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MLB最下位の先発投手陣を救えるのは大谷翔平しかいない?!期待が高まる一方で負担が増え続ける不安

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
打者ばかりでなく投手としてもチームを牽引する存在になりつつある大谷翔平選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【開幕ダッシュに成功しながら下降気味のエンジェルス】

 MLBが開幕してから1ヶ月が経過した。日本では連日のように、予想をはるかに上回る大谷翔平選手の投打にわたる活躍が世を賑わせている。

 彼の活躍に呼応するかのように、エンジェルスも開幕ダッシュに成功。開幕8試合目で6勝2敗を残すなど、間違いなくチームに勢いが感じられた。

 ところが開幕9年目以降は白星よりも黒星が増え始め、下旬には4連敗を喫するなど、現在は勝率5割付近で推移している状況だ。

【MLB最下位のエンジェルス先発投手陣】

 チームが勢いを失った原因は、至って明白だ。極端な“打高投低”に陥っているからだ。

 大谷選手やマイク・トラウト選手に象徴されるように、野手陣に関してはMLB屈指の強力打線を形成している。

 4月30日現在のチーム成績をみると、打率は.262と堂々MLB1位タイに輝き、それ以外の成績においても本塁打数(33本)同8位、長打率(.428)同4位、得点(115)同12位と、いずれも上位にランクしている。

 ところが投手陣は、まったくの正反対だ。

 同じく4月30日時点のチーム成績をみてみると、チーム防御率は5.19でMLB最下位。それ以外でも被打率(.250)同25位、失点(134)同2位、被安打数(206)同12位(被打率は低い方が上位で失点と被安打数は多い方が上位)と、明らかに苦しんでいるのが理解できる。

 特に先発投手陣は悲惨な状況だ。ここまで1勝0敗、防御率3.29の大谷選手を加えても、先発投手陣の成績は、3勝9敗、防御率5.97というもの。チーム防御率よりも高い数値なのだから、説明するまでもなく防御率はMLB最下位だ。

 一方中継ぎ投手陣は、9勝3敗5セーブ、防御率4.34を残している。中継ぎ投手陣の防御率も同21位と決してずば抜けているわけではないが、何とか彼らが先発投手陣の穴埋めをしているという状況だということは把握できるだろう。

【絶対的なエース不在のエンジェルス】

 もちろん先発投手陣が苦しんでいるのにも、明確な理由がある。先発投手陣を牽引する存在、つまりエースが存在しないという1点に尽きる。

 今シーズンのエンジェスルスは、ジョー・マドン監督が開幕前から宣言したように、大谷選手もローテーションの中に入り、6人の投手で回している。その顔触れは大谷選手に加え、ディラン・バンディ投手、アンドリュー・ヒーニー投手、アレックス・コブ投手、グリフィン・カニング投手、ホゼ・キンタナ投手──の6人だ。

 これらの投手の過去の成績をみても、まだ若く実績が浅い大谷選手とカニング投手を除くと、キンタナ投手がホワイトソックス時代に4年連続で200イニング以上を投げるなど、ある程度の実績を残しているものの、いわゆるチームの大黒柱、絶対的なエースとしての役割を果たしてきた投手は誰もいない。

 エース投手を考える上で、簡単な例を挙げよう。今シーズンのヤンキースだ。開幕から打撃不振で予想外の低迷を続けているが、チーム防御率だけをみると、3.13でMLB3位にランクしている。

 特に中継ぎ投手陣は好調で、防御率2.24は堂々の1位に輝いている。また先発投手陣の防御率も3.79で同10位に入っているのだが、実は防御率1.43でMLB5位に入っているゲリット・コール投手以外の4投手は、すべて防御率が4~5点台という状況だ。つまりコール選手1人が踏ん張り、先発投手陣を牽引しているのだ。

 こうしたコール投手のような存在が、現在のエンジェルスにはいないのだ。

【エースの最有力候補はやはり大谷選手】

 当然ながら、今からエース級の投手を補強するのは困難だ。というよりもチームに潤沢な資金があったのなら、オフの間に大物FA選手の獲得に動いていただろう。

 現時点で考えられるのは、先発投手陣の中、もしくは若手有望選手の中からエース投手の台頭を待つしかない。そしてここまで投球内容から判断すれば、やはり大谷選手がその最有力候補にならざるを得ない。

 これまでローテーションから外れ、特別枠で週1回の登板を続けてきた大谷選手であれば、エースとしてローテーションを支えるのは困難だった。だが今シーズンの彼は前述通り、先発投手陣の1人として順番通りに投げ続けることになるので、十分にローテーションの核になり得る存在なのだ。

【カギを握るのは足り上がりとイニング数】

 現在でも大谷選手の防御率3.29、被打率.130、HR9(9イニングあたりの被本塁打率)0.7、SO9(9イニングあたりの奪三振率)15.1は、先発投手陣の中でダントツの1位だ。彼がエース投手の素養を有しているのは、誰の目から見ても明らかだ。

 あとはローテーションの核になり得るためには、シーズンを通してローテーションを守り抜き、かつ登板したすべての試合で、首脳陣に最低でも6イニング以上は任せられると思わせられるような安定した投球内容だ。

 今シーズン初勝利を挙げた4月26日のレンジャーズ戦がその典型だが、大谷選手は決して立ち上がりが上手い投手ではなさそうだ。2回以降に披露した圧巻の投球が立ち上がりからできるようになれば、球数も抑えられ、さらに長いイングを投げられるようになり、首脳陣の信頼もさらに増していくだろう。

 ただ大谷選手に期待が集まれば集まるほど、打者、投手いずれにおいてもチームにとって必要不可欠な存在になっていくことを意味している。それは、これまでの主力選手でさえも経験してこなかったような大きな負担となって、大谷選手にのしかかってくることになる。

 すでに4月の大谷選手は、二刀流をこなしながら24試合すべてに出場するフル稼働状態だ。もちろん日本ハム時代にもなかったことだ。エンジェルスのチーム事情とはいえ、大谷選手が背負う負担が日に日に増しているような気がする。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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