大坂なおみだけではない! 今や日本スポーツ界を牽引する多様人種アスリートの存在を考える

全豪オープン決勝を前につまらない騒動に巻き込まれてしまった大坂なおみ選手(写真:Shutterstock/アフロ)

 昨年の全米オープンに続き、今年最初のグランドスラムである全豪オープンでも日本人初の決勝進出を果たした大坂なおみ選手。彼女の所属企業である日清食品が、同社のPRアニメ動画に登場する大坂選手の肌の色を変えていると『New York Times』紙が報じたことで、ちょっとした騒動になった。

 今回は日清食品も大坂選手に直接謝罪し動画も削除したことで、これ以上騒ぎが拡大することはないと思うが、あまりに軽率だったといわざるを得ない。結果的に大事な決勝を目前にした大坂選手を騒動に巻き込んでしまったのだから、所属企業として何一つ彼女のサポート役を果たしていない。

 準決勝後に行われたインタビューで外国人メディアからこの件について質問され、最初大坂選手は「今は大会に集中していて、決勝に進出したことが最も重要なことなので」として回答を控える素振りを示していたのだが、結局は慎重に言葉を選びながら質問に答えている(動画参照)。今はテニスに集中したい彼女からすれば、煩わしい騒ぎだったはずだ。

 日本のメディアの中には、大坂選手が今回の件について「あまり気にしていない」と発言したと報じているようだが、的確な表現ではない。この訳に相当する彼女の言葉は「don't pay too much attention」であり、「don't care」ではない。あくまで「気にしていない」というよりも、「意識を向けないようにしている」という方が正しいだろう。

 もちろん大坂選手が日清食品に対して寛大な姿勢を示しているのは間違いないが、以下のコメントから今回の件で多少なりとも憤り、失望を感じていることが理解できるはずだ。

 「すでに彼らと話をして謝罪を受けています。ただ自分としては明らかに褐色の肌をしています。それは明白ですよね。彼らが故意に肌の色を薄めるようなことをしたとは思っていませんが、彼らが自分を使って今回のようなことをすることがあるのなら、しっかり自分を含めて話し合うべきだと強く思います」

 実は今回のインタビューの最後に日本人メディアから父親の存在について聞かれ、大坂選手は「精神安定剤であり、自分にとって最も身近な存在」だと答えている。結果的に日清食品が行った行為は、故意でなかったとしても彼女の褐色の肌を否定することになり、ひいては父親の存在を否定されるようなものなのだ。その心中は察するに余りあるだろう。

 残念ながら日本社会全体が今も尚、こうした人種問題に関してかなり疎すぎる気がしてならない。もしこの騒動が海外で起こっていたとしたら、日清食品はとんでもない非難を浴び、経営すら危うくなっていたかもしれない。米国では今でも人種問題を巡って、トランプ大統領と黒人トップアスリートたちの間でいがみ合いが続いている。それほどスポーツ界での人種問題は社会から注目されているのだ。

 大坂選手のように世界から注目されるアスリートになれば、海外メディアも常に彼女に関連したニュースに目を光らせている。もう日本の国内スタンダードだけで対応するのは困難になっている。これはスポンサー企業ばかりではなく、そうしたアスリートを応援する一般の人たちにもいえることだろう。

 すでに日本のスポーツ界は多くの多様人種アスリートが台頭し、競技によっては彼らが中心になって牽引してくれている状況だ。特にバスケ界では、現在米国留学中の八村塁選手(父がペナン人で母が日本人)が今年のNBAドラフトに申請するようなことになれば、日本人初の1巡目指名が確実視されており、夏以降は大坂選手以上の盛り上がりをみせる可能性が高い。

 また9月に始まる日本初開催のラグビー・ワールドカップでは、日本人の血を受け継いでいない外国出身の選手たちも日本代表として日の丸を背負う。さらに来年開催される東京五輪でも、多くの多様人種アスリートが日本代表として出場することになるだろう。もう日本のスポーツ界は、“単一民族”という発想では成立できなくなっているのだ。

 昨年大坂選手が全米オープン初優勝を飾り日本人初の快挙と日本中が沸き上がる一方で、ネット上では「父が外国人」「日本に住んでいない」「日本語を話せない」など、大坂選手の“日本人性”を疑う声が上がっていた。だがこうした声も、これまでの国内スタンダードに囚われすぎているからではないだろうか。

 前述通り、日本国内ではラグビー・ワールドカップ、東京五輪という世界的なスポーツイベントを控えている。今回の日清食品の失敗を他人事だとは考えず、民族、言語、宗教などの枠を超えて日本代表として世界で戦うアスリートを純粋な気持ちで応援し、彼らが日の丸を背負うことを誇りに思えるようなサポート態勢や環境が整うことを願うばかりだ。

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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