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NTTドコモの躍進を支えたTJ・ペレナラがチームとリーグにもたらしたもの

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
今シーズンのNTTドコモを象徴する存在だったTJ・ペレナラ選手(筆者撮影)

【クボタとNTTドコモが光り輝いたトーナメント準々決勝】

 トップリーグは週末にプレーオフトーナメント準々決勝3試合を行い、パナソニック、トヨタ自動車、クボタの3チームが、日本選手権を兼ねたトーナメント準決勝進出を決めた(残る1チームはサントリーが不戦勝)。

 つい先日本欄で注目カードとして神戸製鋼対クボタ戦を取り上げさせてもらったが、やはり両チームの実力は伯仲していたこともあり、試合終盤までもつれる熱戦の末、23対21で連覇を目指す神戸製鋼を破っている。

 またクボタ同様、今シーズン台風の目として快進撃を続けてきたNTTドコモも、番狂わせを起こすことはできなかったものの、トヨタ自動車と互角の戦いを演じ、あと一歩まで追い詰めている。

 まさにこの2試合は、リーグ内のチーム実力差が確実に解消されつつあることを物語る出来事だったように思う。

【今シーズンのNTTドコモを象徴するペレナラ選手】

 中でもNTTドコモの躍進は、間違いなく今シーズンのトップリーグを盛り上げる要素の1つになっていた。

 昨シーズンまでのリーグ最高位は11位と、2部降格をも経験している低迷チームの1つが、シーズン前半のリーグ戦で確実に白星を積み重ねるとともに、パナソニック、神戸製鋼らの強豪チームと互角の戦いを演じるなど、徐々に注目を集める存在になっていった。

 そんな今シーズンのNTTドコモを象徴するような存在だったのが、やはりTJ・ペレナラ選手だっただろう。

 元々オールブラックスの現役スクラムハーフの加入は、南アフリカ代表現役ウィングのマカゾレ・マピンピ選手とともに、シーズン開幕前から話題を集めてはいた。

 だがシーズンが開幕すると、開幕当初はリーグ規則の関係でなかなか出場機会に恵まれなかったマピンピ選手に対し、ペレナラ選手は開幕から全試合に先発出場を果たし、名実ともにチームの司令塔としてグラウンド上でチームを牽引してきた。その存在感は、日を重ねることに増していった。

【ペレナラ選手が有する魅力とゲーム支配力】

 また試合中でも笑顔を振りまきながら相手選手やレフリーとも会話を交わし、心の底からラグビーを楽しんでいる姿、さらには途中交代しグラウンドを離れる際に観客席に向かい深々とお辞儀する姿などは、確実にラグビーファンの心を掴んでいった。

 それだけではない。世界トップクラスのペレナラ選手だからこそ有しているゲーム支配力は、相手チームの脅威にもなっていた。

 3月14日のNTTドコモ対パナソニック戦後に行われたオンライン会見で、日本代表フッカーの堀江翔太選手は、以下のように話している。

 「向こうの9番の選手がレフリーに対しプレッシャーをかける選手で、こっちも口の部分で(声がけして)何とか入っていこうとしました。

 この試合に限らず他の試合でもそうなんですけど、TJがペナルティをもらいにいって、そのままちょん蹴りするとか、それはちょっとおかしいだろうという…。人物が凄いですし、口も達者なので、常に自分の方向に(流れを持っていけるよう)入り込もうとするのが上手な選手なので、何とかTJとレフリーの間に入るように意識して(ベントから声がけを)やりました」

 そうした試合巧者ぶりも含め、ペレナラ選手は多くのものをトップリーグにもたらしてくれたように思う。

【ペレナラ選手復帰を発表した古巣ハリケーンズ】

 トヨタ自動車に敗れシーズン終了が決まり、オンライン意見に出席したペレナラ選手の落胆ぶりは相当だった。

 同じく会見に出席したキャプテンのローレンス・エラスマス選手によれば、試合後のロッカールームでペレナラ選手がチームに声をかけると、多くの選手たちが感情的になっていたという。

 今シーズンの目標に掲げていたトップ8はすでに達成していた。にもかかわらず選手全員が、勝てた試合に敗れた悔しさで気持ちが1つになっていたのだ。エラスマス選手が今シーズンの変化について「チーム内の文化が変わった」と説明するように、そうしたロッカールームも様子もNTTドコモが戦う集団に変貌した証なのだろう。

 そんなチームの中心にいて変化を生み出したペレナラ選手だが、トヨタ自動車戦を終えたばかりの5月10日に、昨シーズンまで彼が所属していたハリケーンズがペレナラ選手の復帰を発表している。日本のラグビーファンには残念なニュースだが、ペレナラ選手は初参戦したトップリーグについて、明るい未来を予測してくれている。

 「トップリーグは素晴らしいリーグだったと思います。実際に自分自身が入ってみて肌で感じました。

 NTTドコモも毎試合ファンが見たくなるようなパフォーマンスをしていましたし、トップリーグ全体を見ても僅差の試合が多かったです。内容的にもレベルの高いプレーが多く、ファンが喜ぶ試合が多かったです。

 来年から始まる新リーグもより一層レベルアップしていくと思いますし、ファンも楽しめるような、いいリーグになっていくと思います」

 新リーグにはペレナラ選手にまた戻ってきたいと思わせるような、発展と盛り上がりを期待したいところだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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