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DeNA筒香兄が地元橋本市で着手した“スポーツ寺子屋”というジュニア育成活動

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
地元橋本市を拠点に個人で子供たちの指導を行う筒香裕史氏(中央・筆者撮影)

 先月20日に、DeNAの筒香嘉智選手が地元橋本市のスポーツ推進アドバイザーに就任した。その背景についてはすでに本欄でも報告している通りだ。

 実は筒香選手と橋本市の橋渡し役的な役割を果たしたのが、筒香選手の兄である裕史氏だ。神奈川県で教員を務めていた同氏は橋本市に戻り、現在は個人でジュニア(幼児及び小中学生)の体力向上を目指した育成活動に従事している。この取り組みがあったからこそ、橋本市は筒香兄弟に市のスポーツ推進事業を託そうとしたといってもいい。

 裕史氏の活動とはスポーツアカデミーを開校し、学校終了後の平日に子供たちにスポーツを体験できる場を提供しているというものだ。つい先日、アカデミーを見学してきたのだが、実にユニークで興味深いものだった。年齢、性別を問わず、同じ環境でスポーツを楽しみながら体力向上を目指している。この活動は昨年2月からスタートしたばかりだが、すでに登録者数は約120名に上るという。

 クラスは完全な自由参加で、参加したい時だけ事前予約すればいいだけだ。用意されているメニューは指導という意味合いはほとんどなく、あくまで子供たちが楽しむことに主眼が置かれているので、毎回参加しなくても何の支障もない。さらに何か特別なカリキュラムがあるわけではないので、時期に関係なくいつでもアカデミーに申し込むことができる。

アカデミーの様子(筆者撮影)
アカデミーの様子(筆者撮影)
アカデミーの様子(筆者撮影)
アカデミーの様子(筆者撮影)
アカデミーの様子(筆者撮影)
アカデミーの様子(筆者撮影)
アカデミーの様子(筆者撮影)
アカデミーの様子(筆者撮影)
アカデミーの様子(筆者撮影)
アカデミーの様子(筆者撮影)

 そんな自由気ままなアカデミーではあるが、受講している子供たちの運動能力は相当に高いのが窺い知れる。マット運動では前転、後転は当たり前のようにできるし、壁を使った倒立も普通にこなせる。中には片手倒立ができる子供もいた。特に印象的だったのが、大人でもなかなか難しいロープ上りを参加者全員が普通に成功させていたことだ。中には5キロや3キロのメディシンボールを背負って難なくロープを上っている子供もいた。

 またすべてのメニューが終わった後でも、子供たちが集まって男子は後方倒立回転(いわゆるバク転)の練習、女子は前方倒立回転の練習を始めたのだ。誰も怖がることなく、積極的に挑戦していた。裕史氏によると、子供たちが自ら考えてさまざまなことに挑戦し、誰かが成功することで他の子供たちが刺激を受け、チャレンジ精神を向上させているのだという。そうした年齢や性別に関係なくスポーツに興じる姿を目の当たりにして、江戸時代の寺子屋が思い起こされた。

 「弟のことも含めて小さい頃からいろいろやるというのは大事だろうなというのが根底にあって、ならば小さい頃に何をやればいのかなというのを体育教師をしながらもずっと考えていて、野生ではないですけど、山を駆け回ったりだとか田んぼで遊んだりというのが絶対に必要だろうなというのを思って、それだったら田舎でやった方がやりやすいだろうなと思いました。

 ただ学校の業務は子供と接するのはすごく楽しいんですけど、そうじゃない時間が圧倒的に多いので、元々こういうことをやりたいというのもあって教員を辞めて橋本市に戻ってきました」

 裕史氏は神奈川県で中学校の体育教師を務めていたのだが、子供たちの運動能力の違いを感じ取っていたという。小学時代は体育の授業も担任教員が指導するため、どうしても教員の得手、不得手によりカリキュラムに隔たりが生じてしまう。そうした影響が子供たちの運動能力に反映してしまうわけだ。現在裕史氏が行っている活動は、そうした子供たちが運動能力を高める機会を均等に与えようとするものだ。

 ただ裕史氏としてはアカデミーをもっとジュニア選手たちの運動能力開発の場にしたいという思いもある。

 「本当はスポーツを頑張っているという子供たちが競技を一生懸命やりながら、その上で身体を上手く使えるようにという伸びしろをつくるために(アカデミーを)利用してほしいんです。ただこういう運動が必要だということを理解してもらえないというのがほとんどだと思います。なのでここに来ている子供たちは、何もやっていないけど身体を動かした方がいいのではという子が多いですね。

 僕のイメージでは野球やサッカーをしている子供たちがここでトレーニングしてくれよ、そうしたら子供たちの可能性がもっと広がるんじゃないかと思っているんですけどね」

 高校球児として成功できなかった自身の体験もあり、多くの子供たちが各競技で力を発揮できる素地をつくってあげたい。それこそが裕史氏の願いなのだ。

 昨今子供たちの運動能力低下が叫ばれて久しい。昔は遊びの世界で運動能力や基礎体力を身につけていたのに、現在の子供たちは学校の体育の授業以外で運動する機会が激減しているのが大きな要因だといわれている。そうした日本の社会現象を考えた上でも、裕史氏の取り組みは注目に値するものだ。

 今後全国各地に裕史氏のような人物が登場することを切に願うばかりだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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