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前田健太が受けた新タイプのトミージョン手術がMLBの未来を変える?!

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
日本人として初めて新タイプのトミージョン手術を受けた前田健太投手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【前田投手が受けた新タイプのトミージョン手術】

 すでに日本でも大きく報じられているように、ツインズの前田健太投手が現地時間の9月2日、右ヒジの内側側副靱帯の移植手術、いわゆるトミージョン手術を受けた。

 この手術を執刀したのは、2004年からレンジャーズのチーム医師を務めているキース・マイスター医師だ。同医師はMLB界で、大谷翔平選手のトミージョン手術を担当したニール・エラトロッシュ医師とともに、トミージョン手術の大家として知られ、今シーズンも前田投手のみならず、タイラー・グラスノー投手やジェイク・ロジャース選手ら多くのMLB選手たちのトミージョン手術を担当している。

 前田投手は手術から2日後に、自身のYouTubeチャンネル上で動画を公開し、手術に至った経緯や手術について説明しているのだが、非常に興味深い内容を口にしているのだ。

 まず1点が、今回のトミージョン手術が新しいタイプの手術だったこと。そしてもう1点が、おそらく前田投手が日本人として初めてこの手術を受けたということだ。

【2つの手術をドッキングさせた新たな術式】

 前田投手の言葉を借りれば、新タイプのトミージョン手術は以下のようなものになる。

 「今回は新しい手術ということで、トミージョン手術とインターナル・ブレース(Internal Brace)…、まあ人工の靱帯を入れてより強化するという感じで、靱帯の周りに人工靱帯みたいなものを重ね合わせて、従来のトミージョンよりも強靱なものになるという手術を受けさせて頂きました」

 前田投手は人工靱帯と説明しているが、インターナル・ブレースとは繊維状の補強材のことで、靱帯の内部にこれを通して靱帯を強化するというものだ。このインターナル・ブレースを使った手術は決して真新しいものではなく、トミージョン手術とは別の術式として認知されてきた。

 かつて本欄でも紹介しているが、リッチ・ヒル投手がプライマリー・リペア手術と呼ばれるインターナル・ブレースを使用した手術を2019年に受け、わずか8ヶ月間のリハビリで復帰を果たしている。

 つまり前田投手は、靱帯の移植を行うトミージョン手術とインターナル・ブレースで靱帯の強化を図るプライマリー・リペア手術をドッキングさせた新タイプの手術を受けたというわけだ。

【新しい手術はリハビリ期間の短縮が期待できる?】

 前田投手がこの手術を受けた初の日本人だと話しているように、この新タイプのトミージョン手術は、まだMLB界で幅広く採用されているものではない。だが今後の状況次第では、より効果的な術式として主流になる可能性を秘めているのだ。

 というのも、ツインズのロコ・バルデリ監督がオンライン会見で手術後の前田投手について説明した際、以下のように話している。

 「これまでトミージョン手術は復帰まで12~16ヶ月間とされてきた。あくまでケンタの回復状況を見ながらになってくるので確定というわけではないが、今回の手術は9~12ヶ月のスパンでの復帰が期待できるということだ」

 バルデリ監督が話すように、これまでトミージョン手術から復帰するのは最低でも12ヶ月間(MLB公式サイトでは12~18ヶ月間)以上を要するのが一般常識だったが、それが新タイプのトミージョン手術は、リハビリ期間を大幅に短縮できるというのだ。

【専門家は「従来以上にリハビリ強度が上げられる可能性」】

 今回の新タイプのトミージョン手術について、MLBに精通するメディカル・エキスパートに確認したところ、以下のような答えが返ってきた。

 「まだ症例数が少なくデータも揃っていないので、本当にリハビリ期間が短縮できるかどうかまで断言するのは難しいです。

 ただインターナル・ブレースを使った手術は6ヶ月間で復帰できると言われており、元々トミージョン手術よりリハビリ期間が短く済むものです。

 靱帯を移植した以上、ボールを投げ始めるまで4ヶ月間を必要とすると思います。ですがインターナル・ブレースで靱帯が強化されたことで、投球を再開できるようになれば、従来のトミージョン手術以上にリハビリの強度を上げられる可能性があります。そうなればリハビリ期間が短縮できるかもしれません」

 もし前田投手が従来のトミージョン手術を受けていたならば、2022年シーズン中の復帰はほぼ絶望的だった。それが新タイプのトミージョン手術により来シーズン中に復帰するようなことになれば、MLB界は大きな衝撃を受けることになるだろう。

 前田投手のリハビリは、いろいろな意味で注目を集めそうだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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