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プロ野球だけじゃない! MLBの“飛ぶボール”が完全に野放し状態に

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
3/4月のMLB最多本塁打記録に並び月間MVPを受賞したべリンジャー選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【日米両国で開幕から本塁打量産が続く】

 『週刊ポスト』が4月26日号で特集記事を組み、今シーズンのプロ野球(NPB)で本塁打数が激増していることを指摘している。具体的なデータも提示されており、十分に説得力があるものだった。

 これはNPBに限った傾向ではない。すでに本欄でも何度となく報告しているが、MLBでは2年前から現場の選手たちから“飛ぶボール”が指摘されてきたが、今シーズンはさらにその傾向を強め、これまで以上に激増しているのだ。

【2選手が3/4月の月間本塁打MLB記録に並ぶ】

 例えば、これまで3/4月の月間本塁打数のMLB記録は2006年にアルバート・プホルス選手、2007年にアレックス・ロドリゲス選手が樹立していた14本だったのだが、今シーズンはコーディ・ベリンジャー選手とクリスチャン・イエリチ選手の2人が同時に到達してしまったのだ。

 ベリンジャー選手に至っては、さらに3/4月の月間打点(37)、安打数(47)、総塁打数(97)でMLB記録を塗り替えるほどの活躍を見せ、ナ・リーグの月間MVPを受賞している。

【3/4月の本塁打数が初の1000本超え】

 これは2選手に限ったことではない。シーズン開幕から各地で本塁打が量産。MLB全体の3/4月の月間本塁打数は1144本となり、史上初めて1000本を超えることになった。これまでの最多は2018年の912本だったことを考えれば、まさに激増していることが理解できるだろう。(データは『FANGRAPHS』を参照)

 基本的に屋外球場が多いMLBでは、寒い気候条件の中でプレーをしなければならない3/4月は本塁打が打ちにくいと言われてきた。その中で今シーズンはすでに1000本を超えるペースで本塁打が量産されているのだから、これから徐々に暖かくなっていく中で、どれほどの本塁打が量産されることになるのか、想像もつかない。

【今季から同じ公式球を使うマイナーでも急増】

 米メディアの中には、今シーズンの本塁打量産傾向について、興味深いデータを紹介している。

 『USA TODAY』のボブ・ナイチンゲール記者が特集記事をまとめているのだが、彼の解説によれば、今シーズンから3AでもMLBの公式球が使用されるようになったのだが、昨年まで1試合当たりの平均本塁打数は1.74本だったのだが、今シーズンはここまで2.56本まで跳ね上がっているという。

 このデータからも分かるように、MLBの公式球はマイナーリーグの公式球よりも確実に“飛ぶボール”だということが判明しているのだ。

【復帰間近の大谷翔平の松井秀喜超えはほぼ確実?】

 そんな状況下で、大谷翔平選手が次節のタイガース戦からいよいよ復帰しようとしている。今シーズンはあくまで指名打者としての出場に限られているので、打者に専念できるわけだ。ブラッド・オースマス監督も大谷選手のレギュラー起用を明言しており、怪我無く順調に出場を続けることができれば、120試合以上は出場できることになるだろう。

 昨シーズンも打者として104試合に出場し22本塁打を記録しており、今シーズンの更なる本塁打量産傾向を考慮すれば、2004年に松井秀喜選手が記録した日本人選手による年間最多本塁打数31本を塗り替える可能性は十分にあるはずだ。

【イチローが標榜する“考える野球”からさらに逆行路線へ】

 一方で、日米で“飛ぶボール”の傾向を強めることは、野球が更に単純化しているということを意味している。

 イチロー選手が引退会見で昨今のMLBについて「頭を使わなくてもできてしまう野球」と表現した。その一端はまさに現在の“飛ぶボール”であり、本塁打を打って点を取れば勝てるという単純明快な野球になり始めている。それはイチロー選手が指摘するように、得点するための工夫がどんどん薄れ、ある意味野球の魅力を奪っているといってもいい。

 さらにイチロー選手は、NPBがこうしたMLBの潮流に追随する必要はないとも指摘している。だがボールに関しては、どうやらMLBに追随しようとしているように見える。

 果たして“飛ぶボール”は、日米野球界の未来にとっての好材料なのだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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