「自分なりに真摯に投票した」 新人王でたった1人だけ大谷翔平に投票しなかった記者から届いた説明

日本人選手として17年ぶりに新人王を受賞した大谷翔平選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 いよいよ米国ではMLBの2018年シーズンの各賞発表が始まった。その皮切りとなった最優秀新人賞(いわゆる新人王)で、大谷翔平選手が大方の予想通り、ア・リーグの新人王に選出された。日本人選手としては2001年のイチロー選手以来、4人目の快挙となった。

 今さら説明する必要はないと思うが、新人王をはじめMVP、サイヤング賞の各賞は、全米野球記者協会(BBWAAに所属する記者の投票によって決定される。例えばア・リーグの新人王の場合、ア・リーグ15チームを担当している記者からそれぞれ各チーム2人ずつが選ばれ、計30人の記者が投票を行う。各記者は1位から3位までの選手を選び、投票された選手はそれぞれ順位に合わせて5ポイント、3ポイント、1ポイントが与えられ、総合ポイントで争われる。

 受賞選手が発表されるのと同時に、投票結果もBBWAA公式サイトで公開される。それによれば、今回の大谷選手は30人の記者のうち25人の1位票、4人の2位票を獲得しており、2位に入ったミギュエル・アンドゥハー選手(1位票5人、2位票20人、3位票4人)に48ポイントの大差をつけて堂々の選出だった。

 ちなみにスプリングトレーニング中に大谷選手の実力について「打撃はまだマイナー選手レベル」だと懐疑的な見方を示し物議を醸し出した後、シーズン開幕後にセンセーショナルなデビューを飾った大谷選手に対し記事上で公開謝罪していた『Yahoo!スポーツ』のジェフ・パッサン記者も新人王の投票権を得て、大谷選手に1位票を投じている。

 さて改めて投票結果に目を転じると、前述通り計29人の記者が順位に関係なく大谷選手に投票している一方で、たった1人だけ大谷選手に投票していない記者が存在しているのだ。

 その人物とは、普段レイズを取材している『レイクランド・レジャー(Lakeland Ledger)』紙のディック・スキャンロン記者だ。彼が選んだ選手は、1位アンドゥハー選手、2位ジョーイ・ウェンドル選手、3位ライアン・ヤーブロー投手──の3人。2位以下の2選手はいずれもレイズの選手で、ヤーブロー投手に投票したのはスキャンロン記者1人だけだった。

 スキャンロン記者は、個人的にも良く知る人物なのだ。自分がオーランドに在住していた時期にオーランド・マジックの取材をしていた際、一緒に取材していた番記者の1人だ。その後ロサンゼルスに居を移した後も、日本人メジャー選手の取材でレイズ戦に顔を出す度に、常に声をかけ合う間柄だった。時には彼の方から日本人選手について質問してきたこともあり、いろいろ解説させてもらったこともある。

 そこでスキャンロン記者にメールを送ったところ快く協力してくれ、その投票理由を説明する長文の返信が届いた。ここですべてを紹介するのは難しいので、抜粋してお届けしたい。

 「自分1人だけオオタニに投票しなかったことが、何か公正を欠き、偏りのある怠慢なものでなかったのではという疑いが生じていることを理解している。だがそうした誤解について自分ができることはないし、自分なりにしっかり投票しなければならなかったのは間違いない。

 自分として投票権を得られたことを光栄に感じたし、自分なりに真摯に投票をおこなった。シーズンの最終月はできる限り客観的に選手の貢献度を検討しながら時間をかけ思いを巡らした。今でも自分の投票に納得しているし、それに基づく批判も受け入れるつもりだ。

 ただ正直にいってオオタニが選出されたことに驚きを感じている。というのも自分の中の評価基準において、オオタニは負傷により長期間欠場したからだ。自分としてはミギュエル・アンドゥハーが受賞すると思っていた。だが投票者のほとんどが自分とは違う意見でオオタニに投票した。心からオオタニの受賞を称えたいと思う。

 こうした個人の賞について考える上で、自分は選手たちがシーズンを通してどれだけチームの勝利に貢献したかに注目するようにしている。だからといって故障した選手や勝てないチームに所属している選手を完全に除外しているわけではない。ただ選手を比較する上で検討用として考慮には加えている。

 オオタニが今後も二刀流を続けていき、2018年のすべての新人選手の中で最も輝かしいキャリアを積んでいったとしても何の驚きもないし、それだけ素晴らしい選手だと感じている。だが今回は彼の才能や将来性について投票しているのではなく、新人としてプレーした今シーズンの成績のみで評価されるものだ。

 多少説明を付け加えるならば、自分はオオタニを投票対象から外そうと考えたことは決してなく、ただ投票できる選手が3人しかいなかったということなのだ」

 実は自分も、スキャンロン記者と似たような境遇になった過去がある。2010年にナ・リーグ新人王の投票を任されていたのだが、自分1人だけが新人王を受賞したバスター・ポージー選手に投票しなかったのだ。その投票結果を受け、ジャイアンツの地元紙やAP通信の記者から投票理由を確認したいとの問い合わせが届いた。

 もちろん連絡を受けたことで、しっかり説明させてもらっている。自分が選手を選んだ選考基準は“シーズンを通して”活躍したかに重きを置いたということ、そしてポージー選手がメジャー昇格したのは5月下旬で2ヶ月弱の間はメジャーに在籍していなかったこと、そこで自分としては怪我なくシーズンを戦い活躍した3選手を選んだ旨を伝えた。今でも彼らには納得してもらえたと思っている。

 こうしてスキャンロン記者の投票理由を確認でき、彼が自分と似たような考え方をしていることが理解できた。たぶん自分が今シーズンの投票権を得ていたとしても、スキャンロン記者と違い100%大谷選手に投票するとは思うが、素直に1位票を投じていたかは正直今でもブレブレの状態だ。

 投票権を得た記者は誰に投票しようとも批判されるべきものではないし、その投票理由は一様に尊重されるべきだ。自分もスキャンロン記者を批判するために、彼のコメントを紹介しているわけではない。日本人にはなかなか納得してもらえないかもしれないが、スキャンロン記者のような意見があることも理解して欲しい。

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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