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チーム内ハラスメント問題に積極的に対応するJリーグとBリーグ、静観の姿勢を見せるNPB

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
昨季元妻へのDVが捜査対象となりMLBから無期限出場停止処分を受けたラッセル選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【J1の湘南が曹監督の活動自粛を発表】

 各主要メディアが13日に報じているように、J1湘南ベルマーレは同日、選手やスタッフへのパワーハラスメント疑惑が明るみに出た曹貴裁(チョウ・キジェ)監督について、Jリーグの調査が終了するまで同監督の活動(現場指揮及び指導)自粛を発表した。

 またメディアの報道によれば、Jリーグはすでに被害者、目撃者らの報告を受け取っており、疑惑について調査に乗り出しているという。近々リーグの方から何らかの判断が下されることになりそうだ。

【チーム内ハラスメントが立て続けに発覚した各リーグ】

 奇しくも今回の湘南に留まらず、日本の各プロリーグでチーム内ハラスメントが発覚し、世間を騒がせている。

 まずNPBの広島が先月24日に、緒方孝市監督が6月30日のDeNA戦で怠慢プレーをした選手に対し複数回の平手打ちをしたことを発表し、厳重注意処分にするとともに、同監督が選手全員に謝罪したことを明らかにした。

 次いでBリーグは今月8日、B2リーグの香川ファイブアローズの衛藤晃平HCに対し、リーグ規約違反を理由に1年間の公式戦に関わる全職務停止処分を科したことを発表した(後に衛藤HCは辞任している)。

 Bリーグの説明では、衛藤HCが犯した規約違反とは、試合後及び練習中に選手に対して行った跳び蹴りや平手打ちなどの暴力行為および暴言行為だとしている。

【今やハラスメントは全世界で社会問題に】

 今や各種ハラスメント問題は世の関心事となり、世に蔓延る社会問題として取り上げられる時代になった。

 もちろんプロスポーツ界も例外ではなく、監督、コーチによる選手に対する暴力を含めたパワハラや選手のDVなど、リーグとしてしっかり対処していくことが求められるようになっている。

 例えば昨シーズンのMLBでは、カブスのアディソン・ラッセル選手が離婚した夫人へのDVが表面化し捜査対象になると、MLBは同選手を無期限の出場停止処分に科している。もちろんこうした動きはMLBに限らず、米国の他のリーグも同様に厳しい態度で臨んでいる。

【なぜか静観しているNPB】

 今回起きたチーム内ハラスメントに関しても、Bリーグは指導者に出場停止処分を科し、Jリーグも率先して調査に乗り出すなど、リーグとして同問題に積極的に対処しようとしている。

 しかしNPBは、広島からの報告を受けた井原敦事務局長が「再発防止に努めてほしい」と発言しただけで、追加調査を行わず静観の姿勢を貫いている。

この対応のリーグ格差に違和感を抱いているのは、自分だけなのだろうか。

【プロリーグはアマチュア選手、指導者の模範的規範】

 米国でプロリーグは、アマチュアの選手、指導者にとって“role model(模範的規範)”であることを求められる。それは日本のプロリーグでも同様のことが求められて然るべきだろう。

 ところが日本では、長年にわたりジュニア選手の指導を担当する監督、コーチたちによる暴力を含めたパワハラ問題が後を絶たず、今なお沈静化する様子はない。DeNAの筒香嘉智選手は、そうしたパワハラ体質がジュニア選手育成の妨げになるとして、野球界に警鐘を鳴らし続けている。

 本来ならそうしたジュニア選手や指導者の模範になるべく、JリーグやBリーグ同様に、NPB全体でパワハラ撲滅を積極的に推進していく立場のはずだ。にもかかわらず今回の対応は、旧態依然とした組織体質を露呈しただけにしか見えない。

 高校野球を含め根本的な問題解決が進んでいるようには思えない野球界。彼らに明るい未来はあるのだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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