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MLBコミッショナーの変節は選手会というより内部分裂が原因か?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
わずか5日間で180度発言内容が変わったロブ・マンフレッド・コミッショナー(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【わずか5日で180度変わったコミッショナー発言】

 すでに日本でも報じられているように、MLBのロブ・マンフレッド・コミッショナーは現地時間の6月15日にESPNの特別番組に出演し、2020年シーズン実施に懐疑的な発言を行った。

 5日前に同じESPNに出演し、「100%の確率で2020年シーズンは実施されるだろう」と自信を覗かせていたにもかかわらず、まさに180度方向転換してしまった。

 こうした変節ぶりに選手会は声明を発表し、「disgust(愛想を尽かす)」という過激な表現を使用し、MLBが最初から信頼できる態度で選手会の交渉に臨んでいなかった証左だと改めて批難している。

【選手会の合意不履行による提訴を警戒か】

 わずか5日でマンフレッド・コミッショナーが真逆の発言をすることに至ったのには、何らかの理由があるはずだ。スポーツ専門サイトの『THE ATHLETICS』がその辺りを解説する記事(有料記事)をまとめている。

 これまでMLBと選手会は、シーズン試合数とサラリーの支払い率で合意点を見出すことができなかった。選手会の説明によれば、選手会は3月の合意に基づき、可能な限り多くの試合をすることを目指す一方で、MLBは選手会がMLBの提示した実施案に同意しなくても、コミッショナーの権限で50試合前後の実施が可能だと主張してきた。

 すでに様々な報道があるように、MLBは選手会と合意できなかったとしても、MLB案を強行実施する権限を持っているようだ。だがそうした場合、選手会の方は3月の合意内容の不履行としてMLBを政府機関に提訴できる権利を有しているのだ。

 もし選手会が提訴した場合、政府機関が調停者となり引き続き両者はさらに協議を続けていかねばならず、結局シーズン実施は遅れてしまうことになるのだ。

【75%以上のオーナーの承認が必要】

 こうした不確定要素がある中では、マンフレッド・コミッショナーは容易にMLB案を強行実施できないという側面がある。だがそれとは別に、もう1つの問題を抱えているようなのだ。

 ESPNに出演したマンフレッド・コミッショナーは「オーナーは100%の決意で野球をグラウンドに戻そうとしている」と話しているのだが、どうやら実情は違い、MLB内部で亀裂が生まれ始めているらしい。

 実はマンフレッド・コミッショナーが選手会との合意を得られないままシーズン実施を決めた場合でも、全オーナーの75%の承認を得なくてはならないという条件をクリアしなければならないのだ。

 75%以上とは23人以上のオーナーが承認しなければならないということだが、記事ではあるエージェントの「すでに8人以上のオーナーが(不確定要素が多い中で)シーズンを実施したくないと考えている」という証言を紹介している。

 つまり現状では、オーナーの承認を得られずシーズン実施を決めることもできないということになる。

 現在のマンフレッド・コミッショナーは、選手会、オーナーの両方から支持を得られず、まさに八方塞がりの状況に陥っていることを意味している。急に弱気な発言に変わってしまったのも合点がいくのではないだろうか。

 果たしてマンフレッド・コミッショナーはこの状況を打開することができるのだろうか。本当の意味で彼の手腕が試されるのはこれからなのかもしれない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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