日本人初の韓国リーグ入りを果たした中村太地がその先に見据えるもの

昨シーズンは現役大学生ながらBリーグにフル参戦した中村太地選手(筆者撮影)

【日本人初のKBL入りを決めた中村を直撃】

 すでに各メディアで報じられているように、昨シーズンは現役大学生ながら京都ハンナリーズでBリーグにフル参戦していた中村太地選手が、日本人選手として初めて韓国リーグ(KOREAN BASKETBALL LEAGUE。以下KBL)に移籍することが決まった。

 KBLが5月下旬にBリーグ選手を対象にアジア枠導入を決定したことに伴い、中村選手が適用第1号選手となったというわけだ。

 中村選手が所属するチームは原州DBプロミ(以下原州)。彼が福岡大学附属大濠高校時代に指導を仰いだイ・サンボム氏が監督を務めている。

 現在ビザ取得を待ち韓国入りを目前に控えた中村選手に話を聞かせてもらう機会を得て、現在の心境を語ってもらった。

【長身PG生みの親の下でさらなる成長を】

 すでにバスケ専門サイト等で報じられているように、今回のKBL入りは中村選手の強い希望で実現したものだ。日本バスケ界では超貴重な190センチ長身PGの生みの親であるイ監督の下で、しっかりPGとして成長したいという思いからだった。

 「(イ監督への信頼は)絶大ですね、そこは。(高校卒業後も)ずっと連絡を取り合っていて、韓国に遠征に行った時は直接会ったりしていて、(所属していた)法政大学にも1度だけ練習を観に来てもらいました。年に2、3回程度ではありますが、毎年顔を合わせていました。

 京都ハンナリーズを離れる方向に向かい始め、これからどうしようとなっていた時に、もしかしてアジア枠がいけるかもしれないという感じになって、思い切って(京都を)出てしまえばそっちにフォーカスできるじゃないですか。それを信じてみようという雰囲気になりました。

 高3の時からイーさん(イ監督)の下で学びたいっていう思いが強かったので、そこで学ぶことによって自分のプレーというものも変わっていくと思います。言っても高校生のレベルで教えてもらっていたので、プロのレベルになれば教えてもらうことも変わってくると思うので…」

 京都から中村選手の自由交渉選手リスト入りが発表されたのは5月12日のこと。この時点でKBLのアジア枠導入は正式発表されていなかった。だが彼が説明するように、敢えて京都を離れ退路を断つことで、KBL入りを目指す覚悟を固めていたのだ。

 改めて中村選手に確認すると、Bリーグの数チームから誘いを受けていたようだが、彼の中でイ監督の下でプレーしたいという思いが揺らぐことはなかったようだ。

サインした契約書を見せる中村選手(写真提供:(C) WILL CO. Ltd)
サインした契約書を見せる中村選手(写真提供:(C) WILL CO. Ltd)

【1日も早く踏み出したかった海外挑戦】

 中村選手のKBL挑戦は、単に恩師の指導を仰ぎたかったからだけではない。彼はしっかりバスケ選手としての将来を見据え、少しでも早く海外リーグに挑戦したいという思いもあったからだ。

 「日本だとすでに適応できている環境の中で、ある一定のレベルまでは出来る自信もありますし…。(海外リーグだと)それをゼロからのスタートで自分を見せていかないといけないので、いい挑戦だなと思っていました。

 今年はルーキーというか大学を卒業して新卒の年でもあるので、タイミングとしては自分の中でもう一度リセットできるので、そこで若い内に海外に出るということは重要というか、20代後半から出るのでは遅いという話をよく聞きますし…。

 海外でプレーしていれば、海外でやりたいという意思があるんだなっていうことで見られる目っていうのも変わってくると思うので、そういう意味でも若い内に経験した方がいいのかなと思いました」

 中村選手と同様に現役大学生の身でBリーグにフル参戦し、昨シーズンNBA Gリーグに移籍した馬場雄大選手は、大学卒業後1年間はBリーグに在籍していた、つまり中村選手の海外挑戦は馬場選手より1年早いということになる。

【まずはチーム内のサバイバル競争に勝つこと】

 とはいえ、KBL挑戦は決して生易しいものではない。かなり厳しい現実が中村選手を待ち受けている。

 現在FIBAランキングで日本は40位(アジア枠8位)に対し、韓国は30位(同5位)と、明らかに韓国が上位国なのだ。中村選手が所属する原州には代表クラスのPGが2人所属しており、まず彼らと互角に渡り合えることを証明しなければ出場時間さえもらえない可能性もある。

 そうした熾烈なサバイバル競争が待ち受けているにもかかわらず、中村選手は今回の挑戦を100%前向きに捉えている。

 「日本としてもライバルの国じゃないですか。その国を圧倒できるようにならないと、アジアの中で勝ち抜いて世界に行くという意味で、日本はまだまだアジアの中で強いというわけではないですし…。

 そうなった時に海外へ武者修行というか、言い訳できない環境っていうのを自分はずって求めていて、誰も頼れないというか厳しい環境に身を置いてどう成長できるかなというのをずっと思ってきました。

 まずはプレータイムを勝ち取らないと話にならないので、僕が所属するチームには韓国の代表クラスのPGが2人いるので、まずはそこの競争が自分のためになるというか、毎日の練習で代表クラスのPGから(ゲームの)組み立てだったり(ボールの)運び方であったり、決めきれる力だったりを学べる機会があると思っています。

 そのガード陣と2ガードだったり、3ガードでやる機会もあるだろうし、いいコミュニケーションを取りながら自分をどう表現していくのかっていうのは楽しみではありますね」

オンライン取材に応じ現在の心境を語ってくれた中村選手(筆者撮影)
オンライン取材に応じ現在の心境を語ってくれた中村選手(筆者撮影)

【KBL挑戦の先に見据えているもの】

 今回中村選手は原州と1年契約で合意したのだが、すでに彼は「2、3年はやってみたい」と話しており、じっくり韓国で武者修行する覚悟を固めている。

 そこには中村選手が思い描く明確なビジョンがあるからに他ならない。

 「日本代表とかでもハーフの選手だったり、海外で活躍する選手を招集するのがここ最近の流れになっているじゃないですか。やはりそこ(代表合宿)でやっていて、日本にいるよりは海外でしか経験できないことがたくさんあると感じてました。

 (五輪に向けた)日本代表の合宿には、若手(中心のチーム)の方には呼ばれると思うので、そこで培ったものをどれだけ出せるかは自分次第だと思います」

 今後の成長によっては来年に延期になった東京五輪で代表入りする可能性もあるだろう。だが中村選手の年齢を考えれば、パリ五輪で代表PGの座を獲得することがより現実的であり、最大の目標になってくる。そのためにもしっかりKBLで経験を積まなければならない。

 中村選手のビジョンはさらに続く。

 「パリ五輪が終わった後でアメリカに辿り着くというイメージがちょっとありますね(笑)」

 そう最終的にはバスケ選手の憧れの舞台、NBAのコートに立つこと、しっかりビジョンとして捉えているのだ。

 京都ハンナリーズの浜口炎HCは中村選手を評する際、彼の類い稀な才能のみならず、自分に甘えず自ら進んで積極的に練習に取り組む姿勢を高く評価し、「自分が指導してきた選手の中で5本の指に入る」と断言している。

 もちろんKBL入りした後も、中村選手の自分に甘えず自ら進んで積極的に練習に取り組む姿勢が変わることはないだろう。

 果たして彼が韓国の地でどれほどの成長を遂げるのか。今から楽しみで仕方がない。

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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