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大谷翔平にも影響か?! ブレーブスがMLB在籍165日間のアクーニャと契約延長した意味とは?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
ブレーブスと延長に合意したロナルド・アクーニャJr選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【アクーニャがブレーブス史上2位の大型契約で契約延長に合意】

 ブレーブスは現地2日、昨年の新人王選手、ロナルド・アクーニャJr選手と8年総額1億ドル(約111億円)の契約延長に合意したことを発表した。

 すでにチームはアクーニャ選手同席の下記者会見を実施しており、多くの米メディアが報じている。それらの報道によれば、契約は今シーズンも含まれ2026年までの契約が保証されている。また契約には2027年、2028年のブレーブスが保有する契約オプション権が付随しており、いずれの年もオプション権行使の場合は年俸1700万ドル(約19億円)、契約解除の場合は1000万ドル(約11億円)が支払われることになる。

 今回合意された契約総額は、2013年オフにフレディ・フリーマン選手と契約延長を結んだ8年総額1億3500万ドル(約150億円)に次ぐ、ブレーブス史上2番目の大型契約だという。

【これまでの慣例を打ち破るMLB在籍165日間での契約延長】

 アクーニャ選手のみならず、ここ最近MLBでは契約延長のニュースが相次いでいる。1日にレッドソックスがザンダー・ボガーツ選手と5年の契約延長を発表し、翌2日にはロッキーズがヘルマン・マルケス選手と5年の契約延長、ブルージェイズがランダル・グリチック選手と5年の契約延長をそれぞれ発表している。

 だがアクーニャ選手の契約延長は、それらとはまったく別のケースだと考えなくてはならない。ボガーツ選手は今年オフにFA権を、さらにマルケス選手、グリチック選手はそれぞれ年俸調停権を得る予定になっており、オフに入っての交渉を回避すべく、両者が契約延長に合意したものだ。

 一方アクーニャ選手は、昨シーズン途中にMLBデビューを飾った弱冠21歳の選手だ。年俸調停権を得るまでにはまだ2年以上あるのだ。同じく年俸調停権を得てない大谷翔平選手が、アクーニャ選手同様に新人王を獲得する活躍をみせたにもかかわらず、前年比19%増の65万ドル(約7200万円)に留まっている通り、チーム側からすればアクーニャ選手はまだまだ“買いたたける”選手なのだ。

 にもかかわらずブレーブスはMLB在籍期間わずか165日間のアクーニャ選手と契約延長を結んだのだ。これは契約延長を結んだ選手としてはMLB最速記録となり、間違いなくこれまでの慣例を打ち破るものだ。

【その背景にあるのは年俸調停選手の年俸高騰化】

 普通に考えれば、まだ1シーズンしか活躍していない選手と大型契約を結ぶのは、チームにとってもかなりのリスクを伴うものだ。だがここ数年、年俸調停権を得た選手の年俸高騰化が顕著になってきている。

 その端的な例が、ロッキーズのノーラン・アレナド選手だろう。このオフに最後の年俸調停権を得ていた彼は一度はチームと交渉が決裂し、希望額3000万ドル(約33億円)で調停申請をしていたが、結局調停を回避し2600万ドル(約29億円)で合意している(その後スプリングトレーニング中に7年間の契約延長に合意)。これはすでにトップFA選手並みの年俸額といっていい。

 つまりMLB屈指の若手有望選手であるアクーニャ選手もこのまま順調に活躍を続けていけば、年俸調停権を得た時点でアレナド選手のような存在になっている可能性は十分にある。そうなればFA権を取得する前に、相当の大型契約を用意しなければならなくなるのは必至だ。

 ならば将来を見越して、ある程度年俸額が抑えられる現時点で長期大型契約を結んだ方が、チームにとっては得策ということになる。実際今回の契約延長で、ブレーブスは最大で2027年までアクーニャ選手を年俸2000万ドル(約22億円)未満で保有することができるのだ。これほどのメリットはないだろう。

【大谷翔平に及ぼす影響とは?】

 これは大谷選手にも当てはまることだ。彼が素晴らしい活躍を続ければ続けるほど、エンゼルスは年俸調停権を得るようになれば高額年俸を用意しなければならなくなる。すでにMLB史上最高額でマイク・トラウト選手と契約延長に合意してしており、ここに新たな高額年俸選手が増えることはチームにとって予算上大きな負担となる。アクーニャ選手同様に、早い時期に契約延長した方が、逆に年俸額を抑えらえ、大谷選手を長期間在籍させることに繋がるのだ。

 シーズン開幕から打撃不振(2日時点でチーム打率.188はMLB27位)が続き、厳しいスタートを切ったエンゼルス。今は大谷選手の復帰を喉から手が出るほど待ちわ浴びている状態だ。

 そして大谷選手が昨シーズン同様チームを活気づけるような活躍をみせるようなら、シーズン終盤もしくはシーズン終了後にも、契約延長の話で持ちきりになっているような気がしてならない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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