完全復活したクリス・ブライアントが活躍すればするほど自らの立場を危うくするカブスの複雑なチーム事情

ここまで素晴らしい成績を残しているクリス・ブライアント選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【完全復活を印象づけるブライアント選手】

 ここまで投打にわたり予想をはるかに上回る活躍を続け、人々に二刀流の完全復活を見せ続けている大谷翔平選手だが、彼同様に開幕から完全復活を印象づけるような活躍をしている選手がいるのをご存じだろうか。

 カブスのクリス・ブライアント選手だ。5月8日時点の成績は、打率.304、9本塁打、22打点を残し、打撃主要部門すべてでナ・リーグのベスト10入りを果たしており、往年の輝きを取り戻したような活躍ぶりだ。

 だが往年の活躍を見せれば見せるほど、ブライアント選手自らカブスでの野球生活を短くしてしまうという皮肉な状況に置かれているのだ。

【一気にスター街道を駆け上がった次世代スラッガー】

 MLBファンならブライアント選手について今更説明は不要だと思うが、2014年にマイナーリーグの年間最優秀選手賞を獲得し、翌2015年に堂々のMLBデビュー。そのシーズンは満票を獲得し、新人賞を受賞している。

 さらに2016年には打率.292、39本塁打(ナ・リーグ3位)、102打点(同6位)の成績を残し、今度はMVPをも獲得。3年連続で各賞を総なめにしたMLB史上初の選手となっている。

 さらに2016年にカブスが108年ぶりにワールドシリーズ制覇を果たす原動力となり、そのオフには年俸調停前の選手として史上初めて年俸100万ドルを突破。順調にスター街道を駆け上がり、ブライス・ハーパー選手とともにマイク・トラウト選手に続く次世代のスラッガーとの評価を受けていた。

【2018年の左肩痛から打撃が下降】

 ところが2018年に転機が訪れた。

 順調に4年目のシーズンを過ごしていたかに思えた6月に突如左肩痛を発症し、自身初の故障者リスト(IL)入りすることに。一度は復帰をしたものの、同じ左肩痛のため、わずか1ヶ月後にILに逆戻り。結局このシーズンは105試合の出場に止まっている。

 翌2019年は147試合に出場し、打率.282、31本塁打、77打点の成績を残すなど、自身3度目のオールスター戦にも選出され、復活を印象づけたかに思われたが、新型コロナウイルスの影響で短縮シーズンとなった昨年は、打率.206、4本塁打、11打点と不振のままシーズンを終えていた。

 その一方で、ブライアント選手の年俸は高騰し続けた。在籍日数3年未満ながら2017年オフに年俸調停権を取得すると、1年目としては史上最高額となる1085万ドルを獲得。

 それ以降も順調に増えていき、調停2年目の2018年オフは1200万ドル、2919年オフは1860万ドル、そして年俸調停最終年となった昨年オフは1950万ドルで契約している。

【昨オフは常にトレード候補に】

 そんなブライアント選手は、今シーズン終了後に晴れてFA権を取得する。このまま現在のような活躍を続け完全復活したとなれば、FA市場でトップ選手の1人となり、年俸3000万ドル前後の大型契約が約束されることになる。

 だが現在のカブスは、新型コロナウイルスの影響で大幅減収になった昨オフから経営路線を一変。職を辞したセオ・エプスタイン氏に代わり編成部門の責任者になったジェッド・ホイヤー球団社長の下、大胆な年俸総額削減に舵を切っている。

 ジョン・レスター投手やカイル・シュワバー選手の契約オプション権が破棄され、ダルビッシュ有投手らがトレードされる中、高額年俸選手の1人だったブライアント選手も度々トレード候補として名前が挙がり続けたが、彼の打撃不振が影響したのかトレードが成立しないまま今シーズンを迎えていた。

 またカブスではブライアント選手の他に、ハビアー・バエス選手、アンソニー・リゾ選手ら主力選手も今シーズン終了後にFAになるため、チームの現状を考えれば、すべての選手と再契約するのは不可能だというのが大方の見方になっている。

【チーム浮上でトレードが加速化?】

 そうした状況を考えれば、最も大型契約を用意しなければならないブライアント選手との再契約が一番難しいということになる。

 となれば、FAとしてチームを去られる前にトレードに出し、有望若手選手を獲得した方がチームにとっては有益となる。しかも完全復活を遂げたブライアント選手なら、オフに交渉していた以上の条件でトレード交渉できるのだ。

 だがブライアント選手のような大物選手をトレードに出すとなれば、取り巻く環境が整わないと難しい。

 例えば7月31日のトレード期限間近になって、カブスがポストシーズン争いに絡む位置にいたとしよう。チームとしてはむしろ選手補強が求められ、ブライアント選手を放出するなど、ファンが許してくれるはずもない。

 一方でカブスが下位に沈み、ポストシーズン圏内から遠く離れている状況にあるならば、チーム再編という名目で主力選手を次々にトレードできるようになるわけだ。

 ちなみに今シーズンのカブスは、4月の段階でナ・リーグ中地区下位に沈んでいたのだが、ここ最近4連勝を飾るなど、5月8日時点で17勝16敗の成績を残し、地区首位のカージナルスを2.5ゲーム差で追う好位置につけている。

 もしカブスがブライアント選手のトレードを真剣に検討しているとするならば、状況が微妙になりそうなトレード期限まで待たずに、今のうちにトレードをまとめてしまおうと考えても不思議ではないだろう。またそうした噂が、メディアの間で実しやかに囁かれてもいる。

 果たして今シーズンのブライアント選手は、いつまでカブスのユニフォームを着ることができるのだろうか。

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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