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「楽しそうにやってるなって苦笑いされました」古巣・川崎に連勝した晴山ケビンが受け取った最上の誉め言葉

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
古巣・川崎戦連勝に貢献した晴山ケビン選手と背後で見つめる川崎の北HC(筆者撮影)

 先週末に行われたシーズン第23節で、京都ハンナリーズは川崎ブレイブサンダースを本拠地で迎え撃ち、73-69、88-85と連勝し、今シーズン最長の5連勝を飾った。京都にとっては単なる連勝ではなかった。これまでBリーグ発足以来一度も勝利できなかった川崎から奪った初めての勝利でもあったのだ。試合後浜口炎HCは以下のように話し、会心の笑みを浮かべた。

 「やはり伝統のあるチームで、どのチームの選手もそうだと思うんですけど、僕らコーチ陣も含めて、川崎さんは強いというイメージがすり込まれているというか、そういう力を持っているチームです。私たちも2シーズン勝つことができなくて、やっとホームで初めて対戦して、ここで2つとれたということは自信にもなりますし、瞬(綿貫選手)も戻ってきてようやくチームのローテーションも安定してきたので、やりたいことが少しずつできるようになってきたことを考えると、非常に大きな2連勝だったと思います」

 大接戦となった第2戦の勝利が決まった瞬間、コート上で満面の笑みを浮かべていた選手がいた。晴山ケビン選手だ。京都の選手たちも次々に晴山選手のところにやって来て、祝福の声をかけ続けた。チームにとって記念すべき勝利だったのみならず、晴山選手にとってもずっと待ち望んでいた格別の勝利だったからだ。

 「『よかったな』と(声をかけました)。やっぱり移籍してきてね…。そういう気持ちはみんな持っていると思いますし、(古巣に)勝つということはチームとしても大事にしてあげないといけなきゃいけないことです。僕も京都に来て初めてアルバルクに勝っていますし、千葉に対しても勝ったし、そういう意味で京都でいい思いをさせてもらっているので、ケビンに対してもみんなでそういう思いをさせてあげられたのがすごくよかったなと思います」

 岡田優介選手が説明するように、川崎は晴山選手にとって古巣チームだった。東海大学卒業後2015年に東芝ブレイブサンダース神奈川(現川崎)に入団し、Bリーグ1年目の2017-18シーズン終了後にチームから自由交渉選手リストに入れられ、京都に移籍していた選手だ。川崎時代は出場機会にも恵まれず、晴山選手は京都移籍を「拾ってもらった」と表現する。つまり晴山選手にとって川崎戦連勝は日本でよくいわれる、究極の“古巣への恩返し”だったのだ。

 「(川崎に対する特別な思いは)ありましたね。(移籍してきた)去年もそうですし、特に去年の(川崎戦)2連敗はすごい個人的にもダメージがでかかったですし、自分が活躍するというより、自分が成長した姿を川崎のチームやブースターに見せることがある意味恩返しになるんじゃないかなというのが自分の心の中にあって、特に昨日(2月2日の第1戦の勝利)はすごく嬉しかったですね。個人の成績だけで見るとあれなんですけど、活躍させてもらって勝てたというのがすごくでかいですね」

 元々晴山選手は川崎に入団できるほどの逸材だった。高校からバスケを始めたにもかかわらず、恵まれた体格と身体能力を生かし、U-16、U-18で日本代表入りを果たし、大学時代も2度ユニバーシアード日本代表入りに選出されてきた経験を持つ。むしろ川崎時代は伸び悩んでいたという言葉が相応しいだろう。

 それが京都移籍後は浜口HCが積極的に起用し、昨シーズンの途中から先発に定着し、結局59試合(うち44試合に先発)に出場しており、実戦を積みながら着実にその才能を開花させていった。

 その成長は今シーズンも止まっていない。ここまで全38試合に先発出場し、平均得点(5.5→8.4)、平均リバウンド数(2.5→3.9)、平均アシスト数(0.4→1.1)、平均スティール数(0.4→0.7)──とすべての個人成績が昨シーズンを上回っている状況だ。それを物語るように平均出場時間も飛躍的に上昇し(17分30秒→28分58秒)、今や京都にとって必要不可欠な存在にまで成長している。

 今回の川崎戦2試合でも、第2戦(3得点、1リバウンド)は第1戦(12得点、6リバウンド)ほどの成績を残せていないものの、出場時間はいずれも30分前後(第1戦が30分18秒、第2戦が29分34秒)に達している。浜口HCも「出場時間を決めているのではなく、使いたい場面で彼を使っているうちに自然とそれだけの時間になっている」と信頼感を口にする。また岡田選手も「攻守ともにチームにとって欠かせない選手になってきていると思います」と賞賛を惜しまない。

 もちろん晴山選手自身も、その成長を実感できている。だが現状に満足しているわけではなく、さらに高みを目指している。

 「正直徐々に成長しているという自覚はあります。でも今がゴールではないので…。前にもいいましたけど、(試合終了の)ブザーが鳴る時にコートに立っていられる選手になれることを常に目指し続けるというので、今の自分を最低限にして、もっともっとパフォーマンスをよくして、シュートだけの人間だけにはなりたくないので、ディフェンス、リバウンド、ルーズボールだったりを徹底してできる選手を目指していきたいです」

 だからといって、ここまで順調に成長してきているわけではない。今シーズンも昨年末からチームが5連敗を喫していた時は、自分のプレーを見失いかけていた。それを毎日500本以上のシュートを打ち続け、ネガティブなイメージを払拭していったという。そうやって試合で成功、失敗を繰り返し、課題を克服しながら一歩ずつ階段を上がっているのだ。

 京都移籍後の晴山選手の成長ぶりは、古巣の北HCも十分に認識しているようだ。

 「さっき(第2戦が)終わってから話をしました。『なんか楽しそうにやってんな』って苦笑いされていわれました(笑)。ただ北さんには、今の自分があるのは東芝で出られなかった時の気持ちだったり、地道な練習だったり、そういうのがあるからこそ今の自分に繋がっているので感謝しますというのを伝えさせて頂きました」

 北HCのみならず、川崎の元チームメイトからも一様に、晴山選手が楽しそうにバスケをしている姿を指摘されたという。それほど古巣からは現在の晴山選手が輝いて見えていたということなのだろう。

 試合のコートに立ち続け、日々成長を実感できるようになった晴山選手。“リアル桜木花道”と呼ばれてきた男の真骨頂はこれからだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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