アレックス・コーラ氏とカルロス・ベルトラン氏は“解任”か?それとも“退任”か?

チームの指揮をとることなく監督職を退いたカルロス・ベルトラン氏(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【メッツがベルトラン新監督の“退任”を発表】

 すでに日本の主要メディアが報じているように、メッツが現地時間の1月16日、昨年末に新監督に任命されていたカルロス・ベルトラン氏の“退任”を発表した。これによりメッツは、スプリングトレーニング開始を目処に新たな監督の人選作業に入ることになった。

 ベルトラン氏は、先にMLBが2017年のアストロズのサイン盗み問題に関する調査結果を発表した際に、現役選手(当時)として唯一名前が挙がっていた存在だった。

 ベルトラン氏自体はMLBから直接処分を受けてはいなかったが、同じく調査結果で名前が挙がっていた当時ベンチコーチだった、アレックス・コーラ氏が処分外(ただ彼は2018年のレッドソックスのサイン盗み問題にも関与しているとされており、今後MLBから処分を受けるのはほぼ確定的)ながら、すでに現職のレッドソックス監督を“退任”することが発表されており、ベルトラン氏の去就も注目されていた。

【アストロズと違う表記を使用したレッドソックスとメッツ】

 ここまで文章を書き進めて、自分がわざわざ退任の箇所に括弧を使っていることを気づいてもらえただろうか。そこにはしっかり意味があるからだ。実は日本の主要メディアのほとんどが、コーラ氏、ベルトラン氏に対する人事的措置を“解任”と報じているため、あえて違いを強調するため“退任”と記すことにしたのだ。

 いうまでもなく、“退任”と“解任”はかなりニュアンスが変わってくるし、記事を読む読者の印象も相当違ったものになるだろう。それを踏まえた上で、以下を進めていきたい。

 一般読者の方々は、普段球団から発表される英語のリリースや現地メディアの記事を読まずに、日本語に翻訳された記事を読むのが一般的だと思う。だが我々のような立場のものたちは、日々ニュースリリースや現地記事に触れている。

 そこで知って欲しいのは、アストロズがMLBからの処分決定後にAJ・ヒンチ監督とジェフ・ルーノーGMに行った人事的措置と、コーラ氏、ベルトラン氏のそれとでは英語表現がまったく違っているということ。にもかかわらず、日本では一様に“解任”で片づけてられてしまっているのだ。

【“dismiss”と“mutual part ways”】

 詳しく解説させてもらうと、アストロズのヒンチ監督、ルーノーGMの措置について現地メディアは“dismiss(解雇する、免職する)”や“fire(首にする)”という単語を使用しているのに対し、コーラ氏とベルトラン氏に関してはチーム、メディアともに“mutual part ways(相互合意の関係解消)”という表現を使っているのだ。

 このように現地記事では英語の表現が違っているのに、日本語が同じ“解任”でいいはずはないだろう。

【チーム側への配慮を欠いた訳】

 なぜ英語表記でこのような違いがあるのかをいえば、レッドソックスとメッツはチーム側の一方的な決断ではなく、しっかり当事者と話し合って両者納得した上での措置だということを強調したいからだ。

 つまりチーム側からすれば、「任を解いた」というよりも、「両者合意で職を退いてもらった」との考えが強いということなのだ。そういう判断から、自分も“解任”よりも“退任”の方がより適した表現だと思い、そうした表現を使うようにしてきた。

 もしこれが日本国内の事案だったならば、企業側が“退任”と発表しているのに、メディアが勝手に見出しを含め“解任”と報じていたとしたら、企業からクレームが出るような問題になってもおかしくないだろう。

【ベルトラン氏は事実上の解任ではあるが補足説明は必要】

 確かに現地の追加報道をチェックすると、メッツはベルトラン氏に“退任”を求める一方で、ベルトラン氏は監督職に残ることを希望し、このまま事態を収束できるという自信も抱いていたようだ。

 となれば、結果的には事実上の“解任”ということにはなるのだろう。だが日本のメディアで、そうした詳細を説明した上で“解任”という表現を使用しているものはない。単純にメッツの人事的措置を“解任”としているのだ。

 いずれにせよ今回のサイン盗み問題で、4名の関係者が職を失ったという事実に変わりはない。だが英語表記の違いからそのニュアンスを読者にしっかり伝えるのも、メディアの役目ではないのだろうか。

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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