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実は自業自得だった? チーム解体&再建せざるを得なかったマリナーズGMの功罪

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
GM就任後若手有望選手を次々に放出してきたジェリー・ディポトGM(写真:ロイター/アフロ)

 今オフのマリナーズのチーム解体作業が凄まじい。すでに次々にトレードをまとめていき、主力選手たちを放出し続けている。

 ここまで先月8日にマイク・ズニーノ選手とギエルモ・ヘレディア選手をレイズにトレードしたのを皮切りに、ジェームス・パクソン投手(ヤンキース)、アレックス・コロメ投手(ホワイトソックス)、フアン・セグラ選手、ジェームス・パゾス投手、フアン・ニカシオ投手(いずれもフィリーズ)、ロビンソン・カノ選手、エドウィン・ディアス投手(いずれもメッツ)──が放出されている。

 こうした解体作業を断行しているのが、チーム編成の責任者であるジェリー・ディポトGMだ。2015年9月に同職に就任以来、2001年以来のポストシーズン進出を目指してきたが、それに伴い年俸総額も高騰化を招き昨シーズンはMLB8位まで上がってしまった。地方都市を本拠地としてマーケット力に限界のあるマリナーズが、このまま資金力が潤沢なマーケット力のある強豪チームに対抗し続けるのはかなり難しく、遅かれ早かれチーム解体&再建へとシフトチェンジしなければならない状況だった。

 ここまではすでに本欄でも指摘させてもらっているが、実はマリナーズがチーム解体&再建に踏み出さなければならなかったのは複合的な要因があったようだ。そこにはディポトGM自らが犯してしまった大きな功罪も隠れていた。

 米国ではマイナー選手やアマチュア選手など有望選手の分析、評価で定評のある『Baseball America』が同サイトに掲載している記事によれば、ディポトGMは就任以来即戦力選手を獲得しチーム補強を進めていく一方で、その見返りとして計55人の若手有望選手を次々に放出していったということだ。その中にはライアン・ヤーブロー投手(レイズ)、フレディ・ペラルタ投手(ブルワーズ)、ライアン・オニール選手(カージナルス)のように、すでにメジャーに定着し始めた選手も含まれている。

 繰り返すがマリナーズのように資金力の限られたチームは、FA市場で資金力が潤沢なチームに対抗するのは難しい。そうなると実績ある選手を補強するには、若手有望選手を見返りにトレードによって獲得するという道しかなくなってしまう。そうした補強を繰り返したことで、マリナーズのファームシステムは徐々に崩壊していった。それを裏づけるように、MiLB(マイナーリーグの略称)公式サイトで発表している「2018年ファームシステム・ランキングによれば、マリナーズは総合で最下位(野手部門28位、投手部門30位)に沈んでいるのだ。

 つまりマリナーズは年俸総額で厳しい状況に置かれていたのみならず、選手補強したくてもトレードをまとめるために必要な若手有望選手もいなくなっていたのだ。また若手有望選手が少ないということは、将来的にメジャーに昇格できそうな新戦力の台頭も期待できないことを意味している。どう見ても完全な袋小路状態にあったといわざるを得ない。

 これ以上の選手補強が難しい状況になったのであれば、マリナーズの場合まずは再びファームシステムに若手有望選手を揃えることが優先される。それを短期間で実現するには、今度は主力選手を犠牲にしてトレードで獲得するしかない。現在マリナーズが推し進めるチーム解体&再建は、これまでディポトGMが行ってきた補強策をまったくの反対方向にシフトチェンジしたということなのだ。

 本来なら選手補強とファームシステムの充実はバランスを保ちながら行っていくべきものだ。マリナーズが現在のような事態に陥ってしまったのは、ある意味ディポトGMのバランスを欠いた編成プランの代償といってもいいのではないだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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