シーズン開幕を迎えたトンプソン ルークが現役ラストシーズンに臨む思い

シーズン開幕戦に先発出場したトンプソン ルーク選手(中央・筆者撮影)

【満員の5068人を集めたシーズン開幕戦】

 ラグビーW杯の日本代表として活躍したトンプソン ルーク選手が所属する近鉄ライナーズが17日、トップチャレンジリーグの開幕戦を迎えた。

 同リーグはトップリーグの2部リーグであるにもかかわらず、会場となったヤンマーフィールド長居には観客席を埋め尽くす5068人が観戦に訪れた。

満員のファンが集結したヤンマーフィールド長居(筆者撮影)
満員のファンが集結したヤンマーフィールド長居(筆者撮影)

 W杯で日本中に感動をもたらした日本代表戦士の1人である、トンプソン選手を一目見たい、多くの“にわかファン”が集まった証といえるが、近鉄の有水剛志HCも「去年から(HCを)やらせて頂いて、このようにたくさんの方に観に来て頂いたのは正直あまりない経験」と驚きを隠さなかった。

【合流間もないトンプソンを先発起用したワケ】

 W杯終了後、トンプソン選手がチームに合流し練習を再開したのは11月5日。まだ合流間もないことから、当初チーム関係者は「(シーズン開幕戦に)出場するかどうかも含めて未定」という状況だった。

 しかしこの日のトンプソン選手は、ファンの期待に応えるかのように先発出場を果たした。前半には右側眉間を約3センチするほどカットし流血するアクシデントに見舞われたが、後半14分に交代するまで熱いプレーを披露し、ファンを喜ばせた。

 チームも64対29で清水建設ブルーシャークスを退け、上々のスタートを切った。

 試合後有水HCは、トンプソン選手の先発起用について以下のように説明している。

 「彼と話をして、フィジカルのコンディションはまったく問題なかったです。本人の希望として、とにかく初戦から出たいということでした。

 ただ正直チームにはまったくフィットしていないです。そこはまだ難しいところがあったと思うんですけど、本人が出場を希望したので、チームにフィットしていなくても個人として抜きんでた選手なので、それを加味してスタートから使いました」

【現役最後のシーズンに「1試合1試合がめっちゃ大事」】

 トンプソン選手が出場にこだわったのは、すでに本人が表明しているように、今シーズン限りで現役引退を表明しているからだ。今シーズン行われる公式戦7試合に全身全霊を注ぐ覚悟なのだ。

 「これは僕の最後のシーズンだから、1試合1試合がめっちゃ大事。だからスタメンもしたい。

 (チームとのフィットは)大丈夫だよ。僕は14年間も近鉄でプレーしているし、皆知っている。僕が(チーム・システムを)勉強したら全然問題ないです」

 さらに現役最後のシーズンを満員のファンに見守られながらスタートできたことを、トンプソン選手は心から喜んでいる。

 「もちろん最後のシーズンだからちょっと違う雰囲気だけど、14年前の近鉄のチャレンジリーグでは、このファンは絶対にない(笑)。ラグビーの雰囲気がすごく変わりました。すごく嬉しいよ」

試合後にファンに挨拶するトンプソン選手(筆者撮影)
試合後にファンに挨拶するトンプソン選手(筆者撮影)

【それでも引退に懐疑的な有水HCとネリッサ夫人】

 ただトンプソン選手の現役引退表明を素直に受け入れていない人物がいる。有水HCとネリッサ夫人だ。

 まず有水HCは、38歳になったトンプソン選手はまだフィジカル的には十分にプレーを続けられると信じ切っている。

 「本当に彼が今シーズンで最後にするかというのは、私はメディアを通して聞いている(だけな)ので、最後までわからないと思うんですよね(笑)。

 あれほどの選手なので本人のマインド次第だと思いますし、フィジカル的にはもちろんできると思います。

 当然ながら10年前と比べてどうかというと、リカバリーは大変だと思います。そういうマイナス部分があるとしても、経験値を含めて総合評価としてはまだまだできるんじゃないかと思います」

【ネリッサ夫人「(現役続行は)絶対にないとはいえない」】

 この日3人の子供たちと試合観戦に来ていたネリッサ夫人も、現役続行は「絶対にないとはいえない」と予測するとともに、これまでのエピソードを紹介してくれた。

 「(現役引退について聞いたのは)6、7年前からよ(笑)。そしてシーズンが終わると、彼が『たぶんもう1シーズン』と言ってきたので、自分も『OK』と同意し、また次のシーズンを迎えたわ。

 それで次のシーズンが終わると、また彼が『いい感じだし、体調もいい。たぶんもう1シーズン』と言いだして、また新たなシーズンを迎えたの。その繰り返しよ。

 彼はラグビーを愛しているし、日本も愛している。だから『もうやり切った』と言いにくかったのだと思います」

 ただ今シーズンに関しては、長年付き添った夫に対しやや違った感覚も味わっているようだ。

 「このままずっと彼が『もう1シーズン』と言い続けることはできない。私たちは家族として将来のプランを考えていかなきゃ。それとたぶん彼の身体は、『その時が来た』と彼に伝えているのでは」

試合終了後もファンに囲まれるトンプソン選手(筆者撮影)
試合終了後もファンに囲まれるトンプソン選手(筆者撮影)

【現時点のトンプソンは「僕はenough(十分)」】

 ただ現時点でのトンプソン選手は、現役に終止符を打つことに何の迷いもなさそうだ。

 「僕の中ではこれが最後。僕はenough(十分)。長いキャリアはすごいラッキー。セカンドキャリアもすごく楽しみです」

 これからトンプソン選手の中で気持ちの変化が起こるかもしれないが、とりあえずは残り6試合の彼のプレーを見守っていかねばならない。

 まずは24日に行われる、シーズン第2戦の豊田自動織機シャトルズ戦に照準を合わせている。この試合が今シーズン唯一、近鉄の本拠地グラウンドの花園ラグビー場で行われることもあり、トンプソン選手も特別な思いがあるようだ。

 「来週の花園の試合は(自分がプレーする)ラストチャンス。本当に楽しみです。豊田自動織機はすごい強いチーム。明日から準備したい。

 花園は特別な場所。そこの試合は絶対に勝ちたい。花園のファンの前ではいい試合しましょう」

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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