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8月に入り不振に喘ぐ西武とオリックスに共通しているもの

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
オリックスの西村徳文監督(中央/筆者撮影))

【“4強2弱”になり始めたパ・リーグ】

 8月に入り、パ・リーグの勢力図が大きく変化し始めている。

 ソフトバンク、楽天、ロッテ、日本ハムの4チームが2.5ゲーム差内でひしめく混戦を繰り広げる一方で、西武とオリックスが勝率5割を割り込み4チームから徐々に引き離されようとしている。

 それもそのはずだ。8月の月間成績を見ると、上位4チームはすべて勝ち越している一方で、西武とオリックスはそれぞれ1勝8敗、1勝7敗1分けと、1勝しかできていないのだ。差が開いてしまうのは当然のことだ。

 このまま2チームの不振が続くようだと、完全に“4強2弱”状態になってしまう。

【先発投手陣が崩壊状態の2チーム】

 それでは2チームの不振を投手起用から考えてみよう。

 下記に掲載した表をチェックして欲しい。8月に各チームの先発投手が7回以上登板した試合数、5回未満で降板した試合数、中継ぎ投手の平均起用人数をまとめたものだ。

(筆者作成)
(筆者作成)

 如何だろう。オリックスと西武の先発投手は、7回以上投げる投手がほとんどいない上、しかも5回未満で降板してしまうケースが多いのだ。ちなみにソフトバンクと日本ハムの5回未満の試合は、いずれもオープナーを採用した戦術上の結果であり、実質上5回未満で降板した先発投手はいないのだ。

 オリックスの場合、7月までは山本由伸投手、田嶋大樹投手などの若手先発陣が好投を続け、7回以上投げた試合数は11で楽天と並びリーグ最多タイなのだが、8月に入ってからはアンドリュー・アルバース投手しか7回を投げ切れていない。

 西武の場合はさらに深刻で、先発が7回以上投げた試合はわずか3とリーグ最少で、何とか中継ぎ陣で試合を繋いできた状態だった。それが8月に入り5回未満で降板する試合が増えてきたことで、さらに中継ぎ陣の負担を増してしまっている。

【投手起用が悪循環に】

 つまり8月の西武とオリックスは、先発投手が早い回で崩れ先制点を許し継投策に出るものの、すでに中継ぎ陣もフル回転状態で疲労を積み重ね、さらに失点を許してしまうという悪循環に陥っているように思う。

 特に西武の場合、リード・ギャレット投手の加入もあり、平井克典投手、平良海馬投手らとともに、クローザーの増田達至投手に繋ぐ“勝利の方程式”が確立しつつあった。だがここまでフル回転で投げ続けたこともあり、平井投手などは明らかに調子を落としている。

 逆にオリックスの場合は、開幕から中継ぎ陣は不振を極め、繰り返し投手の入れ替えを行い整備に努めてきた。先発陣の踏ん張りもあり、中継ぎ陣に休養を与えられる場面もあったのだが、改善する前に先発陣が長いイニングを投げられなくなり、今も中継ぎ陣を建て直せないままにある。

 表からも明らかなように、実は楽天も先発陣がある程度頑張っている一方で、比較的中継ぎ投手を多用する傾向にある。その影響もあり、開幕当初はリーグ1位だった中継ぎ防御率が、現在ではリーグ3位に下がっている(そうした投手陣のほころびを完全に好調打線がカバーしてしまっている)。

【投手陣の再建が浮沈のカギを握る?】

 野球の世界では、よく「打撃は水物だ」と言われる。

 もし西武打線に昨シーズンのような爆発力があれば、現在の楽天のように投手陣を十分にカバーしてくれていただろうし、ここまで不振に見舞われることもなかったはずだ。

 確かに今シーズンの総得点は、西武が184でリーグ5位、オリックスが167で同最下位に沈んでおり、打線の援護がないことも投手陣に更なるプレッシャーを与えているのは間違いない。

 だが得点力不足を嘆いていても仕方がない。勝つためには、やはり投手力で相手チームを最少失点に抑える野球をしていくしかない。

 シーズン開幕当初は下位に沈んでいた日本ハムが、8月に入って上昇傾向にあるのも、得点力は西武、オリックスと大差ない(総得点はリーグ4位の189)にもかかわらず、投手陣が整備されたからに他ならない。現在先発防御率、中継ぎ防御率ともに3点台をキープしているのは日本ハムしかない。

 果たして西武とオリックスは投手陣を立て直すことができるのか。チーム浮沈のカギを握っているのは、まさにその1点に尽きるように思う。

 ちなみに今回の記事のデータは、「データで楽しむプロ野球」を参照している。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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