Yahoo!ニュース

選手、コーチとともにプロ未経験! 32歳の新人打撃コーチがドジャース打線を覚醒させる?!

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
今季から打撃コーチを務めるロバート・バンスコイヤク氏(MLB提供)

【開幕シリーズ4試合で50安打42得点!猛打爆発のドジャース打線】

 地区7連覇を狙うドジャースがダイヤモンドバックスとの開幕シリーズを3勝1敗と勝ち越しに成功し、2019年シーズンも上々のスタートを切った。

 この4試合で圧巻だったのが打線の爆発だ。開幕試合でのMLB新記録となる8本塁打を含む12安打12得点で初戦を制すると、その後もダイヤモンドバックス投手陣に襲いかかり、結局4試合で50安打42得点、14本塁打を浴びせかけた。4戦目でも平野佳寿投手から3得点し、逆転勝ちに成功している。

 まだ開幕したばかりで気が早いのは重々承知しているが、3月31日終了時点でチーム打率(.324)はカブスに次いでMLB2位だが、出塁率(.439)、長打率(.647)ともにMLBトップ。今シーズンのドジャース打線は相当に手ごわそうだ。

【打線向上を目指し大抜擢されたプロ未経験の“素人”コーチ】

 ただ元々ドジャース打線は決して“貧打”ではなかった。昨シーズンも本塁打(235)、打点(756)、得点(804)、出塁率(.335)、長打率(.442)でナ・リーグ1位にランクするほどの重量打線だった。ただチーム打率(.250)が同8位に留まっていた。

 そこでより安定した打線を築き上げるため、アンドリュー・フリードマン編成担当球団社長が打撃コーチに任命したのが、数人の選手よりも年齢が若い32歳のロバート・バンスコイヤク氏だった。しかも彼は選手としてもコーチとしてもプロ経験が全くない人物なのだ。まさに周囲を驚かせる大抜擢だった。

【JD・マルティネスら強打者を個別指導してきた実力派】

 これだけの経歴を見ればかなり頼りなさを感じるかもしれないが、バンスコイヤク氏の経歴はなかなかに輝かしい。ドジャースのプレスリリースによれば、2016年から2年間ドジャースで打撃コンサルタントを務めた後、昨シーズンではダイヤモンドバックスで打撃戦略家(Hitting Strategist)に任命されている。

 また2011年からプロの選手たちを個別指導する打撃インストラクターに従事し、JD・マルティネス選手やクリス・テイラー氏らを指導してきた実績を誇る。中でもアストロズから解雇された後、移籍したタイガースでMLB屈指の強打者の1人に名を連ねるまでになったマルティネス選手にはつきっきりで指導していたことで知られている。

【米野球界では超有名インストラクターの門下生】

 地元紙の『LA Times』が3月21日付で配信したバンスコイヤク氏の特集記事によれば、同氏はジュニアカレッジ(日本の短大のようなもの)で現役生活を終えると、それまで個別指導を受けていたクレイグ・ウォーレンブロック氏に師事し、そこで打撃インストラクターの道に足を踏み入れた。そこでウォーレンブロック氏からマルティネス選手の指導を任されることになり、実績を積み上げていった。

 師匠のウォーレンブロック氏は米野球界では有名なインストラクターで、数々のプロ選手たちを指導してきたことで知られている。現在MLBで打撃理論の主流になり始めている「フライボール革命」も、彼の指導によるものだとまで言われている。またバンスコイヤク氏以外にも、ウォーレンブロック氏の門下生からティム・レイカー氏(マリナーズ)とジョニー・ワシントン氏(パドレス)が今シーズンから打撃コーチに迎え入れられている。

【コーチ3人体制でビデオを駆使して各選手のフォームを徹底チェック】

 地元紙の取材に応じるバンスコイヤク氏の打撃理論は決して斬新なものではなく、「昔ながらの理論。だが野球が存在する限り存在し続けだろう普遍的な理論」だとしている。だが彼の指導は非常に緻密だ。

 今シーズンのドジャースはバンスコイヤク氏の他に、打撃戦略家としてブラント・ブラウン氏(彼も現役選手の時にウォーレンブロック氏の指導を受ける)、アシスタント打撃コーチとしてアーロン・ベイツ氏もコーチ陣に名を連ね、3人体制で打者の指導をしていくというもので、ビデオや動作解析装置をフル稼働し各選手の能力に合わせながら徹底的にフォームをチェックしているようだ。

 スプリングトレーニング中も打撃ケージ内にビデオカメラを設置し、打撃練習の合間でもコーチ、選手が一緒になってフォームチェックを続けてきたという。

【今後もMLBにプロ未経験コーチが台頭する?】

 このままバンスコイヤク氏がドジャースで成功を収めるようなことになれば、MLB選手たちもプロ未経験ながらも指導実績さえ十分な人物であれば耳を傾けるようになっていくはすだ。今後さらにバンスコイヤク氏のような“素人”コーチがMLBで台頭していく可能性は十分にあるように思う。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

菊地慶剛のスポーツメディア・リテラシー

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3、4回程度(不定期)

22年間のMLB取材に携わってきたスポーツライターが、今年から本格的に取材開始した日本プロ野球の実情をMLBと比較検討しながらレポートします。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

菊地慶剛の最近の記事