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広島緒方監督は平手打ち! 同じ怠慢プレー選手に対峙した名将マドン監督がとった行動とは?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
MLB屈指の名将と謳われるジョー・マドン監督(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【緒方監督に対する厳重注意という判断に疑問の声が】

 すでに各メディアが報じているように、広島の緒方孝市監督が選手の怠慢プレーに怒り、当該選手に複数回の平手打ちをしていたが判明し、チームから厳重注意の処分を受けた。

 そんな中、早くも一部メディアから広島の判断を疑問視する声が上がり始めている。現在も吉本興業のパワハラ問題が日本中の関心を集めているように、緒方監督の行為を体罰と捉えれば、十分に議論に値する問題だろうし、広島の判断についても様々な意見があって然るべきだろう。

 ただ野球界を含めアマチュアスポーツのジュニア指導の現場で、旧態依然としたパワハラじみたスパルタ指導を撲滅しようという動きが活発化している中で、選手たちが憧れ、指導者たちが模範にすべきプロ野球の世界で、今も緒方監督のような行為が行われていたことに悲しさしかない。

【海外では当たり前に実施されている“叱らない”指導】

 現在日本ではアマチュアスポーツでジュニア選手に携わる指導者の間で、徐々にではあるが“叱らない”指導が広がりつつある。

 例えばドミニカ野球に精通する自分の知人などは、「叱ることなく選手を楽しませることで個々人のモチベーションを高めさせる」というドミニカ流指導法を広めるため、全国を回りながら指導者向けの講習会を実施し、地道な啓蒙活動を行っている。

 こうした指導法はドミニカに限ったことではなく、自分が米国で取材、目撃してきた様々なジュニアスポーツでも、指導者が実践しているものだ。自分も取材する中で、指導者たちが選手を叱責するような現場に遭遇したことは一度もなかった。

【プロの世界でも絶対に一方的な暴力はない米国】

 ただプロの世界になると、多少話は違ってくる。MLB取材で経験したことだが、試合後にクラブハウスがメディアに開放されるのを待っている際に、室内から監督の怒声が聞こえてきたのを何度か体験している。時には監督が選手に怒りをぶちまけることもあるということだ。

 だがこれだけは断言できることだが、MLBを24年間取材してきた中で、監督やコーチが選手と殴り合いになったというケースは聞いたことがあっても、監督、コーチが選手に対し一方的に手を上げたという話は皆無だった。

【MLB屈指の名将が怠慢プレー選手にとった態度】

 実は今回の緒方監督と類似したケースを、米国で体験したことがある。今やMLB屈指の名将と謳われるジョー・マドン氏が、レイズ監督3年目の2008年のことだった。

 この年のレイズは、岩村明憲選手を含め若手中心のチーム構成ながら周囲の予想を覆し、シーズン開幕から勝ち星を積み重ね、強豪ひしめくア・リーグ東地区を制し、チーム初のワールドシリーズ進出を果たしている。

 そんなチームが勢いに乗っていたある試合で、当時22歳だったメルビン・アップトンJr.選手(当時はBJ・アップトン選手)が内野ゴロを打った際に、一塁まで全力で走らない怠慢プレーを見せたのだ。そしてマドン監督は、そのプレー直後にアップトン選手をベンチに下げるという懲罰交代を行った。

 滅多に選手を批判しないマドン監督だったが、その日の試合後は「試合に真剣に取り組まない姿勢だけは絶対に許容できない」とし、翌日の試合にもアップトン選手を起用しない方針を明らかにしたほどだった。

 だがその一方で、マドン監督は翌日の試合前にアップトン選手を監督室に招き入れ、彼がとった行動、彼に対する期待感などを説明し、アップトン選手本人が自分の犯した過ちを納得させる個別対話も行っていたのだ。

 この一件を境に、アップトン選手は常に全力プレーを心がけるようになり、主力選手の1人としてワールドシリーズ進出の原動力にもなっている。

【さらに比較検証すべき日米格差】

 こうしたマドン監督の指導法を目の当たりにしてきた後で、同じ怠慢プレーをした選手にとった緒方監督の行為はやはり疑問が残る。選手を殴ることはたとえ選手が受け入れたとしても、決して指導と呼べるものではない。

 今や日本では、様々なところや角度からMLBとNPBが比較されるようになってきているが、ぜひ現場の中でも指導者のあり方について比較検証すべきではないだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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