“投手メイン”という大前提が崩れ始めている大谷翔平起用法とジョー・マドン監督との微妙なズレ

エンジェルスでたった1人全試合出場を続ける大谷翔平選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【エンジェルスの全試合出場は大谷選手のみに】

 エンジェルスは現地時間の5月13日、4月29日以来のオフを迎えている。

 開幕10試合を7勝3敗で乗り切りスタートダッシュに成功したかに思われたエンジェルスだが、その後課題とされてきた投手陣が乱れ始め、それに伴うようにチーム成績も下降線を辿り、現在は16勝20敗でア・リーグ西地区最下位に沈んでいる。

 そんな厳しいチーム事情の中で、投打にわたりまさに獅子奮迅の活躍を続けているのが大谷翔平選手だ。オフ前日のアストロズ戦でマイク・トラウト選手らともにデビッド・フレッチャー選手に休養が与えられたため、ここまで36試合すべてに出場している選手は、大谷選手のみとなった。

 その内訳を見ると、DH出場30試合、投手のみの出場2試合、DH解除での投手出場3試合、代打出場1試合──と、代打以外はほぼ出ずっぱりの状態だ。

 そして5月11日のアストロズ戦では、登板終了後の8回に右翼の守備につき、DH解除の先発試合で自身初のフル出場を果たしている。

 ジョー・マドン監督は開幕前から、今シーズンの大谷選手の起用に制限を設けないという姿勢を示していたが、開幕からフル稼働状態が続いている。

【5月に入り打撃は明らかに下降気味】

 ここまで日本ハム時代から継承されてきた二刀流の枠を超え、二刀流の完全復活どころか周囲の予想を上回る活躍を続け、大谷選手が日米両国のメディアやファンを魅了しているのは周知の通りだ。

 だがその一方で、フル稼働の影響は確実にデータ上に現れ始めている。それは月別打撃成績を見れば明らかだ。

 4月の成績は、打率.283、8本塁打、19打点を残している。特に長打率は.652とMLBトップクラスの数字を記録。26安打中16本が長打という、とんでもないパワーを見せつけていた。

 ところが5月の成績を見ると、打率.247、2本塁打、7打点と、打率は明らかに下降。長打率も.409まで下がっている。4月で披露していた爆発力が明らかに影を潜めているのだ。

【マドン監督「彼は(他とは)違うアニマルで違う選手だ」】

 前述した通り、マドン監督は12日のアストロズ戦でトラウト選手ら主力組に休養を与えている。その理由について指揮官は、レイズ監督時代の成功例から、オフと合わせて2日連続休めることで主力選手に大きな効果をもたらすと説明している。

 本来ならここまでフル稼働の大谷選手も、そうした恩恵を受けるべき選手だと思うのだが、フレッチャー選手に代わり1番として起用したマドン監督は、大谷選手の休養について聞かれ、多少冗談交じりに以下のように説明している。

 「明日(のオフ日に)休養を与えられる(笑)。もし昨夜(11日)彼の動きが緩慢だというなら、これまでの試合すべてがそうなってしまう。

 彼は(他とは)違うアニマルで、違う選手だ。もしかして今晩は疲れていたのかもしれないが、試合前にそうは思わなかった。確かに昨夜は大変な出場だったが、明日オフだと知った上で今日の出場に臨んでいる。彼が問題ないと思う限り、自分も同じだ」

 マドン監督が説明しているように、11日の試合後に大谷選手と話し合いを行い、大谷選手の方から12日の出場について問題ないと伝えてきたようだ。

【マドン監督と大谷選手の間にある微妙なズレ】

 だが当の大谷選手は11日の試合のオンライン会見で、10日から身体が重いと感じていたと話している。

 ただそれは時差移動に起因するものだとし、「試合の疲労感はないので、思ったよりスムーズに全試合に出られている」と説明している。

 ここまで制限無しで大谷選手を起用し続けているマドン監督だが、その判断基準になっているのが、大谷選手との日々の会話だというのはすでに各所で報じられている通りだ。だがそこにはメディカルスタッフなどが介入することなく、あくまで大谷選手の返事だけで起用を決めている状態だ。

 マドン監督がスプリングトレーニング期間中から話しているように、誰もが未体験の二刀流について一番理解しているのが大谷選手本人なのだから、自分の起用法についてもっと責任を持つべきだという考えが根底にあるからだ。

 だが大谷選手の言葉を聞いていると、マドン監督と大谷選手の考え方に微妙なズレがあるように思うのだ。

 例えばメディアから「今後も外野守備につく機会はありそうか?」と聞かれ、大谷選手は以下のように答えている。

 「それは監督次第なので。もちろん僕がしっかり打者の方で結果が出ていないと(監督は)打たせたいとは思わないと思うので、それ次第かなと思います」

 また11日の試合に7回で降板しているが、「まだ投げられる状態にあったか?」という質問に対しては、次のような答えが返ってきた。

 「いけと言われたらどこでもいける準備はしているので、継投云々は監督の仕事なので、僕というところではないですし、任されたところをしっかり抑えるというところかなと思います」

 如何だろう。監督が起用してくれる限り、しっかり準備して期待に応えたいという日本人的な思考法を、大谷選手の言葉の中から感じ取れないだろうか。

 こうした2人の関係性を考えれば、これまで通り日々の会話を続けていても、マドン監督から「いけるか?」と聞かれれば、大谷選手は余程のことがない限り「いけます!」と答え続けるのではないだろうか。

【マドン監督にとって大谷選手は媚薬的存在?】

 今シーズンのマドン監督は、二刀流に制限を設けないとする一方で、まずは投手としての調整をメインにさせる考えも示していた。

 だが11日の起用法は、間違いなく投手ではなく、打者としての大谷選手に期待したものであるのは明白だ。

 開幕から打線の核として機能してきた大谷選手は、マメの影響もあり投手としてはなかなかマドン監督の考え通りには進行してなかったが、11日の好投に加えここまでの投手成績を見れば、遂に先発ローテーションの核としても期待される存在になったといえる。

 打者として、そして投手としてもMLBでも最上級のパフォーマンスを披露する大谷選手は、マドン監督にとっては過去に味わったことのない、とんでもない媚薬のような存在なのかもしれない。現在のチーム事情を考えれば、尚更のことだろう。

 現在のようなフル稼働を続けながら、大谷選手がシーズン最後まで乗り切れるかは、当の大谷選手を含め誰にも予測できない。

 ただ我々の目の前にある事実は、これまで大谷選手が現在のようなフル稼働を一度も経験していないこと、そしてある程度制限された二刀流起用でも、ほぼ毎年のように故障を起こしていたという2点だ。

 現在のようなマドン監督と大谷選手の関係性のまま、本当に歯止めが利くのだろうか。自分の不安が単なる取り越し苦労で終わることを祈るしかない。

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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