【検証】なぜ大坂なおみ選手の誤訳報道が起こってしまったのか?

大坂なおみ選手の発言を一言一句聞き取るのは相当の英語力が必要だ(写真:ロイター/アフロ)

 大坂なおみ選手の選手のメインスポンサーであり、所属先の日清食品が製作し、公開したPRアニメ動画が海外メディアから同選手の肌の色を変えていると報道されたことで、すぐに削除されるという騒ぎになった。全豪オープン期間中だった大坂選手も記者会見でこの件について発言していたが、日本の複数メディアが彼女の発言を誤訳してしまい、訂正する事態が起こった。

 ことの顛末は『ハフィントンポスト日本版』が報じている通りだが、自分もYahoo!ニュース上に時事通信の記事が公開された際、大坂選手の発言を一方的な捉え方をしていると感じ、オーサーコメントで指摘させてもらっている。

 全米オープン、全豪オープンと四大大会連覇を達成し、今やその注目度が世界レベルに達している大坂選手だけに、こうした誤訳は決してあってはならないことだ。

 ただその一方で、日本メディアも含めすべて英語で対応する大坂選手の取材は簡単なことではない。ネイティブ・スピーカーでもない限り、会見での彼女の発言を一言一句しっかり理解するのは至難の業だ。たぶん現場で取材する日本メディアでそれほど高い英語力を有している人はごく少数だろう。誰しも誤訳してしまう可能性があるからこそ、細心の注意を払うべきだった。しかも今回の発言が競技ではなく、人種問題に絡んだものだっただけに尚更だ。

 実は現場の記者たちがしっかり取材の手順を踏んでいれば、今回のミスは起こらずに済んでいた。というのも、全豪オープンのような大きな大会になると、公式会見場で実施される記者会見はメディアの質問から選手たちの答えまですべてを文字にしたスクリプトがメディアに無料配布されるからだ。もしそれを入手できなかったとしても、スクリプトを作成する企業(『ASAP Sports』)が同社サイト上ですべて公開しているので、必ずチェックすることができるのだ。

 大坂選手の会見も公式会見場で実施されたもので、現在も同社サイトで誰でも大坂選手の発言のすべてを確認することができる。つまり記事を配信する前に記者たちが念のため大坂選手の発言をスクリプトでチェックしていさえすれば、事前に誤訳に気づいていたはずなのだ。

 自分も米国で取材していた時代は通信社の仕事をしていた過去があり、通信社や大手新聞社が少しでも早く記事を配信したいと考えているのは理解している。早く記事を仕上げて社に送りたいという焦りもあり、スクリプトをチェックすることはしなかったのだろう。

 しかも大坂選手の英語は発音が非常に美しく、日本人にも非常に聞き取りやすいのだ。会見内容をレコーダーで録音して聞き返せば、海外で取材している記者ならば大まかな意味は把握できるはずなので、今回も十分に理解できていたという過信が多少なりともあったのかもしれない。だが残念ながら今回のミスは、明らかに現場記者の不手際といわざるを得ない。

 以前の大坂選手は日本メディアに日本語で対応している時期もあった。だが彼女の日本語力で自分の思いをすべて伝えるのが困難なのは明らかだ。だから日本メディアにも英語で対応するようになったのも、大坂選手なりのメディアに対する真摯な姿勢なのだ。そうした彼女の思いをしっかり伝えるためにも、発言内容のチェックは必要不可欠なことだ。

 今後も世界中から大坂選手の一挙手一投足に注目が注がれるのは必至の状況だ。これからもメディアを通じて彼女が誤解されるようなことが絶対にあってはならない。

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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