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強豪チームへと脱皮を目指す大阪エヴェッサが乗り越えようとしている壁

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
今シーズンからチームの指揮をとる穂坂健祐HC(右・筆者撮影)

 今週からシーズン後半戦に突入したBリーグ。大阪エヴェッサはホームで京都ハンナリーズと対戦し、58対67で逆転負けした。試合後ブースターの前で挨拶に立った穂坂健祐HCだったが、司会者の質問になかなか言葉が出てこない状態だった。その表情からも落胆しているのは明らかだった。

 年末年始は栃木ブレックス、琉球ゴールデンキングスの強豪2チームから勝利を挙げ、チーム状態を上げながら前半戦を終えていた。さらに先週の天皇杯バスケ準々決勝で京都相手に大敗を喫していただけに、穂坂HCとしても京都に雪辱を果たし、最高のかたちで後半戦をスタートさせたいという思いが強かったはずだ。

 「まったく納得できないですね。絶対に勝ちたいと思ってましたし、それ(京都戦)に対して(選手も)しっかり準備していたと思いますけど、結果的にその準備が全然足りていなかったというところが今の大阪らしいチーム力なのかなと思います」

 穂坂HCの勝ちたいという気持ちは采配にも表れていた。試合の流れが悪くなり始めると、早めにタイムアウトをとり選手たちが崩れてしまわないように細心の注意を払っていた。その甲斐あって前半は自慢のディフェンスが機能し、35対29と狙い通りのかたちで前半を終えることに成功した。

 しかし後半に入ると、徐々に京都に主導権を奪われていった。やや攻撃力が上がった京都に対し大阪は逆に決め手がない攻撃が目立ち、そこからは粘り強さも消え逆転を許し、そのまま点差を広げられてしまった。この日はチームの得点源のエグゼビア・ギブソン選手と合田怜選手の2人が負傷のため欠場していたというハンディもあったが、第4クォーターの得点が9点に留まったのはチームとしてのオフェンスが機能していない証拠だった。

 「自分もあの状態(試合後のコート上挨拶)の時にどういうコメントを言ったらいいのか結構真っ白で、怒りが込み上げてくるわけではないですけど、何やってんだというか、後半残り29試合になってまた同じようなこれまでの負けパターンで…。

 自分たちの負けパターンはシュートが入らない、特に3ポイントが入らない場合負けてるパターンが多いと思うんですよ。逆にシュートが入ればそれはそうなんですけど、勝っているパターンが多いと思うんですけど、それが不安定すぎてワイドオープンはできると思うんですけど、それに関しては選手は打ち切るしかないので、そこはプッシュしていくしかないと思うんですけど…。

 強いチームとなかなか勝てないチームの差っていうのは、そういった1本1本のシュートの精度だとか質だとか、無駄のないプレーだったりが少ないと思うんですよね。うちはまだまだそういったかたちで全員が関与している、もしくはいいかたちのフロアバランスでプレーを遂行できるというポゼションが余りに少なすぎると思うので、しっかり作り上げていく必要がありますね」

 昨日(16日)本欄で、今シーズンは強豪チームの仲間入りをした感がある新潟アルビレックスBBについて報告させてもらったが、今シーズン新潟が強くなった要因は、試合の流れ、相手チームの状況に合わせて戦い方を適応できるバスケットIQの高さといえる。

 残念ながら現在の大阪は、強豪チームと互角以上の戦いができるチーム力は身につけ始めているが、まだ試合の流れや相手チームの状況を考えながら戦う余裕はない。まさにそれこそが強豪チームへと脱皮するための乗り越えなければならない大きな壁なのだ。後半戦で大阪に求められることは、特にオフェンス面でどんな状況でも自分たちの力をしっかり発揮できる安定感だ。

 「まあ誰かしらエースが出てこないと厳しいです。誰かが絶対に、この選手にボールを預けた時に点をとりきる力だとか、局面の状況に関してはチームというより個で打破しないといけないという部分がすごく重要だと思いますし、そういった時に託された選手が最後シュートを決めきる力だとか、また他の選手がその選手に対して寄っていった中で、その選手にパスを出した後に次の選手が決めきる力だとか、そういった部分でいいかたちでギャップを大きくしていかないと…。いつまでたってもバラバラな状況で、じゃあ誰がこのチームは点をとるんだという状況になってくると思うので、それは良くないと思いますね」

 現在の大阪にどんな局面でもボールを託せる絶対的なエースは存在しない。だが試合ごとに調子のいい選手を見極め、その選手にワイドオープンでボールを打たせる状況を演出するシステムは構築できる。その点はどんなプレーをデザインできるか穂坂HCの手腕も必要だし、後は選手たちが流れが悪くなった時にチーム全体で打開策を見出していく力を備えていくしかない。

 これまで長年スポーツの現場で取材を続けてきて、どんな競技に限らず1つのチームが強豪チームに変貌していく姿を間近に目撃できることくらい至福の時はない。果たして大阪は後半戦で壁を乗り越えることができるだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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