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ソフトバンク・周東佑京は日本のベン・ゾブリストになれるか?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
MLB在籍14年間で9つのポジションをこなしてきたベン・ゾブリスト選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【チーム内で存在感を増し始めたスピードスター】

 昨年の日本シリーズでその俊足を遺憾なく発揮し、“スピードスター”の異名を全国区にしたソフトバンクの周東佑京選手だが、ここ最近明らかにチーム内でその存在感を増し始めているようだ。

 今シーズンが開幕した当初は、代走及び守備固めという“本職”での出場ばかりが続いていたが、7月10日の楽天戦で今シーズン初先発を果たすと、徐々に先発起用が増えている。

 7月26日現在で日本ハム戦6連戦を含むこの10試合をみると、7試合で先発オーダーに名を連ねている。今や主力選手の1人といってもいい存在になろうとしている。

【5つの守備位置をこなすスーパーユーティリティ】

 とはいえ、周東選手が他の主力選手同様に、“定位置”を得たのかといえば、話は違ってくる。彼は決して1つのポジションを与えられたわけではなく、複数の守備位置をこなせる“スーパーユーティリティ”の役割を担っている。

 ここまで9試合に先発出場し(ショートで6試合、セカンドで3試合)、最後まで同じポジションでプレーしたのは3試合しかない。それ以外は試合途中で守備位置を変えながらプレーしている。

 また守備位置も多様で、ショート、セカンドの他に、サード、レフト、センターを任されている。周東選手の快足は守備にも生かされ、どのポジションでプレーしてもその守備範囲の広さは間違いなくリーグトップクラスだ。

 昨シーズンは1軍でショートでのプレー機会がなかったが、むしろ今シーズンは前述通り、同ポジションでの出場が増えている。すでにYouTubeのパ・リーグ公式チャンネルでも、周東選手のショートでの守備が特集されているほど評価を受けている。

【最終理想型はベン・ゾブリスト選手】

 チームにとっても周東選手のような選手は、相当に使い勝手がいい。主力選手に休養を与える際に、周東選手ならどのポジションでも質の高い守備をしてくれるので、ほぼすべてのポジションで代役できるのだ。まさにチーム内の潤滑剤の役割を果たしてくれる選手なのだ。

 今後は他選手の故障や不振などに合わせ、ショート、セカンド以外での先発出場の機会も増えてくることになるだろう。

 現時点での周東選手の立ち位置は、“スーパーユーティリティ”という表現が適切だと思うが、MLBにはさらにその上をいく、“定位置を持たない先発主力選手”になった選手が存在している。

レイズやカブスなど4チームに在籍し、2013年のWBCでは米国代表チームにも選出されるとともに、2016年のワールドシリーズでMVPに輝いたベン・ゾブリスト選手だ。

【MLB通算14年間で9つのポジションをこなす】

 まずはゾブリスト選手の過去のポジション別データを見てほしい。昨シーズンはカブスで投手として出場し、MLB在籍14年間で何と9つのポジションで出場歴がある。しかも投手以外はすべてのポジションで先発出場を果たしている。

(筆者作成)
(筆者作成)

 ただ複数ポジションをこなしてきただけではない。しっかり先発主力選手として長年チームを支えているのだ。

 2006年にMLB初昇格を話した当初のゾブリスト選手は、現在の周東選手同様、複数ポジションをこなせる“スーパーユーティリティ”的な立ち位置だった。だが2009年シーズンに、その枠を打ち破ることになった。

 このシーズンに同僚だった岩村明憲選手が守備中に相手選手と接触し、左ヒザの前十字靱帯を断裂する負傷をし、長期離脱を余儀なくされた。その代役にゾブリスト選手が指名され、先発主力選手の仲間入りを果たすと、自身初のオールスター戦に選出される活躍をみせたのだ。

 それ以降も先発主力選手であり続けたが、決して定位置を持つことなく、常に複数ポジションをこなしてきた。

 2012年と2013年は自身最多の157試合に出場し、両シーズンともそのうち156試合に先発出場しているが、2012年が4つのポジション(ライト、ショート、セカンド、指名打者)、2013年は6つのポジション(ライト、センター、レフト、ショート、セカンド、指名打者)を任されている。

【課題は選手層の厚さとバッティング】

 周東選手がゾブリスト選手のように、先発主力選手として定着するのは決して簡単なことではない。ソフトバンクの選手層はNPB屈指だからだ。

 今でさえ出場機会を巡ってチーム内で激しい競争が展開されているのに、さらにキューバからようやく来日できたアルフレド・デスパイネ選手とジュリスベル・グラシアル選手が間もなく戦線復帰することになる。先発機会はさらに狭まってくる。

 もちろん複数のポジションをこなせるからといって、簡単に先発出場を続けられるものではない。他の主力選手に見劣りしないバッティングを披露することも重要だ。打てないと判断されれば、また代走と守備固めに回されることになるだろう。

 ただ先発出場の機会が増えた周東選手は、先発9試合で無安打に終わったのはわずか2試合だけ。バッティングでも確実に結果を残しつつある。だがゾブリスト選手のように指名打者を担えるような打撃力を、まだ身につけてはいないだろう。

 果たして今シーズンの周東選手はどこまで成長を遂げるのか、そしてどれだけの試合に先発出場できるだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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