ。

 また1試合当たりの本塁打率も0.92と、2014年シーズン(0.86)以来1.00を割り込んでいる。

 ただMLBは昨シーズンから低反発球に切り替え、シーズン前半戦は今シーズンのように打率が2割3分台で推移していたのだが、後半戦に入り徐々に上昇していき、最終的に打率は.244まで戻している。

 これについても、選手たちからはシーズン前半戦と後半戦でボールが変わったとの不満が出ていた。

 いずれにせよデータから窺い知れるのは、MLBの公式球が安定しておらず、現場の選手たちがそれに振り回されている状況にあるということだ。

 このままでは選手たちの不満が解消されることはないだろう。やはりMLBの早期対策が求められるところだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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