今こそポスティング・システムの撤廃とFA制度の再考を

30日間の交渉期間が終了し巨人残留が決まった菅野智之投手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【ポスティング・システムによるMLB移籍は有原投手のみ】

 今オフに有原航平投手、西川遥輝選手、菅野智之投手の3人が所属チームから認められ、ポスティング・システムによるMLB移籍を目指していたが、それぞれ与えられた30日の交渉期間の末、契約に合意できたのは有原投手のみという結果になった。

 すでに本欄でも指摘しているように、有原投手がレンジャーズと合意した総額620万ドルの2年契約は、新型コロナウイルスや日本人投手の評価の推移もあり、例年以上に厳しいものとなったが、念願のMLB移籍を果たした有原投手の新天地での活躍を祈りたい。

 一方、MLB移籍が実現しなかった西川選手と菅野投手に関しては、まったく性質の異なる移籍断念となった。

 西川選手の場合、これまでの報道をチェックする限り渡米した形跡がないので(水面下で渡米した可能性はあるが…)、エージェントから渡米要請もなく、契約合意に備え現地でメディカルチェックを受ける必要もなかったことを意味している。残念ながら正式オファーが届かなかったということだろう。

 だが菅野投手は、米メディアからも今オフのFA市場で、投手部門ではトレバー・バウアー投手に次ぐ大物FA選手として注目され、ブルージェイズをはじめ複数チームが獲得に乗り出していた。そして菅野投手も年明け早々に渡米し、契約合意に向け最終局面を迎えながら、自らの希望でMLB移籍を断念しているのだ。

【今オフはポスティング・システムが機能せず】

 これまでもポスティング・システムを利用しながら30日間の交渉の末、合意できなかった選手はいる。ただ2010年の岩隈久志投手、2011年の中島宏之選手ともに、入札最高額のチームに独占契約交渉権が与えられていた旧システム下であり、選手側から希望チームを選ぶことができなかった。

 ところが2018年オフから施行されている現行システム(ちなみに大谷翔平選手は旧システムの譲渡金制度が適用されている)は、譲渡金と30日の交渉期間が設定されている以外、通常のFA選手と変わらず全30チームと交渉可能になった。

 その中で、獲得に乗り出した数チームと交渉しながら合意できなかったのは、菅野投手が初めてのケースとなるわけだ。

 ただ今オフは各チームともにFA市場で慎重な姿勢をとり続け、現在もバウアー投手を含め大物FA選手が未契約の状態にあることを考えると、もし菅野投手に無期限の交渉期間が与えられていたら、違う結果になっていたかもしれない。

 FA市場というものは、その年の状況に応じて常に揺れ動いている。今年のような停滞傾向の下では、申請期間と交渉期間が設定されているポスティング・システムは効果的に機能しないことが明白になったように思う。

【譲渡金を受け取れなくなった巨人】

 今回の結果を受け、巨人は菅野投手の残留を正式発表する一方、米メディアでは巨人と菅野投手が毎年契約をオプトアウトできる4年契約で合意したと報じている。

 この報道が真実だとすれば、2021年オフに海外FA権を取得予定の菅野投手は、今後も毎年のようにMLB移籍を目指すことが可能になってくる。だがもうポスティング・システムを使わないので、どんな大型契約でMLB移籍を果たしたとしても、巨人は何の見返りも得ることができない。

 そこで疑問が浮かび上がるのだが、交渉期限があるだけでFA選手同様に全チームと契約交渉ができる現行のポスティング・システムでは譲渡金が発生し、たった1年差で海外FA権を取得した後では譲渡金が必要なくなるという現状は、むしろNPBチーム側が不利益を被っていないだろうか。

 それならばいっそのこと、ポスティング・システムなど撤廃した上でFA制度を見直し、移籍した選手を獲得したMLBチームから何らかの補償を得られるようなシステムを構築すべきではないか。

【FA権は選手の意思ではなく自動行使に】

 多くの読者の方がご存じかと思うが、MLBにおいてもFA移籍に関して補償制度が存在している。

 現在は所属チームがオフシーズン突入直後にFA選手に対しクォリファイングオファーを提示すると、当該選手がオファーを蹴り他チームに移籍した場合、移籍先のチームから旧所属先チームに翌年の上位ドラフト指名権が譲渡されるなどの補償が設定されている。

 その分他チームは当該選手の獲得に慎重になるし、旧所属チームは再契約の可能性を残すことになる。

 これと同様のシステムをMLBとNPB間で投入することは難しいが、例えばNPBチームから指定されたFA選手がMLB移籍した場合、現行のポスティング・システムの譲渡金制度が適用されるようにするのも1つの手だろう

 そうすればMLBチーム側も多額の譲渡金を支払う大型契約を提示しにくくなるし、NPBチームが選手に提示できる契約内容との格差が多少なりとも解消される。それだけ契約交渉でMLBチームと競合できるようになるはずだ。

 またすでに上原浩治氏が指摘している通り、NPBの現行FA制度は、行使するかどうかの判断を選手に委ねられており、選手が悪者扱いされるケースが生じている。

 そうしたネガティブ要素もこれを機に解消し、MLBのように一定期間をクリアすれば全選手が国内外問わず交渉可能なFA権を自動行使できるシステムに変更すべきだと思う。

 もちろんMLB同様に、FA権が自動行使される前の数日間は、所属チームが独占契約交渉権を与えられるようにすべきだろう。

 繰り返しになるが、今オフのFA市場停滞がポスティング・システムの機能不全を浮き彫りにしてしまった。今後MLB移籍を目指す選手にとっても、それを送り出すチームにとっても、より有益な制度を考えていくべき時だと思う。

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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