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トランプ大統領が再び膝つき行為反対ツイートを投稿! 活動再開前にスポーツ界と抗争再燃か?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
トランプ大統領からその発言を支持されたドリュー・ブリーズ選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【ブリーズ本人が謝罪した発言を支持した大統領】

 ミネソタで発生した白人警察官による黒人男性暴行死事件に端を発し、米国中に人種差別の抗議活動が拡大し、中には略奪行為にまで及び暴動化する事態になる中、NFL屈指の人気QBの1人、セインツのドリュー・ブリーズ選手が、NFL選手を中心に国歌斉唱時に片膝をつくという人種差別に対する抗議行為を疑問視する発言を行った。

 この発言はすぐさまスポーツ界で波紋を広げ、ブリーズ選手のチームメイトを含め多くのアスリート、OBなどが彼に反発する声を上げ、その翌日にはブリーズ選手が自分の発言が間違っていたとし、謝罪を表明することになった。

 この件についてはすでに本欄でも報告しているので、詳細はそちらに譲るが、実はブリーズ選手の発言は、以前からドナルド・トランプ大統領が主張してきた内容そのものだった。

 そして今回の一件を受け、トランプ大統領はツイッター上にブリーズ選手の発言を支持するメッセージを投稿した。

【「国旗に対するスタンスを取り下げるべきではなかった」】

 2つに分かれた投稿の内容は以下の通りだ。

 「私はドリュー・ブリーズ氏の大ファンだ。彼は間違いなく偉大なクォーターバックの1人だ。だが崇高なる国旗に対する彼のスタンスを取り下げるべきではなかった。古き良き栄光は崇められ、我々の心に大切に刻み込まれるべきものだ。

 我々は(国旗の前で)敬礼、もしくは胸に手を当て、直立不動であるべきだ。抗議活動をするなら別のやり方がある。我々の偉大な国旗の前でやるべきではない。膝つき行為はあり得ない」

 トランプ大統領は、これまでの主張を改めて鮮明にしている。だが忘れてはならないのが、3年前にトランプ大統領が米スポーツ界を相手に繰り広げた全面抗争だ。

 当時トランプ大統領が遊説先で、膝つき行為を続ける選手とそれを許容しているNFLに対し強烈な非難を浴びせたのを機に、NFLとの間で大論争に発展。さらに論争は他のアスリートにも拡大していき、当時NBA王者だったウォリアーズは、優勝チームの好例儀式だったホワイトハウス表敬訪問を辞退するなど、スポーツ界は完全にトランプ大統領と一線を画す事態となっていたのだ。

【新型コロナウイルスで団結ムードになったはずが】

 その後抗争は徐々に鎮静化していき、今年に入り米国は新型コロナウイルスの猛威に襲われた。主要スポーツは活動休止に追い込まれ、人々も日常生活を奪われた。今は感染ピークを越えることができたが、すでに世界最大の10万人以上の死者を出すに至った。

 トランプ大統領は、米国を復活させる手立ての1つとしてスポーツに着目。人々が活気を取り戻すためにもスポーツイベントの早期再開を目指し、主要スポーツのトップたちを集めオンライン会談を実施するなど、スポーツ界と一致団結する姿勢を見せていた。

 だが今回のツイートで、再びスポーツ界から反発を買うのは必至の状況だ。人種差別の抗議活動は否定しないが、国旗の前ですることではないとするトランプ大統領に対し、アスリートたちは膝つき行為をしても国旗に対する敬意を失ったことはないと主張しているのだから、どうしたって両者の溝は埋まりそうにないからだ。

【新たな抗争に発展か?】

 今まさに米国内が人種差別問題で大揺れしている中で、このトランプ大統領のツイートは賢明な判断だったのだろうか。

 これまで多くの読者の方もメディアやSNSを通じて、抗議活動参加者と警察が激しく衝突する映像を見てきたことだろう。

 だがその一方で、参加者と警察が人種差別について真摯に話し合う動きも起こっている。そうした映像を見て一目瞭然なのだが、今や一般市民の間では人種差別に立ち向かう意思表示として膝つき行為が広く浸透しているのだ。

 米メディアによれば、抗議活動に参加したレッドスキンズのエイドリアン・ピーターソン選手は、今シーズンも選手たちは膝つき行為を継続していくと表明している。現在の米国の状況を考えれば、NFL以外にも行為は広がっていくだろう。

 トランプ大統領が頑なな姿勢を見せ続ければ、新たな抗争へと発展しかねない。ひいては年末に控える大統領選にも影響する可能性すらありそうだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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