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なぜウェーバー明けまで待たなかった?何とか筒香嘉智をトレードしたかったドジャースと応じたレイズの思惑

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
ドジャースへのトレードが決まった筒香嘉智選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【ウェーバーを待たずにドジャースにトレード】

 すでに日米のメディアが報じているように、レイズから40人枠を外される措置(いわゆる「DFA」)をとられ、ウェーバーにかかっていた筒香嘉智選手が突如として、ドジャースへのトレードが決まった。

 まだウェーバー期間中だったことを考えれば、ドジャースは単純にウェーバーに手を挙げれば、何の障害もなく筒香選手を獲得できていたはずだ。

 にもかかわらずドジャースは、ウェーバーではなくレイズと交渉した上でトレードというかたちで獲得している。単純に考えれば、敢えてレイズと交渉するかたちで筒香選手を獲得したドジャースに、多少の疑問が残るところだろう。

 実は今回のトレード成立は、ドジャースとレイズの思惑が見事に合致した、両チームそれぞれに利益をもたらすものだった。

【外野手の緊急補強を要していたドジャース】

 まず今回のトレードは、間違いなくドジャースから持ちかけられたものだったと考えられる。すでに筒香選手をウェーバー公示しているレイズとしては、特定チームとトレード交渉できる状況にはなかった。

 それではなぜドジャースが、ウェーバー期間中の筒香選手のトレードを持ちかけたのかといえば、チームを襲った緊急事態を回避するためだった。

 ワールドシリーズ連覇を狙うドジャースはその下馬評通り、開幕から素晴らしいスタートを切っていた。だが試合を重ねていくごとに主力クラスの選手に故障者が続出し、次々に戦線離脱していった。

 中でも深刻だったのが外野陣だった。ドジャースの若き主砲として知られるコディ・ベリンジャー選手が開幕早々に左ふくらはぎの負傷で故障者リスト(IL)入りすると、ユーティリティ選手として今シーズンから左翼も任されていたザック・マッキンストリー選手も右脇腹を痛めIL入り。すでに40人枠に入っている外野手をフル活用している状態だった。

 そんな危機的状況の中、今度は5月16日にAJ・ポロック選手が左太もも裏の負傷による無念のIL入り。外野陣は完全に火の車状態に陥ってしまった。

【メジャー昇格させる若手有望選手が存在せず】

 さらにドジャースは別の問題を抱えていた。

 本来ならこうした危機的状況を解決するため、マイナーにいる若手有望選手をメジャー昇格させ緊急補強をするところだが、現時点でメジャーに昇格させられそうな若手選手が育っていなかった。

 そのためチーム力をできるだけ維持し、外野陣を補強するには、外から補強するしかなかったのだ。そこでDeNA時代は主に左翼を任され、現在ウェーバーに入っている筒香選手に白羽の矢が立ったというわけだ。

 だがウェーバーに手を挙げて獲得する場合、筒香選手の今シーズンの年俸700万ドル(正確には年俸を日割り計算した今シーズンの残り分)をドジャースが引き継ぐことになる。今シーズンの筒香選手の打撃を考えれば、チームにとって得策ではないのは明らかだ。

 だからと言って、ウェーバーがクリアになり筒香選手がFAになってから獲得交渉できるような時間的猶予もない。あくまで外野手の補強は緊急を要するものになっていた。

 そこでレイズにトレード話を持ちかけ、より理想的なかたちで筒香選手を獲得できないかを画策したわけだ。

【トレード話は渡りに舟だったレイズ】

 レイズにとってもドジャースからのトレード話は、まさに渡りに舟だった。

 低予算チームのレイズにとって最も理想的なかたちは、ウェーバー期間中に他チームが手を挙げてくれることだった。前述した通り、残りの筒香選手の年俸を獲得チームが肩代わりしてくるからだ。

 だが実際のところ、700万ドルという年俸と筒香選手の打撃不振を考えれば、手を挙げるチームが現れるのは期待薄だった。

 反対にレイズにとって最悪なシナリオが、ウェーバーがクリアになり、筒香選手がマイナーに残る道を選ばず、FAとして他チーム移籍を目指すことだった。

 マイナーに残ってくれれば、筒香選手の打撃が復活し、再びメジャーに昇格させ戦力として期待することができるが、FAとしてチームを去られてしまえば、ただ筒香選手の年俸の支払い義務だけが残るからだ。

 つまりドジャースとのトレードに応じれば、筒香選手を失う代わりに何らかの見返りを得ることができるのだ。

【両チームの思惑が見事に合致】

 こうして両チームの思惑は見事に合致することになった。

 もしドジャースがウェーバー明けにFAとなった筒香選手と契約するとしたならば、もちろんMLBが設定する今シーズンの最低年俸を提示するのが既定路線だった。

 そこでドジャースとしては最低年俸額(57万50ドル)を日割り計算し、残りシーズン分に相当する額(約43万ドル)を負担することが最も理想的なかたちだった。

 またレイズとしても、今回のトレード話がなければ筒香選手の年俸すべてを支払うことになっていたのだから、その負担が減るのは大きかった。その上さらに選手を補強できるのだから、ドジャースの希望に応じてでも、何とかトレードを成立させたかった。

【決して安泰ではない筒香選手の立場】

 筒香選手と交換される選手が決まらないままトレードが成立したことからも、今回のトレードの緊急性を理解できるだろう。それだけドジャースはすぐにでも筒香選手を補強したかったのだ。

 だからといって、筒香選手が残りシーズンをドジャースで過ごせる保証は何一つない。

 チーム合流後しばらくは、外野手や代打などで出場機会が与えられることになるだろう。だがベリンジャー選手やポロック選手は必ず復帰してくるし、彼らが戻ってくれば、再び先発外野手の位置につくことになる。

 さらに筒香選手が左翼以外に守れる一塁と三塁には、マックス・マンシー選手とジャスティン・ターナー選手という絶対的な存在がいる。また正式発表されていないものの、アルバート・プホルス選手もチームに加わろうとしている。

 つまり主力選手たちが復帰する前に自分の存在感を示せない限り、筒香選手が26人枠に残るのは相当に厳しい状況にあるのだ。

 果たして筒香選手は、この限られたチャンスを生かすことができるだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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