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レンジャーズが試合中に人種差別的態度をとったファンを永久追放処分に

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
レンジャーズの本拠地球場『グローブ・ライフ・パーク』(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【レンジャーズが声明を発表】

 レンジャーズが9日、“ある一件”に関して声明を発表した。声明の全文を、『ダラス・モーニング・ニュース』紙のエバン・グラント記者がツイッター上で公開している。

 以下、全文を和訳する。

 「テキサス・レンジャーズは、我々のホーム試合を観戦するすべての人に対し、安全かつ歓迎的なファン・サービスを提供することを委ねられている。先週土曜日の試合である家族に対し、近くにいたファンが攻撃的な発言や下品なジェスチャーを行った件に関して情報収集した結果、我々は、ファンに求める行動から明らかに逸脱した人物を特定するとともに、この人物が今後の我々の試合を観戦することを全面的に禁止する。この件についてこれ以上コメントする予定はない。ありがとう」

【白人ファンがヒスパニック系家族を侮辱】

 レンジャーズの声明にもあるように、“ある一件”とは8月3日のレンジャーズ対タイガース戦の観客席で起こった事件のことを指す。

 この試合を観戦に訪れていたフォートワース在住のヒスパニック系家族が、家族の後方に座っていた白人男性から繰り返し人種差別的ハラスメントを受けていたというものだ。あまりに酷いハラスメントだったため、家族は5回途中で観戦を取り止めたという。

 家族の夫人がこのハラスメント被害をSNS上に投稿し世に知られることになり、多くのメディアが取り上げる一方で、レンジャーズは調査に乗り出すとともに、家族に直接連絡し謝罪している。

 そしてレンジャーズは調査結果を踏まえ、ハラスメントを行った白人男性をレンジャーズの試合から永久追放処分する決定を下したのだ。

【スポーツ界でも蔓延る人種差別問題】

 残念ながら米国内では、人種差別が解決できない社会問題として現在も大きな影を落としている。それはスポーツ界も変わりはない。

 最近ではNFL選手とトランプ大統領が人種差別問題に端を発した国歌斉唱時の態度を巡り大論争を繰り広げ、社会問題までに発展したのは記憶に新しいところだ。

 またMLBだけに絞っても、アダム・ジョーンズ選手が試合中にレッドソックス・ファンから人種差別的な態度で挑発されたことで、やはりファンが永久追放処分を受ける騒ぎが起こるなど、ファン同士だけではなく、ファンと選手の間でも様々な事件が起き続けている。

【理想的な観戦環境をつくるのはファン次第】

 レンジャーズのように一部ファンを追放処分にしても、同様の考え方を持つファンが観戦に訪れる限り、根本的な問題解決には繋がらない。だがその一方で、チームが事前に観戦するファン全員の思想チェックをするのも絶対に不可能なことだ。

 結局チームができることは限界がある。最終的には人種差別的な考えを超え、皆が同じ空間で純粋にスポーツを楽しむというファンのエチケットに委ねるしかないのだろう。

 今回被害を受けた家族の夫人がハラスメント被害を報告した投稿には、以下のような内容が含まれている。

 「これ(今回のハラスメント被害)が最初でもなければ最後でもない。これからも同様の人種差別を受けるのだろう」

 仕方がないこととはいえ、人種差別問題はこれからもスポーツ界で永遠のテーマであり続けるのだろう。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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