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5月の月間最優秀投手賞に選出! 只今柳賢振がアジア人初のサイヤング賞にまい進中

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
5月の月間最優秀投手賞に選出された柳賢振投手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【5月は5勝0敗で自身初の月間最優秀投手に選出】

 MLBは3日に5月の月間個人賞を発表し、ナ・リーグの最優秀投手にドジャースの柳賢振投手が選出された。

 5月の柳投手は、受賞に相応しい圧倒的な成績を残している。6試合に登板し5勝0敗、防御率0.56。今シーズンも引き続き球界内に“飛ぶボール”疑惑が囁かれ、シーズン開幕から記録的な本塁打量産体制が続く中で、この安定感は特筆すべきものがある。

【今シーズンは全11試合の登板で失点はすべて2点以下】

 柳投手の安定感は5月に限ったことではない。シーズン開幕から登板の度に好投を演じ、ここまで11試合に登板し、すべて2失点以下に抑えている。

 ここまでチーム防御率は3.45でナ・リーグ1位にランクするなど、今シーズンも強固な投手王国を築いているドジャースだが、今や柳投手の安定感はエースであるクレイトン・カーショー投手を凌ぐものがあり、今や先発陣の核として機能しているといっていい。

【これまで故障続きだったが今季から専属トレーナーが帯同】

 元々柳投手の実力は折り紙付きだった。WBCなどの活躍が認められ、韓国球界最強左腕という評価を受け、ポスティング制度を使い2013年にドジャースに入団した。そのシーズンは30試合に登板し、14勝8敗、防御率3.00を残し、評判通りの活躍をしている。

 しかし翌2014年も14勝を挙げたものの、シーズン終盤から複数の故障を発症し、2015年は左肩痛などがあり、1試合も登板できずにシーズンを終えた。それ以降もずっと様々な故障と戦い続け、2018年までシーズンを通して投げ続けられない状態が続いていた。

 だが今シーズンは専属トレーナーを帯同させ、コンディションの維持に細心の注意を払っているという。その甲斐あって、ここまでローテーションを守りながら中4、5日ペース(1度だけ中6日)で投げ続けている。

【投手部門の勝利数&防御率で二冠!早くもサイヤング賞有力候補に】

 6月3日時点で、柳投手の個人成績は8勝1敗、防御率1.48。いわゆる投手主要3部門の勝利数と防御率でナ・リーグ1位に立つ。

 さらに今シーズンの柳投手は、抜群の制球力が光る。前述の失点の低さもそうだが、ここまで与四球数は11試合でわずか5。そのためWHIP(1イニング当たりの平均被安打+与四球数)の0.808とK/BB(1四球当たりの奪三振数)の13.80も、ナ・リーグ1位にランクしている。

 特にK/BBの13.80は、2位のマックス・シャーザー投手(6.50)を大きく引き離している状態で、その安定感が他を圧倒しているのがわかるだろう。

 球界関係者やメディアの中では、早くも柳投手をサイヤング賞投手の最有力候補に挙げている。例えばESPNの『BASEBALL TONIGHT』ポッドキャストの5月31日版では、現時点での個人賞レースについてトークし、進行役のバスター・オルニー氏はじめ3人全員がナ・リーグのサイヤング賞に柳投手を推している。

【サイヤング賞獲得ならアジア人初】

 もちろん開幕から2ヶ月余りしか経過していない現時点で、個人賞を語るのは時期尚早かもしれない。だが柳投手が現在のような投球を続けられるならば、ほぼ間違いなくサイヤング賞を手中にできるだろう。

 MLBで個人賞を獲得するのは簡単なことではない。その中で新人王、MVPは日本人選手も獲得経験があるが、サイヤング賞だけは1995年の野茂英雄投手のMLB挑戦を機に、日本人投手のみならず、韓国人投手、台湾人投手がMLBのマウンドに立ってきたが、誰1人その栄冠を獲得できていない。つまり柳投手がサイヤング賞を受賞すれば、アジア人初の快挙となる。

 ちなみに、これまでサイヤング賞に最も近かった選手は、2013年のダルビッシュ有投手だ。同年のサイヤング賞の記者投票で第2位に入っている(第3位に岩隈久志投手、第7位に上原浩治投手もランクイン)。

【32歳になっての安定感は円熟期を迎えた証?】

 投手もパワー全盛のMLBにあって、奪三振数がリーグ18位の69からも理解できるように、柳投手はパワーで抑えるタイプではない。パワー派投手なら32歳という年齢は、全盛期を過ぎる時期に差し掛かるが、技巧派の柳投手は、今後さらに投球術に磨きがかかっていく可能性がある。

 前述のESPNのオルニー記者も、柳投手の体型(190センチ、115キロ)と投球スタイルから、MLB在籍21年間で通算239勝を記録したデビッド・ウェルズ投手(190センチ、公称84キロだが実際は100キロ以上)と酷似していると指摘する。

 ウェルズ投手は技巧派として、42歳まで二桁勝利を続けていた。柳投手の活躍も、これからが本番なのかもしれない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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