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完全なる挑発行為か? MLB副コミッショナーから選手会に送られてきた手紙の過激すぎる内容

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
実はMLBも選手会の主張に耳を傾けてこなかったことが明らかになった(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【MLBが提示した新たなシーズン実施案】

 すでに日本のメディアでも報じられているように、MLBは現地時間の6月12日、選手会に最新のシーズン実施案を提示した。

 米メディアが報じたところでは、今回の最新案は、選手会から逆提案されていたシーズン89試合制、試合分(日割り)に合わせた100%のサラリー保証という案に対し、シーズン72試合制、日割り分サラリーの70%保証(プレーオフが完全実施された場合は最大80%まで増額)という修正案になっている。

 だが最新案についても、選手の反応は至って冷ややかだ。

 トレバー・バウアー投手が「72試合制で70%保証は、(MLBが以前に打診してきた)48試合制で100%保証とまったく同じ。ただちょっと飾りを変えてまったく同じオファーをしてきただけ」とツイートしたのを始め、アンドリュー・マカチェン選手やジャック・フラハティ選手などが次々に疑義を呈するツイートを投稿している。

 最新案についてMLBは選手会に対し、現地時間の14日までに回答を求めているが、ほぼ間違いなく拒否されるだろうとの見通しが強まっている。

【選手会の交渉担当者に届いた手紙】

 実は今回MLBから選手会に、最新案だけでなく別のものが届けられていた。

 選手会を代表して交渉を担当しているブルース・メイヤー氏宛てに、MLBのダン・ハレム副コミッショナーから手紙が送られてきた。この手紙をスポーツ専門サイトの『THE ATHLETIC』が独占入手し、最新記事で手紙の内容の一部を公開している。

 同サイトによれば、5ページに及ぶこの手紙には「論争の解決」という副題がつけられているものの、その内容は記事内で「offensive(攻撃的)」と形容するほど、選手会を一方的に批難するものだった。

【選手が100%保証を受ける資格がない】

 記事で紹介されている手紙の内容のすべてをこの場で紹介することはできないが、要するにハレム副コミッショナーの姿勢は、これまでの選手会の主張にまったく正当性がなく、今回の最新案は「最終提示案」だとし、14日までに回答しなければならないというものだ。

 中でも強烈な姿勢をみせているのが、選手会がずっと主張し続けている、3月にMLBと合意していた日割り計算でのサラリー100%保証に関するものだ。

 この件についてハレム副コミッショナーは、ドナルド・トランプ大統領が3月13日に国家緊急事態宣言を発令した時点で、マンフレッド・コミッショナーはすべての契約を一時停止する権限を与えられており、その時点で選手たちは100%保証を受ける資格はないとし、更なるサラリー削減を正当化している。

 さらに選手会から逆提案されていた89試合制、100%保証という案についても、MLBの案より実現性に乏しいとし、完全否定している。

 そしてシーズン開幕後は少しでも多くの試合を実施することでMLBと選手会が合意していたのは、あくまで観客を収容した試合のことであり、無観客試合での実施では更なるサラリー削減を受け入れるしか道はないとしている。

【世論にも影響を与えそうな過激な内容】

 ここまでの説明で理解できると思うが、ハレム副コミッショナーの手紙は、選手会の主張をまったく聞き入れることなく、すべてこちらの条件を承諾しろという、かなり高圧的な内容に見える。

 あくまでも個人的な意見だが、まるで日本政府に宣戦布告させるべく、今までの交渉を棚に上げさらに厳しい条件で最後通牒してきた、いわゆる“ハル・ノート”を想起されるようなものに感じた。

 もちろん選手会がこの手紙の内容を受け入れられるはずもない。記事によれば、選手会はハレム副コミッショナーの主張について「不正確で事実に基づかない内容で満ちている」と論評し、異議を唱えているようだ。

 もしこの手紙が世に出ることを事前に知っていたのなら、ハレム副コミッショナーがこんな内容の手紙を選手会に送付してきたとは思えない。だがこうしてメディアに報じられてしまったことで、MLBの選手会の協議の内実が明るみになった。

 選手会のみならず、実はMLBも頑なな姿勢で協議に臨んでいたことが露呈してしまった今、世論の反応も間違いなく変化していくことになりそうだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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